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Summer memory.  作者: れむ
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2/9

夏の始まり

改ページとして、移動しましたm(__)m

「よーし!!今日の講習はここまで。できた者から帰ってもよろしい」

 ひときわ大きな声に、自分の肩が少し跳ね上がったことに気づいて同時にいつのまにか閉じていたらしい目をゆっくり開く。

(あ…れ…?今寝てたのか…)

「やっとお目覚め?」

 不意に背中から高い声がして、後ろを振り向く。

「麻倉…」

 振り向いたそこにいたクラスメイトの姿に、自然と名前がこぼれる。

麻倉(アサクラ) 千夏(チナツ)。

どちらかといえば勉強はできない方。かといってスポーツなら万能というわけでもなく。年頃の女子なら普通長く伸ばすであろう髪をためらいなく暑いとの理由でさっぱり肩までのショートに切るあたり、口調が強く、男勝りな彼女らしい。

「小坂が補習にいるってことはー…、数学赤点だったんだ?」

ショートカットの髪を揺らして、楽しげに笑う。

いかにも、わかりきったうえで聞いているような口調。

「だったら なんなんだよ」

それがなんだか不快で、少し口をとがらせてわざとらしく目を反らす。

「やだな~、怒らないでよ。」

 ちなみにこの夏休み期間の補習は、夏休み直前に行われた期末考査の結果が最低基準点以下だった者を対象としたもの。つまり、(不)名誉ある赤点をみごと掴み取った者に対する特別授業だったりする訳だが…

「それで、麻倉」

「ん?」

「お前は何の赤点を獲得したわけ?」

それってつまり、同じく補習にきているこいつもそうだと思う。

「……………。」

「……………。」

 僕と麻倉の間に少し、沈黙が流れる。

「…なんで、そんなこと聞くんですか?」

「麻倉が赤点の僕をバカにするからです」

麻倉の問いに即答を返す。すると、また沈黙が流れる。

「……………。」

「……………。」

(なんだこれ…、なんかバカみたい…)

「はぁ…もういいや。

でも、女子で補習なのって麻倉だけ――…って、痛い!」

 なんとなく思ったことを口に出したその途端、頭に衝撃が走る。

なにがあったのかと目の前を見ると、麻倉が僕の頭にげんこつを落とした後だった。

「小坂ぁ、アンタなんで女の子に対してデリカシーがないわけ?ん?」

「いや、だってさ…」

 女子のくせにやけに力が強くて、まだ痛みの残る頭を軽くさすりながら答えに詰まる。

「だって、なによ。」

「うーんほら、なんていうかさ…」

「はっきり言いなさいよ、男のくせに」

 短気な麻倉が急かす。

(そうだよな、男なら堂々と自分の意見を――…!)

「麻倉に女の子要素はないと思う」

「もう一つげんこつをあげるわ」

…言って、後悔することもあると知った。

 追加で一発げんこつをお見舞いして、麻倉が僕の後ろの自分の席へと戻っていく。

(やっぱり言うんじゃなかった…!)

 同じところを二度もやられて、悔しくも少し涙目になった僕の隣を今度は、水色のリュックを背負って麻倉が通る。

「ん。麻倉、帰るのか?」

「そうよ。終わった人から帰ってもいいって先生が言ってたじゃない。小坂は?」

まだ怒った口調でもありながら、麻倉が問いかける。

「アー…。そういえばそんなこと言ってましたネ」

麻倉に気づかれないようにそっとノートを腕で隠しながら僕、ちょっと棒読み。我ながらうまく繕えたと思ったその口調からなにを読み取ったのか、なにやら麻倉の目が楽しげに笑う。

(なんだこいつ…、帰らないのか?)

黙ったまま隣に立ったままの麻倉を見て、そんなことを考えていた時だった。

 次の瞬間、考えごとで緩んだ腕の不意を突かれてノートを奪われる。

「ふーん…まっしろだねぇ。こりゃ帰れないわけだ」

「う、うるさいな。今からやるんだ」

 痛いところを突かれるが強気で返すと案外あっさり返してくれた。

なんだかそれすらも、笑われてる気がしたけど。

「ま せいぜい頑張って~。おっさきー♪」

 それだけ残して麻倉は教室をでて、僕はようやく課された課題に手を付け始めた。





「ふぅ…やっと終わった…。

ったく結局こんな時間まで残るハメになるなんて…」

 午前11時過ぎに先生が授業を終えて、腕時計はもうすっかり14時30過ぎを回っている。

 曲がり角の向こうから、子供の声がしたかと思うと虫取り網や虫かごを持った何人かの小学生が出てきて、にぎやかに騒ぎながら僕の横を通り過ぎていく。

 心なしか足取りも重く感じて、一度立ち止まってみる。

その途端じわりじわりと体温が上昇していくのが、肌でわかる。

「暑…。もう完全に真夏だな」

 また歩き出して、額にときどき流れる汗を制服のシャツの白い袖で拭う。

(眩しいな、まるでさっきの子供の目みたいだ…。)

目もくらむような夏の太陽を見てらしくもなく、そんなことをふと、考えてみる。

「子供…か。」

 夢。希望。憧れ。ヒーロー。

子どものころは、僕だってそれなりに夢を見ていた。

 でも落ちこぼれのこの頭も今では追われる現実を見据える賢さを手に入れた。叶いもしないような、分不相応な夢なんか見たりしない。何処にでもいそうなその辺の社員か何かになって、絶望もなく、希望もなくただ淡々と時間だけが未来へと進んでしまう。

期待はない。恐怖もない。

 自由なようで、初めから選択肢の限られたこのなかで、相応の将来を描いておけばいい。

(ま 今さらそんなこと言ったところで何も変わらないか…。)


変わることなんてないから。



――――…変えることなんて、できはしないから。







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