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元悪役令嬢は、まだ恋を知らない  作者: 黒霧依織


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第四話 終わりの始まり

隣国 シグルドで幸せを歩み始めたタツキ。

一方その頃、故郷のミカエリス王国は滅びへと歩み始めていたのであった。




「どういうことだ… なぜ我が国の作物が枯れ果て

王宮の井戸が干からびる!?」


王宮の謁見の間で、第二王子ハヤトは青ざめた顔で絶叫していた。

かつてタツキを「不気味な力を持つ女」と罵(ののし)り

リデルの涙だけを信じた彼の面影は、今や見る影もない。


ミカエリス王国の一部の上層部とリデルばかりを溺愛してきた

タツキの両親は、致命的な「本質」を見誤っていた。


彼らが「忌々しい魔気」と呼んで遠ざけタツキが宿していた魔力。

それこそが、本来ミカエリスの地に留まり

豊かな大自然の恵みをもたらしていた「精霊たち」を

引き止める唯一の、最強のカードだったのだ。


本質を見極めようともせず、無垢なタツキを追放した人間たちに対し

精霊たちの怒りは頂点に達していた。


「キィィィィィッ!!」

「愛シ仔(タツキ)ヲ、傷ツケタ、罪人ドモ……!!」


夜な夜な王宮の周囲を取り囲む

おぞましい赤黒い炎と暴風。

それはシグルドで見られる愛らしい姿とは

打って変わり上位精霊たちの怒りだった。


精霊たちの裁きは冷徹で、かつ正確だった。

タツキを騙したハヤトをはじめとする王宮の人間

そして、実の娘をわがままな妹の盾にして虐げてきた両親とリデル

――彼ら「タツキをいじめた奴ら」だけを狙い

その魔力をじわじわと喰らい尽くそうとしていた。


唯一、幼い頃からタツキの魔法の才能を正当に評価し

影ながら愛してくれていた魔法使いの祖父母と

何も知らない城下の平民たちの街も、一切の被害を受けていなかったのだ。


さらにハヤトたちを絶望させたのは

シグルド王国側からの冷酷な「事実」だった。


ミカエリスの一部の有能な学者は最初から知っていたのだ。

この国に「魔の森」など最初から存在しない。

あれは、この国が精霊の機嫌を損ねた結果生まれた

ただの「拒絶の領域」に過ぎないということを。


「そんな……! あいつはただの

悍ましい悪役令嬢だったはずだ……!」


髪を振り乱し、恐怖に震えるリデルを抱きしめながら、ハヤトは爪を噛む。

このままでは国の中枢が精霊に滅ぼされる。

国を救う方法は一つ。精霊に愛されたタツキを呼び戻すことだけ。と

勘違いをしていた。


「シグルド王国へ使者を出せ!!」


ハヤトは狂ったように叫んだ。


「タツキは私の婚約者だ!隣国へは『一時的な謹慎』として

赴かせたに過ぎない! 今すぐタツキを我が国へ返してもらおう!!」


どの口が言うのか。

自分たちで国境の向こうへ放り出し、死を望んだくせに

都合が悪くなれば「返せ」と喚き散らす。

己の保身のためだけに、再びタツキを利用しようとする

ハヤトの醜い執念が、シグルド王国へと向かおうとしていた。


しかし、ハヤトはまだ知らない。


タツキが、シグルド王国に

これ以上ないほど囲い込まれているという事実を。


タツキを切り捨てた代償は、あまりにも重い。

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