第二十三話
「何をしている、カケル」
そこには重たい表情のライオネットがいた。
「何って、俺は何も……」
「じゃあ質問を変えよう。お前は何をしようとしている?」
ライオネットは翔の心が分かっているように聞いてきた。
それは翔の行動を抑制するために言ったようにも思える。
「俺は……」
また逃げるのか、ただ眺めるだけで何もしないのか。
いや、それが自分のしたいことではない。
ここで逃げるわけにはいかない。自分のするべきことではなく、どうしたいのか、この異世界に来た意味のために。
翔は一度少女を見ると、ライオネットに対して真正面に向いた。
「俺は…………俺はやっぱり、少女を助けたい……!」
その一言で背後の少女は目を開き驚く。
だがライオネットは眉一つ動かさなかった。
「……なあ、カケル。お前の目に俺はどう映っている?」
「どう、映っている?」
言っている意味が分からず復唱してしまった。
「俺は世界を救った英雄か? 少女を捕まえようとする悪者か? それともこの世界とは関係ない奴か?」
一歩、ライオネットは踏み込み歩き出す。
「俺はこの世界の悪なのか?」
「…………それは、違うけど」
「だったら」
「でもっ!」
強く翔は言葉を放ち、ライオネットは歩みを止めた。
「少女にとっては……悪なのかもしれない」
歩みを止めたライオネットは大剣を握り直す。
「それは悪の反対もまた悪であるのと同じだ。お前にとってもこの世界を壊されることは望んでないだろ」
「そうだけど、それが少女の本心かどうかも分からないだろ」
「本心かどうかが問題じゃない。何度も言ったはずだ、僅かな可能性から世界が壊されるんだ。その可能性を無くすことが何故正しいと分からない」
「それが…………それが、少女にとって正しくないから」
翔の瞳は真っ直ぐライオネットを見据えている。
視線を受け止めたライオネットは一つ息を吐く。
「はぁ……ったく、やっぱりこうなるのか……」
握り直した大剣を構え鋭い視線が翔に向けられた。
その眼は敵を見る眼である。
「どうしてもこの世界の敵になるっていうのか?」
「それが少女を助けるためなら」
「だがお前のやろうとしていることは矛盾している。お前自身、この世界は壊されたくないくせに少女の願いはこの世界の破壊だ。少女を助けるというならこの世界は壊されるんだぞ」
「その世界を壊すってことも本当かどうか分からないって俺は思ってる」
翔とライオネットは平行線をたどったままである。
だがどちらも間違ってはいない。翔の信じるもの、ライオネットの信じるもの、お互いが譲れないからこそ生じてしまっているのだ。
「そうか。なら……俺はお前を倒す!」
鋭い眼光が翔に向けられたと同時に、
「ふざけないでっ!」
少女の声が響いた。
「私のことを、勝手に決めないでよ! いつ私が助けてって言ったの! いつ私がこの世界を壊さないって言ったの! 私はあなた達の敵でこの世界の破壊者なのよ! それなのにっ……! 何で……また…………」
少女は俯き両手を強く握った。
「…………どうして……、いつも…………」
少女の声はあまりにも小さく、あまりにも悲しみを纏っていた。
それは近くにいた翔にしか聞こえないほどに。
だが次には鋭い視線を向けた。
「……もういいわっ! あなた達が争おうがどうでもいい! この世界もあなた達も、ここで私が破壊してあげる!」
少女は右足を上げ力強く踏み込むと、少女を中心に赤い魔法陣が翔とライオネットを包み込むように広がった。
「まずはここら一帯を吹き飛ばしてあげる!」
少女の気迫に翔は一歩下がってしまうが、ライオネットは動じなかった。
「それを俺が黙って見ていると思うのか?」
翔の背後でライオネットは今にでも少女にかかろうとしていた。
この状況は翔にとって最悪な状況になりつつある。
ライオネットが少女を捕らえてしまい少女と話すことができなくなってしまえば少女の本心、本当の気持ちを知ることができない。それだけは何としてもは防がねばならない。
だが一触触発の事態を防ぐことができるのか。ここから少女を連れて逃げようにも既にその能力は使ってしまっている。他に方法があるとすればライオネットを説得するか、もしくは倒して逃げるかのどちらかだろう。
しかし前者は既に失敗しており、後者など不可能に近い。
「どうすれば…………」
本音が口から出てしまった。
いや、まだ方法はあるはずだ。頭を働かせろ、思考を止めるな。少女を救う最善の策を捻り出すんだ。
僅かな時間の中、翔は考えを巡らせる。
「…………そうか」
一つ、この場を解決する方法を思いついた。
だが同時に翔の横をライオネットは通り抜け、少女に向かって大剣を振り下ろしにいった。
「はあっ!」
さらに呼応するように足元の赤い魔法陣も光を増して発光する。
「無駄よ!」
二人が衝突しようとした時、
「『能力創造』!」
叫ぶように翔は能力を発動した。




