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「タツキちゃん!はい、これ今日の分の
冷やし蜂蜜レモン! 頑張ったご褒美ね!」
「わぁ!ありがとうございます女将さん!
いつもすみません…」
宿屋の勝手口でタツキは汗を拭いながら
グラスに注がれた冷たい飲み物を受け取った。
エプロン姿で豪快に笑うこの宿屋の女将さんは
いつもタツキを気にかけ、美味しい賄いやおやつを分けてくれる
気さくで頼れる街の肝っ玉母ちゃんだ。
――が、タツキはまだ、気づいていなかった。
この、いつも絶妙に仕立ての良いエプロンをまとい
異常に姿勢が良く、時折オーラを隠しきれていない
美魔女な女将さんこそが、この国の現王妃
――すなわち、ヒカルとまだ見ぬ第二王子の
実の母親であることを。
実は、この宿屋そのものが
王妃の「たまには城の堅苦しい生活から離れて
美味しいものを食べつつ息抜きしたい!」
という超個人的な理由で、お忍びで経営している隠れ家だったのだ。
そこに、まさか最愛の息子が
自分が目をつけた可愛い従業員を追いかけて
毎日薪割りにやってくるようになるとは
王妃にとっても嬉しい誤算だった。
「それにしても、今日もあの人が来て
勝手に薪を全部割っていっちゃいました…。
本当に何者なんですかね?」
タツキが困ったように笑いながら
冷たい蜂蜜レモンを飲む姿を
女将(王妃)はニヤニヤとした視線で見つめる。
「あら、いいじゃないの。
タツキちゃんみたいな美人にいいところを見せたくて必死なのよ、あの子。
不器用で、中身はただの純情な大型犬なんだから」
「お、大型犬ですか……?(笑)
でも、本当に警備の仕事をしてるにしては
なんだか時々、指示出しの癖が出てますよね」
「あー、そうそう! あいつ、上に立つ人間の
真似事ばっかりしたがるのよ。
今度タツキちゃんからガツンと言ってやりなさい!」
実の息子を容赦なく売る王妃。
内心『あのヒカルが、あんなに一生懸命女の子の気を引こうとするなんて…!
追放令嬢だって聞いた時は心配したけど
こんなに根性があって魔力も綺麗で可愛い子なら私は大歓迎よ!』と
すでにタツキを未来の義理の娘として迎える気満々だった。
そこへ、何も知らないヒカルが
「タツキ。頼まれていた裏庭の荷物全部運んでおいた」とやってくる。
「あ、ヒカルさん、ありがとうございます。
これ、女将さんから頂いた冷やし蜂蜜レモンですけど、よかったら半分どうぞ」
「……っ、いいのか? もらう」
タツキから手渡されたグラスを
嬉しそうに受け取るヒカルの後ろで女将(王妃)が
「(ヒカル、よくやったわ! もっと押しなさい!)」と
タツキに見えない角度で全力でサムズアップを送っていた。
ヒカルは母親の無言のプレッシャーに気づき
一瞬だけ視線を鋭くして目で威嚇するが
タツキが振り返ると、瞬時にいつもの顔に戻る。
「タツキ、明日の市場の祭りやっぱり俺と一緒に行ってほしい。
お前に見せたい綺麗な精霊のパレードがあるんだ」
「え……? お仕事が終わった後なら……」
「よし、決まりだな。楽しみにしている」
嬉しさを隠しきれずに口元を緩めるヒカルと
顔を赤くしてうつむくタツキ。
その様子を後ろから見守る王妃は、エプロンのポケットの中で
『明日のデートのため、隠密部隊に警備をさせなきゃ!』と
早くも職権乱用一歩手前の作戦を練り始めるのだった。
元婚約者のハヤトたちにすべてを奪われ
誰も信用できないと思っていたタツキの周りは
気づけば隣国の王子と王妃という
とんでもない「味方」で埋め尽くされようとしていた。
故郷であるミカエリス王国が
滅びの道へ進んでいるなんて知りもしなかった




