第三十三話
立ったまま動かなかくなった様子から息をつく翔だったが、
「なる、ほど…………」
イスピナードの放った言葉に慌てて視線を向ける。
「我の知らない事象が、あまりにも多いな……。少しばかり貴様の世界に興味が湧いた……」
貫かれた箇所を右手で押さえながら依然として、悠々と口を開く。
確実に倒すイメージはしていた。もちろんイスピナードの強靭な肉体を含めてだ。それでもまだ足りないのか。
翔もすでに傷を負いすぎているが自分の体に鞭を打つよう構える。
「ふっ、そう構えずとも大丈夫だ」
だが何故かイスピナードは翔を見て軽く笑い、その言葉の意味も翔には分からない。
「どういう意味だよ」
「貴様の強さ、そして優しは体感できた。どちらも我の世界にはなく、故に我は負けたのだろう」
「負けたって……?」
「命を奪わない戦いも、そう悪くはないな……。あとは貴様が、どうするか……。いや、どこまでいけるか、か…………」
「さっきから何を言って」
言葉を返そうとした翔は言葉を切ってしまった。
それはイスピナードが反撃してきたからではない。むしろその逆で言い終えたイスピナードは膝をつき倒れていくからである。
そしてそのまま満足したかのようにゆっくりと、ドスンと重い音を立て獣の身体は地面に横たわった。
「………………勝った……、のか……?」
確認するように自分に問いかけた。
翔自身もボロボロではあるが、確かに立っているのは自分である。
目の前の倒れているイスピナードを再度確認し、戦いが終わったことを実感する。
初めての戦いが終え勝利を収めることができたが、嬉しさよりも安堵の方が大きくかった。
と、翔は大事なことを思い出した。
「そういえばあいつは」
イスピナードとの戦いで少女のことを考える余裕などなかったため、慌てて辺りを見渡す。
確か最後に見たのは翔がイスピナードに捕まっていたときで、少女を中心に爆発が起きたはずだ。
少女自身であの爆発を起こしたので本人は大丈夫だと思うがあれ以降どこに行ったのか。
「急いで見つけないと、っつ!」
唐突に翔は膝から崩れ落ちた。
「あ、あれ? 何で力が入らないんだ……?」
立とうとするも全身の痛みからうまく力が入らない。
そこでやっと自分の体が危険な状態だと認識した。
先程まである種の興奮状態だったこともあり、脳が自分の怪我に気づくのに遅れてしまった。
イスピナードに傷を負わせた分、翔もイスピナードから攻撃をしっかりと受けている。能力で身体能力は上げていても、体は限界を向かえていた。
そして緊張の糸が切れたことと安堵からか、意識も朦朧とし始める。
「や、やべ……、能力でからだをなおさ……ない、と……」
口を開こうにも動かすのもやっとで重く感じる。
「の、のうりょ、くそう……ぞ……」
だが能力は発動されることはなく、そのまま翔は重力に引かれるよう倒れた。




