20.初恋の人の夢
魔法灯を消すと悠は目を閉じた。
「悠君」
中学校からの帰り道、大きな橋の横の歩道を歩いているとセーラー服姿の諏訪恵が悠を追いかけてきて、声をかける。諏訪は、大きな瞳で悠を見つめる。
「バイバイ」
そう声をかけると悠の部活の1年後輩の諏訪恵は悠を追い越していく。悠は、10年以上前の夢を見た。
目が覚めると、珍しい夢を見たなと悠は昨日、運河の近くを歩いていた黒髪の少女を思い出す。
悠の中高時代の初恋の相手が諏訪恵である。美人ではなかったが、ゆるふわ系のショートカットの諏訪は可愛らしく、理由はわからないが悠に懐いていた。
大学時代には、家庭教師として諏訪の部屋で勉強を教えていたこともある。
悠も大学生活や勉強が忙しくなり、諏訪も別の大学に行き、だんだん疎遠になっていった。今は、すでに結婚して子供がいるはずである。
悠は、朝食を取るために食堂におりていく。
すでに食堂にいたルベリア達は、悠の顔をまじまじと見つめてくる。
勘がいい人達だなと悠は思った。
悠の口調は丁寧語である。家族や友人とも丁寧語で話す。けれど、親しい友人や恋人とは丁寧語と普通の口調がまじった話し方に変わる。諏訪の夢を見たせいか、頭の中の思考回路の口調も変化していた。
悠は、朝食のサンドイッチとハンバーガーを食べると、お仕事モードに頭を切り替える。
「食事が終わったら、私の部屋に来てください」
ルベリア達3人が部屋に入ってくると、部屋全体に遮音魔法をかける。遮音魔法は、宮廷魔法団長に、盗聴防止の魔法として教えてもらった。
音を遮るイメージをするだけである。
「土産物屋に勇者グッズが多く置いてあるのが気になります。勇者ジュンの情報収集をしてください。それから、マーレ大神官。ファンザにはフリージアの教会や神殿はありますか?」
「小さな教会はあるぴょん」
「教会やギルド、町の人から勇者ジュンについて話を聞いてきてください」
「別行動にゃ?」
ルベリアが悠の顔を見つめる。
「治安が良いみたいですし、皆さんなら安全でしょう?」
「別に良いにゃん」
ルベリアがふてくされながら返事をした。
全員に、調査費用として小分けにした金貨を渡す。1人100万ソフィアずつ、金貨100枚入りの皮袋を渡す。
「食事や買い物もこのお金を使ってください」
こうして4人はファンザの町の探索に出た。悠は、商業ギルドに行ってみることにした。
回復薬やマジックポーションは冒険者ギルドに売ることが出来る。
しかし、普通の薬として万能薬も貴族やお金持ちに需要があった。
フリージアで出発前に、悠は商業ギルドにも加盟してきた。商業ギルドは、高額な加盟金を支払えば、メンバーランクを上げることが出来る。悠は、1千万ソフィアを支払ってCランクのメンバーとして登録しておいた。
商業ギルドに入ると、受付でギルドの登録証を見せる。
「万能薬をギルドで買ってもらえませんか?」
受付譲はエルフだった。
「何本ですか?」
「何本までなら買い取ってもらえますか?」
「万能薬は、需要がありますから、千本でも2千本でも歓迎します」
「それなら、1千本の買取をお願いします」
悠は、収納庫の中で万能薬の原料を瓶詰めして、味と色素をつける。
受付譲は、1千本を収納庫から出しても驚かなかった。
「こちらで品質検査をしてからの支払いとなります」
預かり証書を書いてくれた。商業ギルドを出ると、人気がないところに行き、転移魔法でフリージアの草原に戻る。高速飛行で万能薬の原料を生えている分の2割ずつ集めていく。8割残しておけば、他の冒険者も困らないだろう。
そして、転移魔法でファンザに戻ると、商業ギルドに入っていく。受付のエルフに、
「追加で1万本の買取をお願いできますか?」
そう言って収納庫から、瓶詰めにした万能薬を取り出そうとする。
「1万本でしたら、倉庫に納品していただけますか?」
エルフに案内されて、倉庫に万能薬1万本を納める。
「先ほどの商品ですが、1本12万ソフィア、1千本で1億2千万ソフィアになります」
品質検査が終わったらしく、買取をしてくれた。お金は1万本の検査が終わってから一緒に受け取ることにして、商業ギルドを出た。
それから、検査が終わるまで、町を歩いて見ることにした。
「日本人顔が多いなあ」
「ねえ、転生者さん?」
悠は突然、声をかけられて驚く。
振り返ると、大学生ぐらいの時の諏訪とそっくりな若い女性が立っていた。
悠は一瞬取り乱すが、お仕事モードの平常心に戻る。
「そうですが」
「そうか、私が案内してあげようか?」
声もキャラも諏訪そっくりである。
「お願いしていいですか?」
「いいよ。私はルーリー」
「悠と言います。有馬悠です」
「悠君ね。この町はね転生者の文化がたくさん入ってきているの。ハンバーガーやマヨネーズ、たこ焼き、食べ物はたくさんあるよ。でもね、機械や自動車はないの。不思議だよね」
「ルーリーさん」
「ルーリーでいいよ」
「ルーリー、自動車って何でわかるんですか?」
「悠君は真面目さんだな、転生者が話してくれるんだよ。でも、誰も作れないの。面白いよね」
「自動車を1から設計できる人は転生してこないと思いますよ」心の中で、そう思ったがルーリーには伝えなかった。
「悠君は、ニート?それとも社蓄さん?」
「社蓄ですかね・・・」
「そう、無理せずにこの世界で暮らしたらいいよ」
昨日、ルーリーとすれ違った運河まで歩いてきた。
「ご飯、食べようか?」
「ルーリーは好きな食べ物はありますか?」
「何でも好きだよ。でも、今は親子丼を食べてみたい気分かな」
ルーリーに案内されて食堂に行く。食堂と言っても高級レストランのような内装である。
「親子丼を2つ、あと、デザートと飲み物は食事のあとで」
諏訪とはじめて2人きりで食事に行ったのは、市役所の横にあった有名なドーナツのチェーン店だったなとルーリーの顔を見ながら、悠は10年以上昔のことを思い出す。
親子丼は1杯5千ソフィアだった。
「デザートはね、プリンとカフェラテで」
「同じものを」
食事が終わると、花屋の前を通った。
「ルーリーは、花は好きですか」
「普通かな」
今度は、宝石店の前を通った。
「アクセサリーでも見ませんか?」
「悠君、がっつくと女の子はどん引きだよ。それにご飯、ご馳走してくれたから十分だよ。ありがとう」
「一緒に散歩していて楽しいからね、ありがとう」
運河の前のベンチに2人で座る。
「ねえ、悠君は転生前はどんなお仕事をしていたの?」
「うーん。官僚ってわかりませんよね。国の法律や予算を作る仕事なんですが」
「わかるよ、官僚」
「そうなんですか」
一瞬、悠はうまく説明できない違和感をルーリーに感じた。
「官僚さんか、頭がいいんだね」
「いや、ルーリーこそ何をやっているの?」
「それは秘密かな」
そういって悪戯っぽく微笑んだ。その姿は、諏訪恵の生き写しにしか見えなかった。
ルーリーは立ち上がると、
「また、お話しようね」
「またね」
ルーリーが歩いていくのを見送っている悠の背後からルベリアが声をかける。




