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7(終) エデルガルト

エデルガルト(主人公)の一人称です。

 今日、私、エデルガルト・シュリューター伯爵令嬢は、愛する男性と結婚する――。





 一目で心を奪われた。


 今までは、一目見ただけで心を奪われるなど、あり得ないと思っていた。


 いくら外見が美しかろうと、その人格(なかみ)も知らずに心を奪わるなど、あり得ないと。


 そのあり得ない事を自ら体験したのだ。


 学園の廊下ですれ違った。


 ただ、それだけの出会い。


 だが、それだけで充分だった。


 私が心を奪われたのは――。


 彼は憶えてもいないだろう。妹と違って美しくもない私の事など。


 調べるまでもなく、彼が誰かは、すぐに分かった。


 妹同様、彼もまた貴族学園で知らぬ者がいない有名人だったからだ。


 ハルトヴィヒ・ダンゲルマイヤー小公爵様。


 高位貴族である彼は当然ながら、すでに婚約者がいて、それを抜きにしても、ただの伯爵令嬢である私が手に入れられる人ではなかった。


 だが、想うのは自由だろうと、ただ彼を、ハルトヴィヒ様を想っていた。


 そんな日々の中、彼の弟との婚約が決まった。


 婚約者となったエアハルトが、妹、ヴェルことヴェンデルガルトに一目で恋したのは分かったが、そんな事は、どうでもよかった。


 エアハルト自身には何の関心もない。


 だが、まがりなりにもエアハルトは彼の弟。結婚すれば、ハルトヴィヒ様と義兄妹になれる。他人よりは近しい間柄になれるのだ。


 私がエアハルトに見出した価値は、それだけだった。


 実際、エアハルトは、彼と違って、容姿も能力も平凡だった。惚れる要素など一つもない。まして、婚約者(わたし)に文句一つ言えず、姉と親友に愚痴るだけの器の小さい男だったのだから。


 エアハルトの姉でハルトヴィヒ様の妹であるヴィヒエアが、いずれ王太子の婚約者でなくなるのは分かっていた。


 容姿と身分しか取り柄がなく、周囲に見当違いな「苦言」や「忠告」をする女だ。そんな女を将来の王太子妃や王妃として周囲が認めるわけがない。


 それでも、エアハルトとの婚約はなくならないと思っていたのだ。


 代々ダンゲルマイヤー公爵家の令嬢が王家に嫁いだために、貴族間のパワーバランスを保つために、可もなく不可もないシュリューター伯爵家の令嬢(わたし)が婚約者として選ばれた。


 ヴィヒエアが王太子の婚約者でなくなり、我がシュリューター伯爵家と姻戚になる必要がなくなっても、大抵の貴族家では、すでに婚約は決まっている。残っているとしたら、問題のある令嬢や令息ばかりだろう。私もエアハルトも今更他を探すのは面倒だ。互いに他に愛する人がいるのは分かっていて、配偶者に愛を求めるなどという事などしない。互いに義務だけを果たせばいいと思っていたのに。


 ハルトヴィヒ様は思うところがあったのか、卒業前だというのに、弟妹を修道院に送り、私とエアハルトの婚約はなくなった。


 妹と違って容姿も能力も平凡でも、伯爵家の後継ぎだ。家を継げず、自ら身を立てる(すべ)を持たない次男や三男などが私に求婚してくるだろう。それを考えると煩わしかった。


 あの方でなければ、私には誰だって同じだ。


 私自身ではなく我が家の役に立つ男であれば誰でもいい。


 そう思っていた。


 まさか妹に、ヴェルに「ヘタレ」呼ばわりされたハルトヴィヒ様が一念発起して、私に求婚してくるとは全く想定外だった。


 愛する男性からの求婚だ。承諾(イエス)以外の選択肢などない。


 私は全く気付かなかったが、ヴェルが(わたし)だけでなくハルトヴィヒ様の気持ちにも気づいていて、私達のために尽力してくれるとは思わなかった。いつもなら自ら動くのではなく人を使って望む結果を導きだすからだ。ヴェルには、それだけの怜悧さがあり、人心掌握はお手の物なのだから。今回は、大切な(わたし)に関する事だから自ら動いたのだろう。


 ダンゲルマイヤー公爵家に私が嫁ぐ代わりに、自分がシュリューター伯爵家を継いでくれるとまで言ってくれた。


 まあ、ヴェルのほうが私よりもずっと有能だ。家や領民にとっては、ヴェルがシュリューター伯爵家を継いだほうがいいに決まっている。


 何にしろ、ヴェルには感謝しかない。





 愛する男性の弟と結婚し、義兄妹となり、彼と生涯繋がれる絆がある。それだけで幸福だと思っていた。


 まさか愛する男性本人と結婚できるという至上の幸福を手に入れられるとは思わなかった。


 今生でこれだけの幸福を手に入れたのだ。


 もし、生まれ変わりというものがあるのなら、来世がどれだけ不幸であっても受け入れよう。


(ふふ、あなたが婚約者に文句一つ言えない器が小さい男でよかったわ)


 今や、この国で最も戒律が厳しいと言われる北方の男子修道院にいる元婚約者に向かって心の中で話しかける。


 お陰で、元婚約者は勝手に自滅し、私は至上の幸福を手に入れた。


 夫となった愛する男性の愛がこもった眼差し。


 それは確かに、前妻との結婚式の時には見られなかったものだ。


 私もまた同じ眼差しを夫に送っていると鏡を見なくても分かる。


 生涯、互いに、この眼差しで相手を見るのだ。それが変わる事などない。


 もし変わるのなら、その時は――。


 夫を殺して私も死ぬ。


 ようやく手に入れたのだ。


 他の誰にも渡さない。


 愛する夫、ハルトヴィヒ様。


 私の全ては貴方のもの。


 そして、貴方の全ても、私だけのものですわ。


 


 


 




 


 




 


完結です!

読んでくださり、ありがとうございました!

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