ep.26 富と商売の神ルガンの信徒
「私はかつて、敬虔なルガンの神官でした。信仰心に厚く、この身を神に捧げ、来る日も来る日もその教えを人々に解いたものです」
アーダンは不死王とは思えない澄んだ瞳を天窓へ向けた。
「ルガンは富と商売の神。私の教えを注意深く聞くのはもっぱら商人でした。彼等はルガンの教えの通りに日々、努力を惜しまず、知恵をしぼり、商売に精を出しました。すると、その結果が、寄進という形で私の元へと返ってくるようになったのです」
グリオハンは欠伸をした。残りのふたりは真剣に耳を傾けている。とりわけファイレナは。
「それで?」
「富とは人生を豊かにするもの。私は彼等にもっともっと裕福になってもらいたいと思い、商売、そして資産運用の術を解き続けました。その心得からやり方まで、まさに虎の巻です。……どうやら私には元々商売と話術の才があったようなのですね。私の教えを受けた者たちが次々に事業を成功させ、私は礼を受け取りました。そして、気付けば、計り知れない財産が、私のところへ転がり込んでいたのです」
「なんだか、ずいぶん思ってたのと違う話が飛び出しましたね」
シオが首を傾げた。
アーダンが自身の両手に視線を落とした。
「巨万の富! しかし、あるとき私は気付いたのです。どれだけ富を築いても、人間、死なばそれを手放すことになると! 私は途端に死を恐れるようになりました。そんなとき、私は知ったのです。不死となる秘術のことを……っ!」
「おい、ちょっと待て」
ファイレナがアーダンの語りを途中で止めた。
「まさか、おまえ、財産を手放すのが惜しいから不死者になったのか?」
「有り体に言えば」
「亡者は亡者でも金の亡者じゃないですか!」
「あなたに言われたくはありませんよ」
堂々と盗んだもので身を飾るシオを、アーダンは軽蔑の眼差しで見た。
「おまえの言うことが本当なら、おまえは不死者を使って悪行を重ねてるってわけじゃないんだな?」
「それどころか、町に投資すらしていますよ。むしろ善行を積んでいるのです」
「やかましい。港から来るときに見たぞ。貧民街の有様を。おまえがやってるのは、自分の資産を増やすための投資であって、町への施しじゃない」
ファイレナの正論に、アーダンは不機嫌な目を向けた。
「信仰のことは置いておこう。とやかく言うつもりはない。けど、さすがにおまえは町から金銀財宝を吸い上げすぎだ。おまえの財産は町のために使ってもらう」
「は⁉ 何を血迷ったことを言っているのですか⁉ あなたに一体なんの権限があって仰っているのです?」
「死ぬか?」
ファイレナは短剣をちらつかせた。アーダンは両手を挙げた。
「せっかく、私が心血を注いで稼いだというのに……」
「シオ。こいつを宝物庫へ連れていけ。全部表に運び出すんだ」
ファイレナがグリオハンを顎でしゃくった。
「ラジャ!」
シオが元気よく返事をする。
「なぜ、我がそんなことをせねばならんのだ」
「ファイレナさんが言ってるんでしょ! 行きましょう」
シオがグリオハンの腕を両手で引っ張る。グリオハンは微動だにしない。
「シオ。おまえがくすねてるものも全部だぞ。やっぱり盗っ人だったんじゃないか、おまえ」
ファイレナが厳しい目を向けるとシオは下唇を出した。
「ほ、本当にやるおつもりで?」
アーダンは財産を守るために定命の生を捨てた者だ。文字通り、財産が命よりも大切なのである。財産へ対する執着は何よりも強い。
そこで、アーダンはふと思いついたように眉を上げた。
「そうだ! こうしましょう! あなたたちの旅の手助けをします! ですから何卒、私の財産はそのままにしてくださいませんか?」




