2.変態オヤジは即効去勢しました
とりあえず私は、見た目はトイプードル、中身はおっさんのオリオンを抱っこして台所へ向かった。
おっさんだと思うと抱っこするのも躊躇われたが、階段降りなきゃだし仕方ない。
台所には母がいた。
「お母さんお母さん、大変大変、オリオが喋った!!!」
「は?オッくんが何だって?」
「おっくんじゃなくておっさんだったの!ほらほら、オリオン喋ってみ」
『腹減った』
「あさひ、、、大丈夫?病院行く?」
本気で心配された。
どうやらオリオンの声は私にしか聞こえないみたい。
なんでー???
「大丈夫、やだなー冗談だよお母さん。はははっ」
そう誤魔化しながらオリオンのご飯を持って自室に戻った。
ドッグフードをうまいうまいと食べるオリオン。
「味覚は犬なのね」
『あぁらあくまで思考と記憶だけが人間の頃のが残ってるだけで、体そのものは犬だからな』
「へー。てかおっさんはさー」
『おっさん呼びはやめてくんねーかな。やっとおっさん卒業できたのによぉ』
「えーだっておっさんなんでしょ?それにオリオンって名前は勿体無い気がしてきた」
『確かにわしには不釣り合いな名前だとは思うけど、今更変えるのも変だろ?』
「まぁ仕方ない、私が寝る間も削って考えた名前、おっさんに捧げる。ありがたく受け取りなさい」
『どうもありがとさん』
そう言って、お腹が満たされたオリオンはくつろぎ出した。
「やっぱりアニメとかみたいに、死んだら異次元かどっかにとばされて、前世の行いによって転生先を指名される感じなの?」
『あぁ、まぁそんな感じだな』
「犬、しかもトイプードルって結構有料物件、な気がするけどどうなの?」
『そうだな。わしが選べるランクの中じゃいい方だったな。狙って投げたからな』
「投げた?何を?」
『ダーツを』
「は?転生先ってダーツで決めるの?」
『わしの時はそうだったな。前世でダーツを趣味にしててよかったと心から思ったな』
「私もダーツ練習しとこうかな。人間は選べなかったの?」
『いや、あったが選ばなかった』
「えー絶対人間の方が寿命も長いし、美味しいもの食べれるし、楽しいじゃん」
『お前はまだ若いからそう思うだろうが、大人になると色々大変なんだぞ。いくら働いても貯まらない貯金、上司にぺこぺこしながら毎日残業、嫁には毎日小言を言われ、娘にはうざい臭いと嫌われ……いいことはない』
「それほぼおっさんの個人的な話じゃん。落ちこぼれサラリーマンだったってことね」
『うるせーやい!それに比べ飼い犬は、一日中家出ぐーたらできて、チヤホヤされて、ずっと愛犬を羨ましく思ってたんだよな』
「なんか急に前世のおっさんがかわいそうになってきた」
『でも生まれ変わって早速捨てられて死にそうになったがな』
「そういえば、なんで捨てられてたの?」
『それがよぉ、前の飼い主がそれはもうべっぴんさんでな。わしのその野生の本能が開花してしまって、隙あれば彼女の足にしがみついて腰を……』
「自業自得じゃん!変態親父近づかないで」
『だからロリには興味ねーつーの』
「いや、そう言う問題じゃないから。速攻去勢しないと」
『え、男の勲章を取り上げるつもりか?やめてくれ』
「じゃあ捨てる」
『さーせんでした。去勢してやってください』
翌日、早速動物病院を予約し、去勢手術を受けさせました。
◇◇◇
あれから数週間、オリオンは中身がおっさんだと私に知られた後も、それまで通りの犬ライフを満喫している。
元々自分から甘えに行く犬ではなかったが、家族が撫でると気持ちよさそうな顔をする。
中身がおっさんだとわかるまでは可愛らしく思ったが、今は……
頭の中でオリオンがおっさんに擬人化されてしまう。
どうしてくれるんだ。
しかし、私が拾ってきた犬だ。
責任を持ってお世話しなければならない。
「オリオン、散歩行くよ」
『えーめんどくせぇ』
「運動しないと、犬だって病気になるんだから!ほらさっさと行くよ」
そして、気だるそうに立ち上がったオリオンと共に、散歩に出かけた。
いつも通り近所を30分ほど歩き回る。
いまだにオリオンの排泄シーンは目を逸らしてしまうし、うんちを拾う時は「これはトイプードルのうんち」と自分に言い聞かせながら拾う。
帰り道、近所のおじさんに出会った。
このおじさん、犬大好きだからなーやな予感。
「やぁ、あさひちゃんこんにちは。おーこの子が最近飼い出したっていう」
「オリオンです」
「オリオンちゃんかー可愛いねぇ」
おっさんがおっさんをなでなでしてる。
「お利口さんだねー」
とひたすらオリオンに話しかけながら撫で回すおじさん。
「あ、あのそろそろ帰らないといけないので」
「あーごめんごめん、あまりにも可愛いから夢中で撫でちゃったよ。オリオンちゃんまたねー。気をつけて帰るんだよー」
やっとおじさんから解放された。
「どういう心情なのあれ」
『撫でられるのは嫌いじゃねーけど、どうせなら可愛い姉ちゃんに撫でられてえな』
「バカ」
去勢してもおっさんはおっさんだった。




