ep.13 ひとまず収拾
「は? いや、ちょっと、あれは追い払わなくてもいい人たちですよ⁉」
少女が慌ててグリオハンの前に出る。グリオハンは邪魔とばかりに少女を道の脇へ蹴りやった。
「ひどい!」
「おい、おまえたち。我の武器選びに付き合ってもらうぞ」
グリオハンが斧を構える。
自警組織の男たちは面食らったように互いを見合わせてから、グリオハンを狼藉者と見なして、剣の柄に手をやった。
そのとき、横合いから魔術杖が飛び、グリオハンの側頭部を痛撃した。グリオハンが呻き声を上げた。
「何をやってる!」
ファイレナである。
肩を怒らせ、つかつかと歩いてくると、杖を拾って、その先をグリオハンに突き付けた。
「町中で面倒を起こすな! 捕まったら旅が頓挫するんだぞ、バカチンが!」
「我はおまえが提案したように、武器を選んでいただけだ」
「じゃあ、なんで自警組織の連中に斧を向けてるんだ、ボケ!」
「使用感を確かめねばなるまいが!」
「文字通りド級のバカだな! おまえは! 誰かれ構わず武器や暴力を向けるのは人間の社会ではご法度なんだよ!」
ファイレナは、武器を下げろとばかりに、杖でグリオハンの腕を小突く。
その後、すぐに自警団員たちに顔を向けて、しおらしく頭を下げる。
「申し訳ない。私の連れは文明の遅れた地からやってきた蛮族で、今一つ道徳に疎いところがあるんです」
「否、我は武器の馴染みを確かめようとしたに過ぎん」
グリオハンが口を挟む。
「おまえは黙ってろ!」
自警団員の目からは、一向に疑いの色が消える気配がない。
「クソ、面倒だな」
ファイレナはグリオハンと相談するフリをして自警団員たちに背を向けると、バレないように印を結びながら、ゴニョゴニョと詠唱を始めた。
自警団員たちがいよいよ逮捕に踏み切ろうという頃に、さっと振り向く。
すると、ファイレナの目を見た自警団員たちが、互いを見合って、突然、忘れ物でも思い出したかのように、その場を去っていった。
「えええっ! 一体どういうことですか⁉」
小柄な少女が目を見開く。
「《一時的混乱》を使った。今、何をやってるのかわからなくなったのさ」
ファイレナは人差し指でグリオハンの厚い胸板を突いた。
「いいか? 人間の社会には、無闇に同胞を傷つけないためのルールが存在するんだ。今後は二度と町中で武器を抜くんじゃない。それは旅を困難にする行動だと思え。わかったな」
グリオハンは、プライドは高いが、正論は聞く。旅の邪魔になると言えば一定の理解を示す。ファイレナもグリオハンの扱いがわかってきた。
「あと、はい、これ!」
ファイレナは紐でひとまとめにされた荷物をグリオハンの胸に押し付けた。
「なんだこれは?」
「おまえの着るものだよ! クロースアーマ―ッ! いつまでもペラペラの布一枚でウロウロするわけにはいかないだろ?」
「これを着ろと?」
「それ以外どういう意味があるんだよ、タコ!」
グリオハンは地獄のような唸り声を上げながらも、渡された荷物をほどく。厚手の布で仕立てられたもので、急所にあたる部分が革で補強されている。
「一応、店にある一番大きいやつだった。それでも窮屈ならなんとかしよう」
グリオハンは憤然としながらも身にまとった布に手をかけた。
「アホか! こんなところで着替えるな! 宿に行ってからにしろ! クソボケ!」
「貴様が着ろと言ったんだろう!」
「人間の社会じゃ、公衆の面前で素っ裸になることは罪なんだよ! 服脱いだだけで牢屋に入れられてそのまま野垂れ死にたいのか! バカタレッ!」
ファイレナはグリオハンの背中を乱暴に押していく。
「あの……お代……」
傍らで見ていた武器屋の店主が、勇気を振り絞った様子で声をかけた。申し訳なさそうに剥げ上がった額の汗を拭いている。
ファイレナはグリオハンが握ったままの斧を見やる。
「……これで足りる?」
武器を陳列した架台に叩きつけるように硬貨を置く。
「いえ、あの……剣と槍のお代金も……」
見れば、地面に刺さった剣と手槍がある。
「おい、クソドラゴン。その剣と手槍も買うのか?」
「要らん」
「だ、そうだ。すまないね」
ふたりは武器屋を後にした。




