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ep.31 盗賊団の襲撃

 ファイレナは人数を数えようとしたが、十を超えたところで勘定をやめた。人数は二十人に迫る。そして、その半数が弓を構えている。

 盗賊集団の中からリーダー格と思わしき男が、一歩前に出た。白髪交じりのざんばらの頭髪に、薄汚れた布を巻いた男だ。


「あん? 商人が出てくるかと思ったが、おまえら冒険者か?」

「……そうか。造りのいい馬車だったから、金目のものを積んでると思ったんだな。残念ながら大して金のない旅人だ」


 ファイレナは両腕を広げた。奪われるようなものは何も持っていない。


「そうか。なら、死ね」


 男の言葉を合図にするように、一斉に矢が放たれた。

 それとほぼ同時に、突然突風が生まれ、ファイレナたちの周りで渦を巻いた。螺旋(らせん)を描いて巻き上がる風が、飛んできた矢を一本残らず弾き飛ばす。


「《渦を巻く突風(ワール・ウィンド)》」


 ファイレナの魔法である。

 盗賊たちが驚きで硬直している間に、グリオハンが飛び出し盗賊たちの群れを戦斧で薙ぎ払った。運悪く他より一歩前に出ていた五人がまとめて吹き飛ぶ。

 さらに、盗賊たちの背後には黒い霧が忍び寄っていた。アーダンだ。


「《気力吸引(エナジー・ドレイン)》」


 首を掴まれたふたりの盗賊が、同時に気を失った。精神力を奪う接触型の魔法だ。

 思わぬ反撃に遭い、リーダー格の男がさっと片手を挙げた。


「クソッ! もう一発、弩砲(どほう)を叩き込んでやれ!」


 茂みの奥には、馬車を破壊したバリスタが隠してある。巻き添えを食わないように盗賊たちがその射線から身を退いた。

 もう一度合図を送れば、バリスタの巨大な矢が放たれる。しかし、合図の声は響かなかった。


「な……」


 男が言葉につまる。股下に感じる違和感。


「少しでも動いたら、女の子になっちゃいますよ。今日のことはなかったことにしてお互い別れませんか?」


 男にまったく気付かれることなく、シオが背後に回っていた。そして、股間に鋭利な短剣を押し付けている。


「私たちのパーティはたぶん、だいぶ強いです。続けても損するだけですよ」


 その切っ先から感じる本気に男の戦意が瞬く間に萎えていく。


「撤退の号令をお願いします」


 冷静なシオの声。男は観念した。


「わ、わかった。……撤退だ!」


 嵐のような出来事だった。

 盗賊団が敗走していった後、四人はその場に立ち尽くした。馬車は横倒しになっていて、車輪も外れている。おまけに、騒動で御者(ぎょしゃ)が怪我をしていた。


「おい、アーダン。おまえ、神官だろ? 治癒魔法をかけてやれないか?」


 ファイレナが腹を押さえてうずくまる御者に寄り添う。大破した馬車の破片が脇腹を(かす)めたようだ。致命傷ではないが、御者は苦痛に脂汗をかいて震えている。


「私がルガンの信徒であったのはずいぶん昔のことです。あの頃使えていたような治癒の魔法など、今更使えるわけがありましょうや」

「は? なんでいちいちおまえはそんなことまで偉そうなんだ? 心と考えは腐っても脳みそが無事だから金儲けできたんだろ? だったら、さっさと思い出して治癒しろよ、ドクズ」

「なんなんですか。この言われよう……」


 アーダンは文句を垂れながらも、うんうんと唸りながらようやく、昔取った杵柄(きねづか)を思い出して、ささやかな治癒魔法を御者にかけた。

 その魔法がもたらした最大の効果は傷の治癒ではなく、御者の顔から安堵(あんど)の色が戻ったことだった。

 その(かたわ)らで、グリオハンが馬のたてがみを撫でている。


「おい、こやつらは無事のようだぞ。二人乗りで先へ進める。不幸中の幸いだ」


 グリオハンは馬車と繋がった革紐を引き千切ろうと乱暴に掴んだ。


「ちょっと、グリオさん。我々が馬を奪ってしまえば、御者の方は徒歩で町に戻ることになるんですよ? 馬車は破壊され、傷を負い、馬を奪われた状態で、ですよ」


 アーダンがその手を掴んで、制止する。


「やむを得まい」

「なんということをおっしゃる。それはグリオさんが決められることじゃないですからね」


 アーダンは呆れて嘆息した。


「つまり、徒歩なのは私たちってことですね」


 シオが肩を落とす。アーダンは元気付けるようにその肩を叩いた。

 グリオハン以外はアーダンと同じ気持ちだ。

 結局、グリオハンが折れ、御者は馬に(またが)り、もう一頭を連れて町へと帰っていった。


「さて、ここからあとどれくらいある?」


 ファイレナが遠くに目をやる。日の落ち始めた空は暗い色をしている。


「まだかなりありますよ。ここからは森をぐるりと迂回するルートを通りますから」


 ファイレナは来た道と、これから進む道を交互に見た後に、不機嫌そうに両腕を組んだ。


「こうなりゃ、森の中を突っ切った方が早いかもしれないな」


 馬車を用意したアーダンも、もう反論しなかった。


「でも、もう今日はひとまず、野営できるところを探して休みませんか?」


 シオが挙手する。

 アーダンはうなずいた。


「いい考えだと思います。ただ、食糧は心配ですねぇ。すんなりと馬車旅で済むと思っていましたから」

「だったら、私に任せてください! この辺りは獣が獲れるはずです」


 シオがスンスンと鼻を鳴らす。

 アーダンはファイレナへ目をやった。ファイレナは結局、この一行のリーダーだ。最終判断はファイレナに任す。ファイレナが反対しないのなら、シオに食糧調達を任せればいい。


「じゃあ、任せるよ。シオ」

「ラジャりました! ファイレナさん!」


 シオは軽快な足取りで獣を狩りに向かって行った。


「さて」


 シオの姿が見えなくなったのを見計らうと、途端にアーダンが神妙な面持ちを見せる。


「シオさんは一体何者だと思いますか?」

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