夏の呼吸とひとりごと
『の保険入りに一緒に保険会社に行ってきます(^^)ノ♪』
…怒りに震える指で、反射的に削除ボタンを押した。
(これだからアナログ人間は…!)
何をどう間違ったらあんな紛らわしい文章を打てるのか、息子ながら不安になった。
テレビをつけようとリモコンを押せば設定を変えてしまい、インターネットを開こうとクリックひとつ押せばシャットダウンを押してしまう母さんは、相当な機械音痴だ。思えばメールのまともなやり取りの仕方が身に付いてきたのもつい最近のことだったような気もする。メールを誰かに送信する度に相手を間違えたり、一斉送信することくらいならもう日常茶飯事だったのを覚えている。
(いや、まぁ…あの頃に比べたら成長してるかな…)
柄にもなくそんな思い出を懐かしんでいるが、母さんが出かけてるってことは少しまずいかもしれない。何せ僕は家の鍵を持っていない。それに家の近くの路地はこんな時間からでも不良のたまり場になるので家の周辺で母さんを待つことはできれば避けたい。しかし幸い、ここは誰もいないし、おまけに公園の中央に大きく根を張りそびえたつ大木のおかげでこの暑さもしのげそうだ。
(よし、母さんが帰るまでここで涼んでおこう)
そう決めるが早いか、引き返そうとした足を公園に向け公園の中央の大木の下へ向かうと、ふぅっと大きなため息をひとつついて大木の木に背を預けてみる。
吹き抜ける風が、心地よくシャツを揺らす。
青々と茂る木々の隙間から漏れる木漏れ日が少し眩しくも、暖かい。
目を閉じてしまえば、背中合わせのこの大木の呼吸の音が聞こえてきて
僕の鼓動と重なりそう――…。
「…っと。これじゃ寝ちゃいそうだな」
あまりに心地いいものだから、目なんか閉じたりするとすぐに寝てしまいそうだ。しかし、何もせずに突っ立っていたんじゃどうしてもこの心地よさに目を閉じずにはいられないだろう。
(そういえば…)
僕は『たからのちず』がこの公園を示していたことを思いだして、先程丸めてつっこんだポケットからそれを取り出す。
「…………………。」
少しの間、見つめ合う。
手のひらのうえ、幼少の僕の書いた地図と。その文字と。
「………探して、みるか」
誰もいない公園に響く、ひとりごと。
決意なんてものほど、固くない思いつき。
風が揺らした木の葉のざわめきは、そんなひとりごとをたださらさらとかき消した。




