第88話 運搬+ダッシュ=王女
「旦那様、大変でございます!!」
優雅な昼下がり。
豪勢な屋敷の執務室に、慌てた様子の執事が飛び込んでくる。
「どうした、騒々しい。私は今、午後のティータイム中だぞ。書類は後にだな・・・」
「それどころではございません!!」
執務室の主である貴族は、執事の様子に仕方なく持っていたティーカップをソーサーへと戻す。
「それで、いったい何だと言うのかね?」
「こ、こここここちらを!!」
執事が言葉以上に震える手で差し出したのは、大層立派な装丁の一通の手紙。
それを見た貴族は目を見開き、ひったくるようにその書類を執事の手から奪い取った。
「馬鹿な!?これは!?」
貴族が驚愕の声を上げた原因、それはこの手紙の封蝋にあった。
「王家からの緊急命令!?」
そう、このクエイ公国において、何よりも優先的な命令権を持つ書類、それがこの手紙なのだ。
そんな手紙が一貴族のところへとわざわざ送られてくるということは・・・
「旦那様、私めはこの辺りでお暇を頂きたいと・・・」
「逃がすかァ!!」
貴族は逃げようとした執事の後ろにすばやく回り込んで羽交い絞めにする。
「は、離してください!!嫌です!私まで巻き込まれるのはご勘弁願います!!」
「まぁ、そう言うな。我々の仲ではないかァ。ほれ、踏みとどまれば給金アップだぞォ?」
「!!」
貴族の言葉に目の色を変えた執事は、素直に体の力を抜いた。
そして、拘束から解放された執事はやたらいい声で「では、確認と参りましょう、旦那様」などとほざいている。
「・・・さて、内容だが・・・なにィ!?」
「落ち着いてください旦那様、いったいなにィ!?」
主従揃って奇天烈な声を上げた原因・・・それは、どう見ても変わることのない、ありえない指令が王家より下ったからだ。
「『シエル王国の施設をカズラ子爵家が接収しようとしている』だと!?」
「おまけに、『貴家には王家の名代としてこれを阻止することを命じる』とまで書かれていますよ、旦那様!!」
「カズラ子爵め、馬鹿な事を・・・あの小物のことだ、大方、あの家に唆されたのだろうが、ついに王家が出張ってくるほどの事態になりおったか。執事よ、支度をせよ。至急、カズラ子爵を止めに行くぞ!!」
「はいっ、只今!!」
そんなこんなで愉快な主従コンビは部屋を出て行った・・・その五分後。
天井から、執務室へとスタッと降り立つ影が二つ。
「・・・ふぅー。どうやら、うまく行ったみたいだね」
そう発言したのは、髪をおさげにしたメイド服の勝気な美しい少女・・・つまりは、このリタちゃんである。
ってことで遅くなったけどやっほー、あたしリタちゃん。
只今、お手紙を届けたついでにお屋敷に侵入して、貴族の反応を見ていたところ。
そして、あたしと同時に天井から降りて来た人影なんだけど、もちろんリリス・・・
「うふふ、流石は我が王家の信が熱いフッサー伯爵。その行動の早さはまさにお見事の一言に尽きる」
ではなく、この隣で満足げにしている少女はなんと、ここクエイ公国の王族だったりする・・・
ちなみに、どこぞの男装歌劇のスタァみたいな気障な喋り方をしているのだけれど、その恰好はあたしと同じメイド服であり、おまけに第二王女とかいうご身分のお方だ。
マジでこんな任務に出張って来ていい人ではないのでは?
まぁ、それだけの事態ってことなのかな。
「さて、ティータさんだったね。この調子で次に向かうとしようか。また、あのスリリングな早駆けを頼むよ」
しかも、このお姫さん、あたしの全力おんぶダッシュを気に入ってらっしゃるようで、移動の度にわくわくとした視線を向けてくる。
最初は置いて行くために、わざと荒っぽい運搬方法をとったってのになぁ・・・
ともかく、ここで手紙を届けた家は三つ目。
暴発したバカは無駄にバカの人脈が広いらしく、あたしとリリスとガイルのおっさんの三人で分割してお手紙を届けて回ってる状況だ。
まさか、隣国に潜入して、王家のお姫さんを背中に負ぶって走り回る羽目になるなんてね・・・
「ほら、何やら遠い目をしていないで早く行こう。手紙は残り二つ。このアトラクションがそれだけしか楽しめないのは残念だが、早めに済ませてしまおうじゃないか!」
アトラクションって言っちゃってるじゃんこの王女。
「はぁい・・・」
あたしはそんな王女様に少しげんなりしながらも、お役目を果たすべく、次の目的地へと王女様を背負って駆けだすのだった。
次回の更新は3月28日(土)午前6時の予定です。




