9.俺様、国王と法皇になる。そして1秒でクビになる!
異世界3日目の朝、7時ぐらいに悠は目が覚めた。
部屋には、魔法灯が置いてあった。魔法で光ったり、消えたりする魔法灯はランプよりは明るく、LEDや電球よりは暗い。
「そういえば、魔法を使えるのかな?」
悠は疑問に思ったが考えないことにした。悠が目覚めると、10名以上の猫耳メイド達が部屋にやってきた。「ロングスカートが普通ですよ」と説明したが、猫耳のミニスカやブルマ姿に慣れてしまったらしい。
町の人達も、猫耳やブルマ姿が王宮メイドだと信じているので、ウサギや猫の耳をつけブルマやチアリーダーのコスプレ姿をしていることが、彼女達のステータスなのだという。
「転生者の異世界文化汚染が侵食しまくっているじゃないですか・・・どうするんだこれ」
比較的常識がありそうな大精霊ソフィアが日本の女神に頼んで、官僚の拉致という暴挙に出たのも仕方がないのかもしれないと悠は勝手に納得する。
メイド達は、悠を国王の儀礼服に着替えさせる。サイズは魔法で調整できるのだという。国王の戴冠式は、フリージア神殿で行われると教えられた。
王家の馬車で王宮から、フリージア神殿に向かう。フリージア神殿の礼拝堂は1千人以上が入ることが出来る。礼拝堂には、王都にいた全ての貴族が出席している。
幸いほとんどの貴族が王都にいたし、大精霊の悠を世界の王にするという神託を聞いて領地に戻っていた貴族達も王都に戻ってきた。そして、フリージア王国の隣国の外交官達も出席している。
礼拝堂のフリージア像の前には、3人のロリ大神官が儀礼服を着て立っている。その横には、アルベルト3世が立っている。
儀礼服を着ているのだが、ミールが猫耳を、メール、マーレがウサギの耳をつけている。おかしい。明らかに違和感しかない。
「それでは、戴冠の儀式をはじめるにゃん」
厳かにミールが告げる。
「仕事が増えるから勘弁してよ」
悠は小声で呟くと神官に先導されて、ミール達の前に歩いていく。
「大精霊ソフィア様の名において、調停者悠は世界の王となったにゃん。その証にフリージア神聖王国の国王となるにゃん」
ミールが威厳なく告げると、アルベルト3世が王冠を外しミールに渡す。王の退位である。そして、アルベルト3世は宰相達がいる貴族達の中に席に下りていく。
「大神官ミール様の前で屈んでください」と神官が小声で悠に呟く。
悠がミールの前に跪く。
「大精霊ソフィアの名において、調停者悠をフリージア神聖王国の国王とするにゃん」
ミールが王冠を悠に被せると貴族達の中から、大歓声が起こる。悠は、立ち上がると貴族達に向かって語りかける。
「大精霊ソフィア様の依頼で世界の王になった悠です」
悠は、頑固なところがある。この世界の人達には神託であっても悠には別の世界の精霊からの厄介な頼みごとでしかない。だから、神託ではなく依頼という言葉をあえて使った。
「世界の王として、最初の仕事をします」
会場が静まり返る。
「前国王のアルベルト3世殿、壇上に上がってください」
アルベルト3世は悠に名指しされると不思議そうな顔をしたが、壇上に上がってきた。礼拝堂の一段 高い場所、いわばステージで戴冠式は行われた。
大精霊ソフィアの依頼を解決するには、どうしても必要なことがある。それは、悠に権威があるということを世界中に知らしめることである。権威がなければ、異世界の改革、正確には転生者によって歪められた異世界を正すことは出来ない。わかりやすく、この世界の住民に悠が異世界を変えることが出来る権威があると認めさせる必要があった。
だから、アルベルト3世に国王を譲ってもらったのだ。世界の王は国王よりも上位にいる。異世界の序列を明確化する必要があった。アルベルト3世は、善良な国王だった。王位を悠に譲ることを躊躇わなかった。ならば、この国の統治はアルベルト3世に任せればよい。
悠は仕事が終われば、日本に戻るのだ。国会待機中の霞ヶ関に。過労死ギリギリの激務を思い出し、一瞬、異世界に居座ろうかと思ったが、そういうわけにもいくまい。
悠の最初の仕事、それは世界の王は国王より偉いということをフリージア神聖王国の人々に理解させることである。その仕事は終わった。
「世界の王として、アルベルト3世をフリージア神聖王国の国王に任命します」
国王はフリージア教が事実上の国教であるこの世界では、女神フリージアと大精霊ソフィアが任命する。悠は、女神フリージアや大精霊ソフィアと同格であることを宣言した。そのことで、神の権威を超越したのである。神殺しをやろうとしているのだ。
悠のやっていることの意味は、王や貴族達が気づかずとも大精霊ソフィアは意味がわかるであろう。大精霊ソフィアは、どうでる?。
神託で異議を唱えることも出来る。しかし、大精霊は黙認した。
アルベルト3世を跪かせると、悠自身が王冠をアルベルト3世に被せる。貴族達は驚き、そして歓声と拍手で新国王アルベルト3世を迎える。本来の戴冠手続きは、大神官であるミール達に王冠を返し、
神の名の下にアルベルト3世を王にする必要がある。
けれど、ミール達もアルベルト3世も悠に異議は唱えなかった。アルベルト3世は、壇上に留まる。貴族達には、国王が交替するとしか伝えられていない。
まだ、悠のすべき儀式は終わらない。
昨日、ミール達が王宮から神殿に戻る時に、「明日、国王の戴冠式のあとで法皇の就任式をやります」と伝えておいた。
悠は、一度、神殿の控え室に入るとミール達が用意してくれた法皇の儀礼服に着替える。神官達は、 猫耳やウサギ耳をつけていない。神殿まで汚染されないように気をつけないと。
「これで大丈夫だぴょん」
悠の着替えを手伝ってくれた若い女性神官が着替え終わった悠に言った。
「語尾のぴょんというのは何かな?」
悠が弱弱しい声で尋ねると、
「大神官様が・・・」
女性神官が答える。
まず、自分が法皇に就任してから語尾を戻させよう。悠はミール達がいる礼拝堂に戻る。悠が壇上に戻ると、ミールが出席者達に告げる。
「大精霊ソフィアの神託により、世界の王たる調停者悠が空位だったフリージア教の法皇に就任するにゃん」
大神官のメールが悠の横に来ると小声で呟く。
「女神フリージアの像の前で跪いてくださいぴょん」
悠は、女神らしき像の前で跪く。女神像の顔は大精霊ソフィアに似ているなと思った。布で出来た冠らしきものをミールが被せ、メールが黄金色の小さな杖を渡す。
「新しい法皇が、女神フリージアと大精霊ソフィアの名の下に誕生したにゃん」
盛大な拍手で貴族達は歓迎した。
「次の仕事だ」
悠は呟く。
「今、私は法皇に就任しました。世界の王として、親愛なるフリージア教の信者の皆さんに大切な報告があります。大神官ミールこちらに」
猫耳をつけたミールが近づいてくると跪くように命じる。
「世界の王として、大神官ミールをフリージア教の法皇に任命します」
驚きの声が、出席者達からも、儀式を取り仕切っていた神官達からもあがる。
大精霊ソフィアは、本当の神殺しを黙認するか?それとも、フリージア教の敵として悠を殺すのか。
殺すなら、日本に戻れるのだからそれでよい。
大精霊ソファアは黙認した。何も起らないということは黙認したということであろう。
冠をミールの頭に被せる。猫耳が邪魔だ。そして、受け取ったばかりの法皇の杖をミールに渡す。ミールは立ち上がると厳かに告げる。
「親愛なるフリージア教徒の皆さん、法皇に就任したミールにゃん。よりしくにゃん」
出席している貴族達や神官達が盛大な拍手で新法皇の誕生を祝った。
「法皇ミールは、ご主人様悠と一緒に世界にハーレムを作るにゃん」
大神官のメールやマーレも、
「そうだぴょん」
と宣言する。大丈夫、世界の王として猫語も阻止すれば良いのだ。法皇ミールに目で合図をする。
「これで閉会にゃ」
国王、法皇の就任式は終わった。出席者達は神殿から順番に出て行く。
アルベルト3世とミール法皇に頼んで、王宮と神殿に前国王、前法皇の執務室を作ってもらった。これで、王宮と神殿に悠の拠点が出来た。
隣国の外交官達も自国に、悠が国王と法皇に就任し、そして新しい国王と法皇を任命したことを報告する。一度、王と法皇になり、悠がアルベルト3世とミールを王と法皇に任命することが出来たという権威が悠には必要だった。権威があれば、権力は不要である。政治には根拠となる権威が必要なのだ。そして、権威は目に見える形で人々に知らさなければ、理解できないのだ。そのための一連の儀式が終わった。
「新法皇のハーレム発言や猫語は、あとで考えよう。ソフィアさん、ひょとして人選を間違えたかもしれませんよ」
悠は心の中でソフィアに語りかける。ソフィアから返事はなかった。悠の身分はまだはっきりしないが、前国王、前法皇ということで王族並の力はあると考えてよいだろう。新法皇ミールのお披露目は、改めて他国の代表を呼んで正式に行うという。悠は、ミール達を神殿に残し、王宮に戻っていった。
官僚として学んだことは、権限がなければ仕事は出来ないということである。
日本でも官僚が予算や法律を作っていると誤解をしている人がいる。官僚は、予算案や法律案、政策案を作るだけだ。予算や法律を作る権限は国民に選ばれた国会議員の多数決、すなわち国会だけである。大精霊ソフィアの依頼、異世界人対策も人間の権限で行う必要がある。王宮に戻ると、アルベルト3世や宰相、重臣達にまた会議室に集まってもらう。
アルベルト3世に、悠が横に座っても問題がないかを確認する。
「自分より悠様は上席に座ってください」
悠は、アルベルト3世の横に座ると本題を切り出す。
「この国の内政に関しては王のアドバイザー的な役割をやらせてください。そして異世界人のことに関しては私に一任していただけますか?」
「よろこんで。ところで悠様の敬称はどういたしましょうか?」
「アルベルト3世殿が、許可してくださるのなら、この国の中では、お互いに敬称をつけずにアルベルト3世殿、悠殿と呼ぶことにしませんか?」
他国の王や皇帝が悠に友好的かはわからない。友好的ではない国には、強い権力を使わざるを得ないかもしれない。けれど、この国は友好的だ。であれば、王とも宰相達とも対等の関係を築いた方がベターであろう。大精霊ソフィアとも、ソフィアさんと呼び合う仲なのだ。
もちろん、悠は官僚としてTPOを大切にする。悠には、学生時代から親しかった元首相や国会議員はたくさんいる。政治家を本人しかいない場所では、○○さんと悠は呼ぶが、他の人の前では先生、大臣と呼ぶ。これが、TPOである。国王や法皇、大精霊を上に立てたほうが良い場合は、そうすべきなのだ。そして、普段は、フレンドリーに接したらよいのだ。
「それでは、国王殿にお願いがあります。この国に転生者対策をする異世界対策課を作ってそこの課長に任命して下さい」
「それは構いませんが、何をなさるおつもりですか?」
「大精霊ソフィア殿からは、私の母国である日本から転生してきたものがこの世界でトラブルを起こしていると聞いています。まず、どんな問題があり、それをどのように解決したらいいのかを調査する
異世界対策課を作って、予算と人員をいただきたいのです」
「悠様、発言をお許しいただけますか?」
宰相が手をあげる。
「どうぞ。あと、宰相殿や他の重臣の方々も私の敬称は悠殿で統一しましょう」
「では、悠殿。異世界対策課はどの程度の規模をお考えですか?」
「この国の行政官や魔術師を10人程度、出向させてください。私の個人的な世話係も1人か2人、滞在中は準備してもらえると助かります」
「なんと無欲な」
宰相が思わず口に出す。
「10人いれば、課として成り立ちます。世話係はなしにしたいのですが、王宮やこの国のことがわからないので1人か2人、そういうことを教えてくれる人を貸してください」
「何人かこの国にも転生してきた勇者様もおられますが、数十人以上のメイドを要求されました」
財務長官が気まずそうな顔をして発言する。
「そういう勇者達を取り締まる人を派遣するように大精霊ソフィア殿から私が住む国の神に依頼があり、無理やりこの異世界に拉致されたのです。それを大精霊殿は調停者と呼んでいますが、私は納得していないので調停者と呼ばれたくありません」
重臣達が手を組むと、
「偉大なる大精霊ソフィア様、偉大なる調停者を遣わしてくださりありがとうございます」
各々祈り始めた。




