第十話 元悪役令嬢は、恋を知り、愛に出会う
あれから数年後
かつて精霊の怒りと王族の腐敗によって滅びかけた
ミカエリスは、見事な復興を遂げ、活気に満ち溢れていた。
若き名君として国内外から絶大な支持を得るようになった
新国王ショウタが、国王の執務室でテキパキと指示を出していた。
ハヤトが残した負の遺産や商人の不正は
タツキが遺してくれた「監査のやり方」によってすべて一掃され
国民と一丸となって築き上げた新体制により、国政は完全に安定。
かつてタツキを傷つけた罪悪感を抱えながらも
彼女が愛した大地を、今度こそ誰もが笑って暮らせる国へと作り直した。
そして、シグルド王国では
雲一つない青空が広がる本日、国中が歓喜の鐘の音に包まれていた。
第一王子ヒカルと、タツキの結婚式が、いま執り行われようとしていた。
「タツキ、本当に綺麗だ。……俺には、もったいないくらいだ」
王宮の控室。白銀の格式高い礼服に身を包んだヒカルが
目の前に立つ最愛の妻を見て、目を潤ませながら感極まっていた。
そこにいたのは、純白のウェディングドレスを纏ったタツキだった。
短く切り揃えられていた黒髪は少し伸びてゆるやかに結われ
きりっとした美しい切れ長の瞳には、かつての怯えなど微塵もなく
気高くもどこまでも優しい「一人の愛される女性」の輝きが満ちていた。
「もう、ヒカルさん!本番の前に泣かないでください(笑)
メイクが崩れちゃいます」
タツキがクスクスと笑いながら、ヒカルの大きな手を
自分の両手でぎゅっと挟み甘える。
ヒカルの前でだけは、タツキは甘えん坊のままだった。
「兄上、お熱いところ申し訳ありませんが、そろそろ時間です。
今日のあなたが世界一幸せな男だということくらい分かりますよ」
「レン、お前は相変わらず一言多いな……」
扉を開けて現れた第二王子のレンが、いつものようにニヤニヤと笑う。
「レンさん、ありがとうございます。
皆さんのおかげで、私は今、ここにいられます」
タツキが心からの感謝を込めて微笑むと
部屋の空気が一気に祝福の光で満たされた。
現在のシグルド王宮は、名実ともに世界最強の聖域となっていた。
本日の婚礼のために、宮廷料理長ユウゴが作り上げた
特大のウェディングケーキ。
そして、タツキの一歩に合わせて
水のウンディーネが清らかな光のミストを降らせる。
何より、誰も気づいていないが
タツキの長いドレスの裾をじゃれ合うように踏んでいる
白猫と黒猫――「ルミエ」と「シェーダ」の双璧が
彼女の魂を永遠の平穏で守り続けていた。
「さあ、行こう。俺の生涯をかけて、お前を世界一幸せにする」
「はい。ヒカルさんの隣で、甘えさせていだたきますね」
ヒカルの大きくて武骨な手が
タツキの細い手をしっかりと、一生離さないように握り締める。
悪役令嬢でもない。
ただの、世界で一番愛されている一人の女の子として。
タツキは最愛の夫であるヒカルに腕を引かれ
温かい家族と精霊たちの歓声が響き渡る光の中へと
幸せに満ちた一歩を踏み出すのだった。
かつて、恋を知らなかった彼女は
隣国の王子から、恋を知り、永遠の愛に出会ったのでした。
おしまい
元悪役令嬢は、恋を知らないを最後まで読んでいただき
ありがとうございます。
そして、お初にお目にかかります
作者の黒霧依織と申します。
物語の始まりでは、実の妹と婚約者によって
悪役令嬢という無実の罪でミカエリスから
隣国である、シグルドへ行くことになったタツキが
途中で、誘拐されかけたり、ストーキングされる
なんてこともありましたが
最後には、無事に幸せになることができました。
この物語はこれで終わりますが
皆さんがこの後のタツキとヒカル夫婦がどうなったのか
ミカエリスはどうなっていくのか
はたまた、出てこなかった他の精霊のことを
自由に想像してもらえたら嬉しい限りです。
番外編などは、現時点では書く予定はありませんが
ふとした思い付きで書くかもしれません。
…期待はしないでください
また、どこか別の物語でお会いしましょう。
黒霧依織




