ep.28 豪華な晩餐
四人は今後の旅程を話し合うべく、場所を変えた。場所はヴァルディラ有数の高級宿〈神は人魚を造った〉である。
無論、ここを指定したのは、有り余るほどの資産を持つアーダンだ。
宿は四階建てで一階は食堂になっており、二階から上は一階上がるたびに宿泊費が上がる。アーダンはもちろん最上階の四階に二部屋を取った。アーダンとグリオハンが泊まる男部屋と、ファイレナとシオが泊まる女部屋だ。
その一部屋の広さは、仮に四人が泊まってもなお持て余すほど広い。ふたりで泊まるには広すぎる豪華な部屋だ。
「別に四人一緒でも構わないのにさぁ。その方が相談もしやすいだろ」
ファイレナはそう言ったが、アーダンは断固、首を横に振った。
「何をおっしゃいますか。男女が同じ部屋で寝泊まりしていいはずがないでしょう。仮にグリオさんが異種族にはまるで興味がなかったとしても、です」
金の亡者であることと不死者であることを除けば、アーダンは意外なほど常識人だった。
アーダンは男部屋に全員を集めた。部屋の円形テーブルに豪華な食事が並んでいる。
「すごーい! こんな豪華な料理、食べるのいつぶりだろうっ!」
シオは飛び跳ねて大はしゃぎだ。
「ここの料理はどれも絶品です。旅の途中では、満足な食事を取ることすらできないときだってあるでしょう。ですから、今くらいは存分に食事を楽しみましょう」
アーダンが柔和な微笑みを浮かべる。
「わざわざ四階まで料理を運ばせたわけ?」
豪華な食事には目を輝かせたものの、一言くらい何か言わなければ気が済まないファイレナである。
アーダンは涼しい顔で席についた。
「人にあまり聞かれたくない話もあるでしょう。たとえば、サリフィン様が亡くなったこととかね」
「なるほど。こうすれば、誰にも聞かれる心配はないですね!」
シオがアーダンの隣に腰を下ろす。
アーダンの言うことはもっともだ。納得せざるを得ないファイレナは無言でうなずいた。
四人がテーブルを囲む。ファイレナの右にはシオ、左にはグリオハン、正面にはアーダンが座る。
「それでは、賢者サリフィン復活を望む同志たち、そして、旅の前途に乾杯いたしましょう」
アーダンは積極的に音頭をとってワインの入ったグラスを掲げる。他の三人もそれに倣い、ぎこちなくグラスをぶつけ合った。
いつものようにグリオハンが肉をむさぼる。手に取っているのは濃厚な香りのソースがかかった分厚い骨付き肉だ。真っ白い皿に盛られた、見るからに高級そうな肉料理を、惜しみなく腹へ埋めていく。
ファイレナは特製のドレッシングがかかった野菜のサラダをもりもりと口に運んでいる。ただ野菜を切って皿に盛っただけではない。鮮度や切り方にもこだわった一皿だ。瑞々しい野菜の風味と、酸味と甘みが引き立つドレッシングに舌鼓を打つ。
シオは大きな海老の料理と向かい合っている。真っ二つに切られた断面にホワイトソースと香草とチーズを乗せて焼いた手の込んだ一皿だ。フォークで身を剥して大きく一口に頬張る。口の中に広がる香りと旨みに思わず「う~んっ!」と声を挙げる。
不死者となったアーダンはただワインを楽しむだけだ。その酒の肴に三人のこれまでの旅の様子を語らせる。
「しかし、よもや、よもやですねぇ。まさか、グリオさんこそが、かのアンバーグロウピークに棲み付いた暴竜だったとは」
ファイレナが語った旅の始まりのいきさつに、アーダンも驚きを隠せなかった。
「だから、ファイレナさんはクソドラゴンとか呼んでたんですね!」
アーダンより一足先に旅の同志となったシオも、このときようやくグリオハンの正体を知ったのだ。
「ふん。あの忌々しいエルフを蘇らせ、この魔法を解かせるのだ。その後は褒美として我が直々に丸飲みにしてやろうと思う」
グリオハンは綺麗に肉を削ぎ落した骨をしゃぶって、空の皿に放った。
隣でファイレナがふんと鼻を鳴らす。
「で? シオさんはなぜおふたりに?」
アーダンがシオに水を向ける。
「旅の途中で追っ手に追われていたところをグリオさんに助けてもらったんです」
シオはハムと葉物野菜のサラダを咀嚼しながら答える。
「そこで、私もサリフィン様が亡くなったこと、ふたりがその復活のために旅をしていることを知って、力になりたいと思って一行に加えてもらいました!」
「なんでも、シオの盗賊の先輩がうちの師匠に世話になったことがあるんだと。その恩を本人に代わって返すんだって」
「ファイレナさん! 盗賊じゃなくて斥候です!」
「盗賊だろ。おまえの手癖が悪いことはもうバレてるんだ」
「でも、それがあったからファイレナさんたちは助かったんですよ? ねぇ? 」
シオがアーダンに同意を求める。
「盗難の被害に遭いかけた当事者に同意を求めないでください」
嫌悪感を露わにするアーダンである。
「元ドラゴンと高名な賢者の弟子、それに盗賊ですか。風変りな組み合わせですねぇ」
「不死王に言われたくないんだよ」
ファイレナが呆れた表情の目を向ける。
「無駄話はそろそろ終わりにせんか? 我は死に損ないの言う蘇生の秘宝とやらの在処を知りたい」
ひと通り空腹が埋まったところで、グリオハンが椅子の背に体を預けた。
ファイレナも一度フォークを置き、アーダンに目をやる。
シオはまだ食事の手を止めなかった。その小さい体のどこに入る隙間があるのかと疑うくらいだ。
アーダンがグラスを置く。
「ええ。それは〈深層〉に眠っているという話です。このエルドリサール大陸には様々な場所に〈深層〉が存在しますが、そのうちのひとつに……ということですね」




