ep.20 寄進の品
二日後、三人は宿屋の一室に集まった。シオの準備が終わったのだ。二、三日と言っていたが仕事が早い。
「じゃじゃーんっ! どうです! 申し分ないでしょう!」
シオが両腕を広げた。安ベッドの上に、ふたつの品が置かれている。
一つは反りのある短剣で、繊細な象嵌の施された鞘が特徴だ。さらに、柄の部分には巨大な宝石が三つ並んで埋め込まれている。抜けば刀身の美しさも目を引くが、刃としては業物ではなく、儀式用のナイフだろうことがうかがえた。
もう一つは香炉だ。花や鳥など優雅な自然の一場面を表現した精緻な彫刻が施され、表面に焼きつけられた金が光の粒子を放っている。趣味がいいとは言えないが、豪華さで言えば申し分ない。
「ククク。いかにも人間が好きそうなものだな」
グリオハンは馬鹿にしたように口端を吊り上げ、手を伸ばした。
ファイレナが横からその手を叩いた。元ドラゴンに美術品の価値がわかろうはずがない。乱暴に扱われても困るのだ。
「なぁ、シオ。申し分ないのはわかったよ。けどさ、これは一体どうやって都合をつけた?」
ファイレナはそっと香炉を手に取って、目線の高さに持ち上げて眺めた。
「まあ、ちょっとそれなりのルートといいますか。そういうギョーカイに顔が利くんで?」
「私たちは僧をだませればそれでいいんだ。つまり、よくできた偽物でいいってことなんだけど、これ、ホンモノじゃないよな?」
「モ、モチのロンじゃないですか! ホンモノと見紛うばかりの模造品ですよ!」
ファイレナはじっとシオを見る。シオは女性らしく可愛く微笑んだ。
怪しい。怪しすぎる。精神魔法をかけて嘘を見破ったり、真実を語らせることは可能だ。だが、ファイレナはあえてやらなかった。シオを信じることにした。信じたという体にした。
「いいだろう。これで明日、改めてアーダンに会いに行くぞ。本人に会えることができれば、蘇生の術のことを直接聞くんだ」
◇◆◇◆◇◆◇
翌日、再びアーダンの寺院を目指す。ファイレナが片手に下げた袋には、ふたつの恭しい木箱が入っていた。ひとつには香炉が、もうひとつには儀式用の短剣が収まっている。
旅の一行に加われたのが嬉しいのか、踊るような足取りのシオが先頭を歩いている。
「あのチビは偽物と言っていたが、存外、本物かもしれんぞ」
その後ろで、グリオハンがからかうようにファイレナに言葉をかけた。
「言うなよ。だから、あえて本物かどうかの追求はやめておいたんだから」
「なぜ? 本物なら盗みだろう。盗みは許されざる行為ではないのか?」
「人間社会のルールを学んでくれてて私は嬉しいよ。ただ、だからこそ、あえて聞かなかったんだ」
グリオハンが眉を潜める。
「わからんな」
「つまりだな。もし、盗品と知っていたら私たちも同罪にされる。私たちはあくまで本物とは知らずにシオから手渡された。盗みと知っていたのはシオだけってことさ」
「罪人はあのチビだけということか」
「そう。こんなところで牢屋に入るわけにはいかないだろ? 入るのはシオだけでいい」
「規則に厳しいおまえが盗品ということを許せるのか?」
「どうせ金持ちから奪ったもんだろ。過剰に富める者からなら、多少奪ったって構やしないよ。どうせ、あこぎな方法で富を築いたに決まってんだからさ」
異常に豪奢な寺院を立てた聖職者のアーダン。そして港近くに存在する貧民街。都市が見せるふたつの顔をファイレナはすでに目の当たりにしている。
丘の上の寺院が見えてきた。
寺院へ入ると、面倒と思いながらもまずは多くの者たちに紛れて大広間で説法に耳を傾けた。グリオハンは瞑想でもするかのように胡坐をかいて静かにしている。ファイレナは退屈すぎて何度か意識を手放しそうになった。シオは早々に諦めて、ファイレナに寄りかかって寝息を立てている。
やがて説法が終わり、聴衆がお布施をして去っていく。三人は眠い目をこすりながら、おもむろに立ち上がった。
「すみません。大神官さまにお目通りしたく……」
ファイレナは袋から木箱を取り出した。蓋を開くと、豪華な香炉がのぞく。僧の眉が上がった。
隣ではシオがもうひとつの細長い木箱を開く。そこには儀式用の短剣がある。ついに僧の顔に満足げな微笑みが浮かんだ。
「少々お待ちになってください」
僧はふたつの品を手にしずしずと奥へ消えた。しばらくすると、手ぶらになった僧が三人の元へと戻ってきた。
「大変見事なお心遣いだと、大神官さまもおっしゃっておりました。さ、どうぞ、こちらへ」
イニシエーションを受ける他の者たちと共に、奥へと通される。ファイレナたち以外は皆、身なりのいい者たちばかりだ。
「こいつらがこんな寺院へ流す金を少しでも町の方へ流せば、もう少しまともな町になろうもんなのにな」
ファイレナが独り言ちる。
「何か言いました?」
シオが聞き返したが、ファイレナは緩く首を振るだけだった。




