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ep.18 イニシエーション

 しばらくすると、ようやく説法が終わった。集まっていた人々が広間を出ていく。その際、皆が僧の抱えている籠の中へ硬貨を入れていく。


「あんな下らぬ寝言に金を払うのか?」


 グリオハンは奇妙なものでも見るかのように、その光景を眺めている。


「あれは金を払ってるんじゃなくて、お布施(ふせ)だよ。ありがたい言葉、お話に対して感謝の気持ちを、お金という具体的な形で表しているのさ」

面妖(めんよう)な。それでは富む者ほど信仰に(あつ)いということになるが」


 ファイレナは細めた目をグリオハンに向けた。


「おまえ……急に芯を食ったことを言うんじゃないよ……ビックリするだろ」


 ふたりは集まった人々が出払ったあとに、アーダンに直接会おうと画策していた。だが、広間には帰らずにそのまま残っている者たちが数人いた。


「私たちと同じように直接話をしたい人たちがいるのかな」


 残った人々はひとりひとりに僧がついて、(うやうや)しく奥の部屋へと案内されていく。


「そうとなれば、我らもついて行くしかあるまい」


 グリオハンは僧のひとりを捕まえ、奥へ連れていけとばかりに(あご)をしゃくった。

 僧は汗を布で拭きながら、低姿勢で言葉を返す。


「イニシエーションをご希望ですか?」

「イニシエーション?」


 グリオハンは片眉を上げる。ファイレナも同じような表情を浮かべた。


「ええ。先ほどの説話よりも深いお話を、直接、大神官様からご教授いただけるというものです。その後、神の祝福を受けることができ、いずれはこの寺院へ聖職者としてお迎えするというものです」


 ファイレナが怪訝(けげん)そうに眉を潜める一方、グリオハンはそもそも理解しようともしていなかった。


「よくわからんが、それでよい。どうすればよいのだ?」

「では、ご寄進(きしん)なさるものをお持ちでしょうか?」


 グリオハンは一度小首を傾げてから、皆が行っているお布施の方へ目をやった。


「あれではならんのか?」


 僧は軽い冗談をあしらうかのような曖昧(あいまい)な微笑みを浮かべる。


「ええ。大神官様に直接お目通しなさりたいのであれば、別途ご寄進の品が必要でして」

「それはどんなものだ?」


 直接的なグリオハンの質問に、僧は困ったように口ごもる。有体(ありてい)に言えば、高価な品が必要なのだが、聖職者である以上、僧は明確な表現を避けたいのである。


「いえ、すみません。ありがとうございました」


 ファイレナが割って入った。


「今日、初めて参加したものですから、勝手がわからず」


「ああ。そうだったのですね。大神官様にお目通りなさりたい方々は皆さま、ご寄進の品をご持参して頂いておりますので、ご理解して頂ければと思います」

「おい、だから何を持って来いと言うているのかと聞いている」


 ファイレナがグリオハンの口に手を押しつけた。


「後日改めて、お伺いさせていただきます!」


 これ以上、悪目立ちする前にと、ファイレナがグリオハンを引っ張って寺院を出た。


「おい! 半エルフ! どういうことだ!」


 寺院の前でグリオハンは憤慨(ふんがい)した態度を見せる。


「まぁ、おまえにはわからないか。つまり、大神官にお目にかかりたかったら、もっと高額の品を持って来いって言ってるんだよ」

「ならば、はじめからそう言えばいいではないか」

「あー、もう! 説明が面倒臭い! とにかく、人間社会の不文律(ふぶんりつ)みたいなもんだ! そういうもんだと思って理解しろ!」


 ファイレナが苛立ちに任せて髪をわしゃわしゃと掻く。


「ぬぅぅ。まったく、つくづく人間の社会というのは()(がた)い」

「とにかく、大神官……っていうかアーダンに会う手筈をどうつけるか考えないとな」


 今しがたぐしゃぐしゃにした髪を手櫛(てぐし)で整えながらファイレナが唸る。


「ええい、面倒だ。僧どもを皆殺しにして、アーダンとやらを軽く絞ってやろう」


 グリオハンがくるりと反転する。ファイレナが慌ててその手を掴んだ。


「いい加減にしろって! 騒動を起こすな! 指名手配になりでもしたら蘇生の術どころじゃなくなるんだぞ! 大人しくしろ! ボケナス!」


 蘇生の術が遠のくとわかればグリオハンも衝動的な行動に制止をかける。ひとまず、グリオハンが落ち着いたところでファイレナは嘆息(たんそく)した。


「まったく。ちょっと人間のルールを理解したかと思ったらすぐこれだ」


 ファイレナは寺院を背にして歩き出した。


「一度出直すぞ。どうにかして()()()アーダンに会う算段を立てなきゃだ」


 ファイレナはことさらに安全を強調した。

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