ep.14 リルリングのシオ
「あの! お礼が遅れてすみません! 先ほどはお助け頂いてありがとうございました!」
宿に向かうファイレナとグリオハンの後ろには、暴漢に追いかけられていた少女がついて来ていた。
「私、シオといいます! 目が覚めるような強さでした!」
ファイレナはぐるりと瞳を回して、シオへ目をやった。
「ねぇ、悪いんだけどさ。私たちは旅の途中で忙しいんだよ。さっさと帰りな?」
「大丈夫です! 私、放浪の旅の途中で、目的地があるわけじゃないんで!」
「私たちにはあるんだよ。それに、追っ手があったんだろ? そんな得体の知れないやつを一緒に連れて歩きたくないんだよ」
「それに関しては我も半エルフに同意見だな。しかも、おまえ、盗っ人と言われておったな」
「誤解です! 盗っ人はむしろあいつらの方ですから! 私は単に奪われたものを取り返しに行っただけなんですもん!」
「本当だろうなぁ? おまえ、リルリングだろ。リルリングは優れた斥候になるけど、同時に厄介な盗賊にもなる」
ファイレナは小柄なシオを疑り深い目で舐めるように見る。
リルリング。小人族とも呼ばれる人類種の一種族だ。草原や丘に集落を作って暮らしている。ドワーフやノームと同じく低身長の種族だが、彼等と違うのは、成人でも人間の子供のように幼い見た目であることだった。そのため、尖った耳に注目しなければ、ヒューマンの子供と間違う場合も多い。
小柄な上に手先が器用ですばしっこい。好奇心旺盛で旅好きも多く、また、いたずらや冗談も好む明るい種族のため、人類種の中では珍しくヒューマンとも気が合う種族だった。
「これがリルリングか。ヒューマンの子供かと思うたわ」
「私は子供じゃありませんよ! これでも成人です!」
「成人ならひとりで旅ができるだろ。おまえにかかずらってる余裕はないんだ。さっさとどっかに行けって」
ファイレナが面倒そうにシッシッと犬でも追い払うような仕草を向ける。
「そんなに急いでる旅なんですか? 一体どこに向かおうとしてるんです?」
グリオハンは鬱陶しそうに眉間にしわを寄せている。
「やかましいな。蘇生の術を探す旅だ。わかったら疾く去れ」
「おぉい!」
ファイレナが思わずグリオハンの腕を殴った。旅の目的を軽々しく喋ってほしくなかった。
「蘇生の術⁉ 誰を蘇らせるんですか⁉」
「サリフィンとかいう魔術師だ」
「言うなっつってんだよ! ボケナス!」
「なぜだ? 知りたいことを知れば去るだろう。我らに構う理由はなくなるのだから」
「ああ、もう! ポンコツかよ、おまえはっ!」
あまりにも常識が通用しない。適切な説明が咄嗟に出てこず、ファイレナが天を仰ぐ。
シオがファイレナのローブの裾を引っ張った。
「サ、サリフィンって、あのジェイドウッドの森の賢者サリフィン様のことですよね⁉」
「いや、人違いだよ。ドブの沼の彫り師サリフィンのことだから」
「嘘ですよ! そ、そんな……賢者様、亡くなられたんだ……」
シオはその場で茫然と立ち尽くした。ファイレナとグリオハンはお構いなしに通りを進む。
「ずいぶん、驚いているようだな」
「当たり前だろ。師匠は各地に逸話を残す有名人なんだよ。近いうちその逸話の中に、アンバーグロウピークの竜討伐も加わるだろうさ」
師サリフィンが死んだことを知られてしまった。グリオハンの軽率さには苛々させられる。仕返しとばかりに皮肉な言葉を返してみたが、苛立ちは収まりそうもない。
「ま、待ってください!」
シオが離れたふたりに慌てて駆け寄る。
「ということは、ここからヴァルディラへ向かうつもりなんでしょうか?」
「なぜ、そうなる?」
グリオハンがシオを見下ろした。
「え? 違うんですか? 蘇生の術っていうからてっきり……。あれ? ご存じない?」
「おい、おまえ、何か知ってるな? 詳しく聞かせろ」
グリオハンが凄むと、その瞬間、シオの目がキラリと輝いた。
「はは~ん。なるほど~。いいですよ。ただし、私を仲間に入れてくれたら、です」
ファイレナは舌打ちした。
サリフィンのことだけでなく、蘇生の術の情報を何も掴んでいないこともバレた。このリルリングの女は情報を交換条件にするつもりなのだ。
しかし、情報は欲しい。止むを得まい。
「わかったよ。でも、まずは話を聞いてからだ。これから、おまえを同行させるかどうかを判断する。いいな?」
ファイレナはシオに人差し指を突き付けた。
「はい! もちろんです!」




