ep.34 超高額賞金首
「何をそんなに驚いている?」
一方、ピンときていないグリオハンである。
説明はアーダンが請け負った。
「犯罪者やお尋ね者を社会から排除するために、こうやってその首に賞金をかけるのです。賞金が高い方が当然、いろんな人間が追うことになります」
そこにファイレナが補足を加える。
「ただし、賞金が高いってことは、その首を獲るのが難しい危険人物ってことになる。つまり、かけられた賞金額で、その賞金首のヤバさが計れるってわけ」
「それでこの金額です。一体、何をしたらこのような額に……」
アーダンは枯れた喉で、沸かない唾をゴクリと飲み込んだ。
「ご、誤解ですよお! 私はそんな極悪人じゃありませーんっ!」
シオは全力で首を左右に振った。
「だったら、どうしてこんな賞金がかかるんだよ!」
ファイレナがグリオハンから手配書を奪ってシオにつきつけた。
「うう……」
「今だから言わせてもらうけど、おまえは初めて会ったときから不審だった。ただの手癖の悪い冒険者かもしれないから見逃してきたけど、こんなことがあってはそうも言ってられない。話してもらうぞ」
シオとファイレナが睨み合う。シオがちらりとアーダンを見た。アーダンの突き刺すような視線はファイレナと意思を同じくしていることがうかがえる。
一方、グリオハンは何を考えているか読めない目をしていたが、シオにとって味方になり得ないことだけは確かだった。
シオの目がファイレナの腰元にささった魔術杖に移る。ファイレナは精神魔法を使える。本気のファイレナを前にして嘘を吐き通すのはまずもって不可能である。
「はぁ……わかりました。すべてお話しします」
シオは観念して正座した。
「まず、断っておきたいのは、私は人殺しとかで賞金首になったわけじゃないってことです」
そう話し出して、シオは自身が首に巻いているスカーフに触れた。
「おそらく、その賞金がかかっている理由のほとんどはこれだと思います」
「はぁ? スカーフ? そのなんの変哲もないスカーフが?」
「ファイレナさんが見てもなんの変哲もないスカーフに見えるくらい、これは凄いものなんです。私はこれを奪って組織を抜け出しました」
「なぞなぞか? どういうことだよ?」
「まぁまぁ。順を追って話しますよ」
「窃盗と逃亡。それだけでこの金額に行くなんて信じがたいですけれどねぇ」
アーダンが眉を潜めると、シオはこくりとうなずいた。
「私がいた組織は盗賊ギルド〈影の道〉。そして、このスカーフは夢渡りのスカーフというギルド長秘蔵の品です」
「はぁ⁉ 〈影の道〉ですとっ⁉」
アーダンが大袈裟なくらい仰け反った。
「聞いたことはないな」
グリオハンが首を傾げた。
「当たり前だろ。おまえは山にこもってたんだから。でも、私も聞いたことがない」
「盗賊たちの組織は世界にいくらでもありますからね。聞いたこともないギルドなんてざらにありますよ。表に名前の出てこない組織ならなおさら」
「おまえは詳しいんだな。アーダン」
ファイレナが皮肉めいた目を向ける。
「ヴァルディラではそれなりの地位を築いていましたからね。怪しげな輩が近づいてくることだって、一度や二度ではありませんでしたし」
ファイレナは行儀悪く胡坐をかいてその膝の上に頬杖をつく。
「その口ぶりだと決して褒められた組織じゃなさそうだけど」
アーダンは神妙にうなずいた。
「〈影の道〉は、数ある盗賊ギルドの中でも、道理の通用しない危険な組織として知られています……おっと、このあたりはシオさんに話してもらった方がいいですよね」
アーダンは出しゃばったとばかりに、軽く握った拳を口元にあてがう。
「はい。アーダンさんの言うことは間違ってません。〈影の道〉は非道な組織です。鍵開けの腕を買われて加入した私はそのことを知らず、すぐに後悔しました」
あのいつも元気いっぱいのシオの声が、いつになく沈んでいる。本当に後悔している様子が見てとれる。
「私は絶対、人殺しや残忍なことはやらないと決めていました。組織には私と同じ気持ちの人たちも少なからずいて、そういう人たちと協力して組織の中を生き抜きました」
風が止んだ。まるでシオの昔話を黙って聞くように。
「ある日、そんな人たちだけ集められて仕事を与えられたんです。貴族の屋敷に忍び込む盗みの仕事です。気の合う仲間同士での仕事とあって少し嬉しくもありました。ですが、その仕事が失敗したんです。計画がバレてたみたいで。仲間はみんなそこで命を落としました」
シオの目に涙が溜まっていく。
「私は仕事の失敗を報告するため、ひとり生かされました。逃げ延びてギルドに戻った私に待っていたのは、裏切り者の烙印です。思えば、最初からおかしかったんです。あれは、私たち生ぬるいギルドメンバーを粛清するための組織の罠だったんです」
シオは涙を拭って首に巻いたスカーフを握る。
「どうせ殺されるならと思って、死ぬ気でこれを盗んで組織を抜け出したんです」




