6 ヴェンデルガルト
ヴェンデルガルト(妹)の一人称です。
純白のウェディングドレスをまとい、愛する男の隣で、幸せそうに微笑む姉、エデルガルトの姿に、私、ヴェンデルガルト・シュリューター伯爵令嬢は心の底から、ほっとした。
私だけのお姉様でなくなったという寂しい気持ちはある。
けれど、それ以上に、姉の幸せを願う気持ちが強かった。
誰よりも何よりも大切な愛するお姉様。
願うのは、願うべきなのは、姉の幸福だ。
姉を愛するあまり、この独占欲で、彼女を苦しめる気などない。そんな事は自分が許せない。
姉が、エデルガルトが私の世界の全てだ。
一番愛しているのではない。
誰も何も代わりになどならない。
だから、姉の婚約者という、至尊で幸福な立場にいながら、姉ではなく私のほうがいいなどと宣った男になど、振り分ける感情などない。
私を愛している事など、心底どうでもいい。
むしろ、姉よりも私を選んだ時点で、私の中で、あの男は、エアハルト・ダンゲルマイヤーは不幸にする人間ランキング第一位になった。
まあ、私が何かするより早く、あの男の兄が、今や私の義兄になったハルトヴィヒ・ダンゲルマイヤー小公爵が「始末」したようだが。
あの男との結婚はなしになった。ならば、真に愛する男と結婚して幸せになってほしいと考えるのは当然だろう。
ハルトヴィヒもまた姉を愛しているのは分かっている。前妻との結婚式で、ハルトヴィヒの姉に向ける眼差しで分かったのだ。
皮肉な事に、ハルトヴィヒは自身の結婚式で、花嫁ではない別の女性に、姉に恋したのだ。
幸いといっては何だが、ハルトヴィヒの奥方は亡くなっている。彼と姉が結婚するのに何の障害もない。
そのまま姉に求婚すればいいものをハルトヴィヒは行動に移さない。
伯爵家を継ぐ姉は結婚しなければならない。そのままであれば、別の男にとられるのは分かり切っているのに。
だから、あの日、私はダンゲルマイヤー公爵家に突撃した。時間が惜しくて事前に訪問の旨も伝えずに突撃するという、貴族として、いや人としての礼儀に反する行動だったが、想い人の妹だったからか、すんなり邸に通されたのは幸いだった。
単刀直入に「お姉様と結婚してください」とお願いしても、ハルトヴィヒは煮え切らない。「愚弟が迷惑をかけたし」とか「今も彼女が私を好きか分からないし」とか言い出したので、キレた私が「このヘタレが!」と怒鳴りつけてしまった。
公爵家の世継ぎだ。今まで女性どころか、誰からも怒鳴られた事などないからだろう。何とも、ぽかんとした顔をしていた。その顔に余計に腹が立った。
「あなたは妻が亡くなり、お姉様は婚約者がいなくなった。二人が結婚するのに何の障害もなくなったのに、何をぐだぐだと、くだらない事を抜かしているのよ。このままお姉様を他の男に取られていいわけ?」
相手は小公爵だ。最初は敬語で説得するつもりだったが、あまりのハルトヴィヒのヘタレさに、その気がなくなってしまった。
「……それは嫌だが」
「でしょう? だったら、さっさとお姉様に求婚しなさい。駄目だったら、それはその時に考えればいいんだから」
姉が愛する男からの求婚を断るはずがないが、わざと意地悪な言い方をした。姉を手に入れられるという至尊の幸福を手にしようとしているのに、自らのヘタレさで、それを台無しにしようとしている男に苛立ちと怒りがあったからだ。
「……駄目な事前提で言わないでくれ」
すねたような言い方だった。年下で格下の伯爵令嬢である少女相手に、何とも情けない事だ。
姉は元婚約者を「器が小さい」と評したが、その兄は「ヘタレ」で、容姿は似ていないのに、やはり同じ血を引く兄弟だと思う。
まあ結局、この後、ハルトヴィヒは腹をくくって、愛する女性に求婚し、私の予想通り、姉は喜んで彼の求婚を受け入れた。
そして、姉の貴族学園卒業後、無事に、結婚式を挙げる事ができたのだ。
姉がダンゲルマイヤー公爵家に嫁いだので、次期シュリューター伯爵になるのは私だ。
子ができない私は、これから生まれるだろう姉の子を養子にもらって後継者にするつもりだ。もし万が一、姉に子ができなければ、親戚の中から優秀な子を養子にもらって後継者として育てるつもりだ。どちらにしろ、すでに姉の了承は得ている。
ダンゲルマイヤー公爵家には、すでにハルトヴィヒと前妻との息子バルドゥルが後継者に決まっている。後継ぎ問題を起こさないためにも、姉の子はシュリューター伯爵家の籍に入ったほうがいいのだ。
誰よりも何よりも大切で愛しいお姉様。
どうか幸せに――。
次話が最終話です。




