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5.かけがえのない家族

最近オリオンはよく空を見上げて、何かを考えている様子。

「ねぇ、何黄昏れてんの?」

『いや、わしの家族は元気にやっているかなと思ってな』

「犬の家族?」

『いや、前世の家族だ』

「家族みんなにバカにされてたんじゃなかった?」

『そこまで言っとらんわ。こきは使われてたけど。ここの家族見てると、自分の家族を思い出してな』

「オリオンの今の家族は、私たちだよ」

『嬉しいこと言ってくれんじゃねーか』

「前世はどんな家族だったの?」

『妻はわしの給料が安いやら、頼りないやら、色々文句を言いながらも、残業で遅く帰っても起きて待っていてくれたり、料理もうまくてな。本当にいい妻だった。娘は、目に入れても痛くないとはこのことかと思うほど可愛くてな。小さい頃は、大きくなったらお父さんと結婚するって言ってくれてたが、お嬢ちゃんぐらいの歳になるとあんまり相手してくれなくなったなぁ』

「今は娘さんは何歳なの?」

『16歳だな』

「お姉ちゃんと同じ高校生なんだ。人間は懲り懲りとか言ってたけど、なんだかんだ幸せな家族がいたんじゃん」

『まぁな』

「でも何で死んじゃったの?」

『交通事故だ。あの日、会社帰りに偶然娘と一緒になってな。恥ずかしいから離れて歩いてと言われ、わしは娘の少し後ろを歩いていた。そしたら横断歩道を渡ろうとした娘に信号無視の車が向かってきて、わしは気がついたら娘を歩道の方に突き飛ばし、車の前に立っていた。で、このザマだ』

「オリオン、、、」

『車に跳ねられ意識が薄れていく中で、娘がお父さんと必死に呼びかけてくれている声を聞いて、これで死んでも悔いはないと思ったんだ』

そう言うオリオンの瞳には涙が滲んでいた。

「かっこいいお父さんだったんだね」

『最後だけな』

「あと犬もいたんだっけ?」

『あぁ、娘が去年拾ってきた黒い雑種だ。やつだけはわしに甘えてきてくれたもんだ』

「やっぱり寂しいお父さんだったのね」

その後もオリオンの前世の家族の話をたくさん聞いた。

特に娘さんの話をする時のオリオンは、嬉しそうでそれでいて寂しそうに見えた。


◇◇◇


「ねぇオリオン。ドッグラン行こうよ」

『行かねーよ』

「えーそんなこと言わずにさ。犬友作ろうよ」

『犬は好きだが、この体じゃ撫でることもできねーし』

「一緒に走ったら楽しいかもよ。それに飼い主さんに綺麗なお姉さんとかいるかもよ。撫でてくれるかもよ」

『よし、行こう』

やっぱおっさんだなー。


「わーわんちゃんいっぱいだね。友達できるといいね」

ってこいつ犬じゃなくて飼い主見てんな。

すると、一匹のチワワがオリオンに駆け寄ってきた。

尻尾をブンブン振っている。

「可愛い!遊ぼうって言ってるんじゃない?」

『んーオスかぁ。まぁ付き合ってやるか』

とオリオンとチワワちゃんは追いかけっこを始めた。

なんだかんだ楽しそうじゃん。

「こんにちは。仲良くなったみたいですね」

と30代ぐらいの男性が声をかけてきた。

「あのチワワちゃんの飼い主さんですね?うちの子、まだ犬友いないんで、気が合う子がいてよかったです」

「トイプーちゃん、何歳?」

「もうすぐ一歳です」

「若いね。うちのはもう8歳で人間で言うと50歳ぐらいのおじさんだよ」

あのチワワちゃん、オリオンの中身の年齢に気づいたか?


めいいっぱい走り回ったオリオンは

『こんなに走ったのは、30年ぶりぐらいだ』

とか言いながら清々しそうな顔をしていた。

「そろそろ帰ろうか」

と帰る準備をしていると、黒い犬が尻尾を千切れんばかりに振りながらオリオンに駆け寄ってきた。

「オリオン犬にモテモテじゃん」

『この犬、どこかで見たような』

「こらルイ、そんなにグイグイ行ったら、わんちゃんびっくりするでしょ」

と黒い犬を追いかけて高校生ぐらいの女性が走ってきた。

『さくら、、、』

「え?オリオン知ってる人?」

『娘だ』

「嘘でしょ?そんなことあるの」

『信じられねーが、間違いねえ』

女性は、1人でぶつぶつ言っている私を不思議そうに見ている。

『でもルイは真っ黒な犬だったはず。この犬は口元が少し白い』

「あの、このルイくん?変わった毛色ですね」

「あぁ、元は真っ黒だったんですけど、ストレスで白くなっちゃって」

「ストレスですか」

「この子、うちの父親のことが大好きだったんですけど、数ヶ月前に亡くなってしまって、それで……」

『ルイ』

「それはお姉さんもルイくんもお辛かったですね」

「私のせいなんです。父は私を庇って」

と泣き出しそうなさくらさんに駆け寄るオリオン。

『お前は何も悪くない。自分を責めないでくれ』

「慰めてくれるのね、ありがとね」

とオリオンを撫でるさくらさん。

オリオンの声はさくらさんには聞こえてないだろうけど、きっとちゃんと伝わってるよ。

「ごめんなさい。初めて会う人にこんな話」

「あの、もしよかったら犬友になってもらえませんか?」

「ぜひ。私たち最近こっちに引っ越してきたばかりで、ルイにも新しい友達を作ってあげたいと思って、今日ここに来たんです。よかったねルイ、お友達ができて」

ルイくんはずっとオリオンを見つめながら尻尾を振っている。

まるで、大好きなお父さんを見つめるように。


本当にすごい偶然。

きっと父親の娘を思う気持ちが、家族を引き寄せたんだね。


それから時々、さくらさんやルイくんと散歩に出かけたり、公園やドッグランで遊んだりしている。

ルイくんと遊んだり、さくらさんに撫でてもらっている時のオリオンは、本当に幸せそうだ。

さくらさんのお母さん、つまりオリオンの奥さんとも会うことができた。

オリオンは嬉しそうで切なそうな複雑な表情をしていた。



私はさくらさんに出会ってからずっと考えていたことを、オリオンに話してみた。

「ねぇオリオン、さくらさんたちとまた一緒に暮らしたい?何って言われるかわかんないけど、私お願いしてみようか?」

『いや、今のわしの家族はさくらたちじゃねーからな。わしはお嬢ちゃんの犬だろ?そうだろ?』

と不安そうに私を見つめてくる。

「もちろんだよ。よかった。オリオンがさくらさんのところへ行きたいって言ったらどうしようかと思った」

『なんだよ、天邪鬼だな』

「てかさ、そろそろお嬢ちゃんってのやめてよ。ちゃんとあさひって名前があるんだよ」

『あ、あぁ、そうだな。あさひ。んーなんか照れ臭えな』

「名前で呼んでくれないなら、オリオンのこともおっさん呼びに戻すから」

『それは勘弁してくれ』


いつのまにか、オリオンがいない生活が考えられなくなっていた。

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