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ep.24 黄泉がえりの邪法

 グリオハンは話を続けた。


「魔法さえ解けるのならば、エルフがどんな形で蘇っても我はかまわん。よって、おまえに問うている。おまえを不死にした術はエルフにも通用するのか、と」

「ダメだダメだダメだダメだ! 師匠をアンデッドとして復活させるなんて言語道断だ! 絶対にさせないぞ!」


 アーダンの手を振りほどきながらファイレナが吠える。


「落ち着きなさい。まだ、私が術を(ほどこ)そうと言ったわけでもございません」


 アーダンは振りほどかれた手で、再びファイレナの口を塞ぐように(あご)を掴んだ。


「いいですか、そこな戦士。その話が本当ならば、あなたは、かのジェイドウッドの森の賢者が、倒し切れずわざわざ人間化するような危険なドラゴンだったということ」

「だから、どうした?」

「つまり、人間の姿の内に死んだ方がいいということですよ」


 アーダンが答えた瞬間、グリオハンが斧を握って飛びかかった。

 アーダンが片手をかざす。腐肉(ふにく)溜まりと化した床から数体のゾンビが伸び上がり、グリオハンの足や腰にまとわりついた。


「オオオオオッ!」


 しかし、規格外の膂力(りゅりょく)は亡者の(いまし)めなど意に介さない、ブチブチと腐肉を引きちぎりながら怒れる虎のように飛びかかる。

 アーダンの前にファイレナがいる。グリオハンはふたりを飛び越え、頭上から戦斧を振り下ろす。弧を描く戦斧が狙うのはアーダンの背中だ。


「驚くべき身体能力! 元ドラゴンというのは偽りではなさそうですね!」


 いかに不死とはいえ、アーダンもそう何度も戦斧で叩き斬られたくはないらしい。ファイレナを投げ捨てるように、自ら横へ跳ぶ……つもりだった。

 足が動かない。見れば、足元に無数の蔦が床を這っており、それがアーダンの足をからめとったのだ。

 次の瞬間、戦斧の一撃によってアーダンの上半身が吹き飛んだ。

 ファイレナは巻き添えを食らうまいと身を低くして地面を転がった。


「《絡みつく(エンタングル・)(ヴァイン)》だ」


 ファイレナは額を拭った。

 アーダンが亡者を使役する間、顎を掴んでいた片手がはずれたその隙を見逃さず、魔術を完了させたのだ。

 グリオハンが飛び散ったアーダンの肉塊のひとつをむんずと掴んで持ち上げた。それは半分になった顔で、削げた首と少しばかりの肩肉が繋がっている。


「地面に召喚した沼を使って蘇生していたな。こうやって持ち上げていたらどうだ?」


 グリオハンを見下ろす半分の顔が不敵に笑む。


「舐めないでいただきたいですね」


 アーダンの暗い目がぎらりと光る。すると、アーダンだったあらゆる肉塊が断面から霧状へ変わっていく。


「な……! こいつ、気体になれるのか!」


 ファイレナが戦慄(せんりつ)する。霧状になったアーダンは天窓から差し込む光の下へ集まっていき、ゆっくりと人型へと戻っていく。

 かつてドラゴンだったグリオハンさえも驚きを隠しきれない。


「高位のアンデッドが霧状の形態を取れることなど、常識と思ってください」


 集まった霧状の人型が今度は膨張を始めた。明瞭(めいりょう)な形にとらわれない状態を活かし、くゆる煙のように、その体の一部を伸ばす。それはファイレナを、グリオハンを、からめとっていく。

 わずかに吸ったその霧にファイレナは胸を押さえて思わず盛大に咳き込んだ。肺が突き刺すように痛い。


「クソドラゴン! 息を止めろ! これは腐敗の霧だ!」


 ファイレナはこれ以上霧を吸わないように袖で口元を押さえる。目にも突き刺すような刺激がある。両目も瞑った。


「ご名答。《腐敗霧への(チェンジ・ロット・)変化(フォグ)》です」


 風の魔法を使えば霧を吹き飛ばせる。しかし、詠唱ができない。口を押えるために両手も自由にできない。だが、呪術歩法がある。ファイレナは足の踏み方だけで魔法を生み出せる。

 だが、その両脚を何者かが掴んだ。見なくともわかる。亡者だ。足も封じられた。もはや魔法が撃てない。


「こ、こんなやつ、倒しきれない……」


 絶望がファイレナの心を塗り潰していく。偶然出会ったリッチにやられて、師匠の蘇生も成せないままに朽ちてしまう。ファイレナはうっすら目を開けてグリオハンへ視線をやった。元ドラゴンも腐敗の霧にもがいている。

 暴竜も同じくここで朽ち果てるのがせめてもの救いか。


 ガタガタと部屋の扉が震えた。

 ファイレナとグリオハンが同時に目をやる。


 バンッ!


 と、勢いよく扉が開いたかと思うと、ずっと姿を消していたシオが、扉の向こうから姿を現した。驚くべきことに体中を金銀財宝の宝飾品で飾っていた。


「ファイレナさん!」

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