ep.32 素性の知れない旅の仲間
「急にどうした?」
ファイレナが眉間にしわを刻む。その反応に今度はアーダンがしわを刻んだ。
「おふたりは何も考えなかったのですか? 彼女がどこからやってきたのか」
「あのチビ助が何者なのかに興味などない」
「そりゃ、グリオさんはそうでしょうけれど、ファイレナさんはどうなんです?」
「いや、ずっと得体の知れないやつだとは思ってた」
「でしょう?」
アーダンは神妙に何度もうなずいた。
「先ほども、見ましたか? 気付いたら盗賊団のリーダー格の男の背後を取って制圧しておりましたよ。あれは手練れの動きです」
「私たちを囮にして、おまえのとこの宝物庫に忍び込んで、一番大切にしていた短剣も盗み出してたもんな」
アーダンは思い出したくなかったのか、苦々しい表情を浮かべた。
「あなたたちが持ってきた短剣と香炉。あれも、盗み出したものです」
アーダンは手ごろな岩の上に腰を下ろした。
「別に盗賊だろうが斥候だろうが構わないのです。腕利きならなおさら。ただ、無用なトラブルを呼び込まないか心配でならないのです」
グリオハンはいまいちピンときていない。ただ、しかし、ファイレナはアーダンの心配を共有できる。
「盗賊なんて裏稼業の連中は、どこと繋がってるわからないもんな。そう簡単に信用しちゃいけない類のもんだっていうのは、その通りだ」
「ええ。グリオさんたちと初めて会ったときも、追っ手に追われていたというではありませんか。もし、如何わしいギルドの揉め事に関わってるような人物だったら、面倒極まりありません」
「そんなに心配なら、ここで殺しておけばいい」
グリオハンが戦斧を握る。
「そういう短絡的な話をしているわけではありませんよ!」
アーダンは慌ててグリオハンをなだめた。
「ともかく、シオさんのことは必要以上に信用しないように。そして、少しでも怪しい動きをしないか、目を光らせておきましょう」
◇◆◇◆◇◆◇
焚き火の炎で焼かれる肉の匂いが漂う。
「まだ食えぬのか?」
肉が焼けるのを待つのが煩わしいグリオハンが苛々としながらシオを睨み付けた。
「もうちょっと火を通した方がいいですよ」
宣言どおり、シオは近くの藪の中で獣を一頭仕留めてきた。鹿の仲間と思われる双角の草食獣で、馬車を襲った盗賊が置き忘れた弓を拝借して狩ったものだ。
シオはそれを見事なナイフさばきで解体し、串焼きとして焚き火の周りで焼いていた。
シオはナイフはもちろん、弓の扱いにも長けていた。おまけに野営の知識と技術も一通り熟知している。旅の仲間としては心強い存在だった。
「生でも構わんのだ。なぜいちいち火であぶる必要がある」
「グリオさんはもうドラゴンじゃないんです。生肉食べてお腹壊すかもしれないじゃないですか。だからちゃんと火を通すんです」
「生なんかで食べるよりもちゃんと火を通した方が美味でしょうに。ねぇ?」
アーダンがファイレナに水を向けた。
「私、肉を食べないし」
ファイレナは素っ気ない。
「そう思って! ちゃんと木の実も果実も採ってきましたからね!」
シオが膨れ上がった袋をファイレナの前に置いた。
ファイレナは袋を受け取って中を覗く。その中から緑色の柑橘系の実を取り出して匂いをたしかめた。ちゃんと食べられるものだ。皮ごと齧ってみると、皮は苦くて中の実は強い酸味と仄かな甘さがある。うまいとは言い難いが、食べられないほど酷くもない。
「ありがとう。気が利くな」
「どういたしまして!」
お礼を言われて嬉しそうなシオである。ファイレナは静かにその様子を見ていた。
シオは明るく朗らかで、人当たりもいい。他人への配慮もできるのは、周りに細かく気を配っているからだろう。見た目には如何わしいギルドと繋がりがあるようには到底思えない。心配事がこちらの杞憂だといいが。
ファイレナはもう一口果実をかじった。主張する苦味と酸味。その中に甘みを探した。
就寝時は、四人がそれぞれ一回ずつ交代で見張りを担当することになった。当然、最初が一番人気。その次は最後が人気。睡眠が中断される二番目と三番目はできれば避けたい。
「っていうか、おまえは寝なくても平気なんじゃないのか」
ファイレナはアーダンを指差した。
「何をおっしゃいますやら。本来なら永眠しているはずの不死者が、不自然にも昼夜行動しているんですよ。睡眠が不必要なわけがありましょうや?」
「はぁ? 意味わかんない。どういう理屈なんだよ……ったく」
殴り合いに発展しそうな厳正な話し合いの末、ファイレナ、アーダン、グリオハン、シオの順番で見張りを担当することに決まった。
更けていく夜。何事もなく、四人は見張りを交代していく。
三人目にグリオハンが担当する時間である。
夜のもっとも深い時間。月明りすら欺き、静かに忍び寄る影があった。




