ep.42 〈影の道〉の暗殺部隊
転移門が一際眩い光を発した。シルクが裂かれるように虚空に裂け目が生じ、そこから武装した人影が躍り出てきた。その数六人。
檻の中からいぶかしげに見ているグリオハンは、別段驚く様子もなく、残った眠気を欠伸で追いやる。
「なんだ。大騒ぎするから何かと思えば、六人ぽっちがなんだと言うのだ」
グリオハンは狭い檻の中であぐらをかいて頬杖をつき、現れた六人を眺める。猫背になってもなお、頭が檻の天辺をこすっている。
六人は一様に、煤のように黒い軽鎧に身を包み、目元以外、すべて黒い布で覆っている。背中に刃渡りのやや短い小回りの利く剣をX字に差している様は、まるで巨大な撃墜マークを背負っているかのようだった。
その風貌こそ異様ではあるが、実際、グリオハンの言うようにオークのクランの人数に慣れた目には、それほど脅威に映らない。
「まぁ、たしかに人数的にもこんなもんかと思いますね」
拍子抜けしているのはアーダンも同様だった。そんな中でシオだけはいまだ恐怖におののき、檻の隅で縮こまっている。檻さえなければ一目散に逃げているだろう。
「何言ってんですか! あれはただのギルドの構成員じゃありませんよ! 〈葬送〉って呼ばれてる殺し専門の連中ですよぉ!」
シオの戦慄を裏付けるように、次の瞬間に、オークの戦士たちの首が六つ、同時に宙に舞い上がった。篝火の中で流星のように、オークの頭部が赤い尾を引いて落ちる。
一同が絶句する。
「もう終わりだああぁぁぁぁっ!」
シオが頭を抱えて震え出した。
〈葬送〉の六人は隊列を組むようにひと固まりとなり、状況を見定めている。探しているのは間違いなくシオのはずだが、侵入者を排除しようとするオークの集団が彼等の前に立ちはだかっている。
「おい、シオ! そんなところで悲観してる場合か! 今こそ錠前を破るチャンスだろ!」
ファイレナが檻をバンバンと叩く。
「そ、そうか! ま、ま、待っててくださいっ!」
シオは錠前へ這い寄り、裾の間に仕込んでいた針金を取り出し、鍵穴に滑り入れた。
しかし、恐怖と焦りで指が震え、いつも通りにいかない。
「ああああっ! くそっ!」
「落ち着け! シオ! おまえは寺院の宝物庫にも忍び込んだ一流の盗賊だろ!」
「嫌なことを思い出させますね」
アーダンがボソリと呟く。
シオが両手を振って息を吐き、気を取り直して再び錠前破りに挑んだ。すると、驚くほど簡単に錠が開いた。
「よしっ!」
檻を出るなり、シオは残りの三つを素早く見回した。どれから開けるか。
「おい! チビスケ!」
真っ先にシオに声をかけたのは意外にもグリオハンだった。
「窮屈でかなわん。さっさとこの忌まわしい檻の鍵を開けろ」
シオが一度、背後を振り返る。〈葬送〉は殺到するオークの戦士たちに相対しているが、いつこちらに気付くかわからない。
シオはグリオハンの檻の錠前に飛びついた。
「グリオさん、連中から私を守ってくださいよ! 約束してくれないと開けませんから!」
素早く、だが、繊細な指使いで錠を弄りながら、シオはグリオハンを見やった。檻越しにグリオハンと目が合う。
「都合がいい。ちょうど、鬱憤を晴らしてやりたいと思っていたところだ」
金属のかみ合う音が鳴り、グリオハンの檻が開いた。
「シオっ!」
ファイレナが危険を知らせる声を飛ばした。シオの背後に、黒づくめの刺客の影が覆い被さる。シオの首にするりと革紐が巻き付いた。
「うぐっ!」
「見つけたぞ。裏切り者め」
刺客が囁く。意識を奪うのも命を奪うのも力の掛け方次第。この場合は前者だ。〈葬送〉の目的はあくまで生け捕りである。
そこへ、丸太のような太い腕が槍のように飛んだ。グリオハンの手だ。その手は刺客の顔面を乱暴に掴み、シオが首を絞められていることなどお構いなしに、地面へ引きずり倒した。
首元の自由を取り戻したシオが、地面を這って刺客から離れる。
「よくも、我を獣のように檻なぞに入れてくれたな! 覚悟はできておるだろうな!」
グリオハンは満ち満ちた憤懣を握力に変え、掴んだ刺客の頭蓋をメリメリと締め付けた。まるで林檎でも潰さん勢いだ。
「閉じ込めたのはオークですけどね! もう、この際どうでもいいですけど!」
その隙に、シオがファイレナとアーダンの錠を開けにかかる。
グリオハンは鉄製の檻の角に刺客の後頭部を何度も打ち付けていた。その怒りの発露は、刺客がぐったりした後も二、三度余分に打ち付けて、ようやく止まった。
その間に、ファイレナとアーダンが続けて檻から這い出てくる。
「シオ! 奪われた装備を取り戻すぞ! 誰よりも早く、な!」
ファイレナがシオの背中をバシッと叩いて駆け出した。
「わかりましたっ!」
シオがそれに続く。
それを横目に見たアーダンがチッと舌を打った。魂砕きの短剣を先に手にしようと目論んでいたのだ。
「まったく。抜け目がないのはさすがですね、ファイレナさん。仕方がない。もうしばらくは付き合って差し上げましょうか」




