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ep.12 逃亡少女と四人の暴漢

 濃いブラウンの癖っ毛と首に巻いたスカーフを揺らしながら、少女が声を上げる。少女の後ろには、通行人を無理矢理押しのけながら駆けてくる男たちがいる。その数は四人。


「その女を捕えろ! そいつは盗っ人だ!」


 男のひとりが声を上げた。


「違いますーっ! 盗っ人じゃないですーっ!」


 叫ぶ少女。だが、通行人のひとりの足につまずき、盛大に砂埃をあげながらこけて転がる。

 砂まみれになった少女は、ちょうど武器を物色していたグリオハンの足元に転がってきた。少女が顔を上げた。

 少女の瞳にグリオハンの姿が映る。大柄で屈強な肉体。簡素な服から露出した腕と脚は張りのある筋肉が隆々と盛り上がり、片手にはちょうど大振りの直剣を握っている。

 どれほど強そうに映ったことだろう。


「助けてください!」

「知るか。我は武器選びに忙しいのだ」


 グリオハンは興味もないとばかりに視線を武器の並んだ架台へ戻した。バトルアックスと通称される両刃の斧を手に取り、手への馴染みを確かめる。


「ちょっとおおおおお! 冷たすぎじゃないですかああああっ!」


 叫んだ少女が突如、ふわりと持ち上がった。追いついた男たちの一人が、その髪を乱暴に鷲掴みにして引っ張り上げている。


「いたたたたたたたたっ」

「ようやく捕まえたぜ! ちょこまかとはしっこい女め!」

「やめてーっ! 丸坊主になる~っ!」


 少女が男たちの手を逃れようと暴れ出す。

 ジタバタと振り回した手がグリオハンの腕を何度も叩いた。真剣に武器選びをしていたグリオハンにも我慢の限界がきた。そもそもグリオハンの沸点は低い。


「ええい! やかましいぞ! とっととどっかへ行けい!」


 グリオハンは大地を震わせるような怒号を叩きつけた。


「酷い! こんなか弱い乙女が連れ去られようとしてるのにっ!」


 強気にも言い返す少女に、グリオハンは苛立(いらだ)ちに猛った目を向ける。


「やかましいと言っているだろう! ここで捻り潰してやろうか!」

「捻り潰すなら、この人たちにしてくださいよおっ!」


 少女が叫ぶ。グリオハンの目が反射的に暴漢たちに移る。


「……そうか。たしかにそれは悪くない」


 グリオハンは男たちににじり寄った。


「おい、おまえ」


 暴漢のうちのひとりに話しかけ、突然、握った直剣を振り下ろした。


「うへあああっ!」


 突然斬りかかられると思っていなかった男だが、反射的に跳び退き、真っ二つにされるのを回避した。グリオハンの素人剣術に救われた。


「てめぇ! 何のつもりだ!」


 男のひとりが剣を抜き、グリオハンに斬りかかった。

 グリオハンは力任せに剣を振り抜き、振り下ろされる剣にぶつけた。男の剣が弾き飛ばされ、回転して地面に刺さる。


「ぬうううんっ!」


 グリオハンがもう一方の手に握った斧を目いっぱい振るった。無手になった男をかばうように、仲間のひとりが同じく剣を抜いて斧の横薙ぎを止めに出る。

 しかし、力の乗ったバトルアックスの威力は凄まじい。かばった仲間もろとも、その圧力に吹き飛ばされて、ふたりの暴漢が重なり合って地面を転がる。剣は曲がっていた。


「ほう。これはなかなか手に馴染む」


 グリオハンが満足げにバトルアックスを上下に振る。規格外の膂力(りょりょく)

 暴漢たちが震え上がった。

 少女は戦意を喪失した男たちの隙を見逃さず、(すね)に一撃蹴りを見舞って、髪を掴んだ手を振りほどいた。そしてネズミのようにすばしっこく、グリオハンの後ろへ隠れる。


「ダンナ! やっちまってください!」


 男たちは慌てふためいている。グリオハンが一歩足を踏み出すとともに、地面を掻くように逃げ出した。


「ダンナ! こいつを!」


 少女が武器屋の樽に刺さった手槍を抜き取り、グリオハンに差し出す。


「これはどう使う?」

「思いっきり投げるんですよ! そんで、全員まとめて串刺しにしてやってください!」

「なるほど」


 グリオハンは腕を大きく振りかぶり、逃げていく暴漢たちの背中に容赦なく手槍を投げつけた。

 しかし、目抜き通りを一直線に飛んでいくかに思われた手槍は、グリオハンの足元に突き刺さった。投擲(とうてき)の技術がなければそんなものだ。


「うそーっ! 下手ぁあっ! すっごいド下手ぁああっ! どんだけ下手クソなんですか!」

「ふん。これは使えたものではないな」


 そうこうしていると、町の自警組織がドタドタと武器屋の方へと走ってきた。


「新手か?」


 グリオハンが少女に問う。


「いえ、あれは町の自警組織ですよ。騒ぎを聞きつけて騒動の収拾にきたんでしょう」

「よし、丁度よい。今一度、こいつの馴染みを確かめてみるか」


 グリオハンは一番気に入った斧を肩に乗せながら、自警組織の方へと足を向ける。

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