17.回復魔法はやっぱり大事だね、自粛しらんよ。死者も蘇生させるよ
「それだけ、転生者はこの世界では厄介者だということだ」
ギルド長がぶっきらぼうに言った。
ワイバーン2匹は、ギルドに隣接する解体施設に持っていかれた。
ギルドの受付に行くと、
「ほれ報酬だ。状態がいいワイバーンだからな」
ギルド長は2匹で、3千万ソフィアでワイバーンを買い取ってくれた。
「小切手に換えようか?」
ギルドには、銀行のように冒険者のお金を預かり、他の街のギルドに小切手にして持って行くと金貨と引き換えてくれるという。
全額ソフィアをギルドに預けると、悠はギルド長の部屋で面談を申し込む。
「魔獣と話が出来る?」
「そうです。魔獣を追い払うという依頼はありませんか?」
「ないな。魔獣と話せる奴がいないからな。だが、悠専用に追い払うだけでいいという依頼もこれからは受けるようにするよ」
「ありがとうございます」
悠は、ギルド長に御礼を言うとルベリアとサルトを連れて、フリージア神殿に向かった。
フリージア神殿で、法皇ミールに回復魔法を習うことにしたのである。
「回復魔法にゃん?」
法皇ミールに実際に回復魔法を使うところを見せてもらうことにした。
ミールは、ルベリアに手をかざす。
「このものの傷を癒せ、ヒール」
「これが、回復魔法の基本だにゃ」
「このものの傷を完璧に治せ、高ヒール」
「これが、上位回復魔法だにゃ」
悠は黙って、ミールの魔法を観察している。
ミールは手を広げる。
「このもの達の傷を完璧に治せ、広範囲高ヒール」
ミールの顔がどっと疲弊する。
「最上位の完全回復魔法だにゃ」
悠はマジックポーションをミールに渡す。
「ありがとうにゃん」
「病気を治す魔法も実演してもらえませんか?」
「わかったにゃ」
ミールは、悠達を神殿の近くにあるフリージア教の無料の診療所に連れて行く。
診療所で働いている神官達が、ミールに恭しく頭を下げる。
10歳ぐらいの少女がベッドに寝て、苦しそうに咳をしている。
「重い風邪にゃ」
ミールの姿を見て、少女は起き上がって頭を下げようとするのをミールが制止する。
少女の胸に手をかざすと、
「この少女の病の原因を探り、回復させよ。ヒール」
ミールの手から優しい光が放たれると、少女の咳が止まる。
「これが、治療魔法にゃ」
神官がミールに耳打ちをする。
神官に案内されて奥の病室に行くと、1人の老人がベッドに横たわっている。
頬はやせこけている。
「ソフィアの奇跡によって、このものを癒し回復させよ。高ヒール」
ミールの手から優しい光りがあふれ出す。目がうつろだった老人が嬉しそうにミールを見て涙を流す。
「これが、最上位の治療魔法にゃ」
治療室に行くと、骨折や怪我をした人達が並んでいる。
1人の男性の前で、ミールは手をかざす。
「このものの骨折を治せ、ヒール」
ミールの手から光りがあふれる。
10人ほどの患者が、治療室にいた。
ミールは手をかざす。
「このもの達の怪我や骨折、傷の原因を探り、回復させよ。広範囲高ヒール」
足を引きずったり、痛そうに手を押さえていた人達をミールから発せられた光りが包み込む。
そして、元気になった人達は、法皇ミールが治療してくれたことに感激して、滂沱の涙を流すのだった。
悠は、疲労感で椅子に座り込んだミールに鞄から取り出したマジックポーションを渡す。
ミールはマジックポーションを飲み干すと、魔法の説明を続ける。
「他には、アンデッドを浄化する魔法。神の祝福、防護力を挙げる魔法。死者の蘇生魔法があるにゃん」
「見せてもらうことは可能ですか?」
「アンデッドがいる場所を探すのが大変にゃん。死者の蘇生も事故死なら治せても、寿命で死んだ人を生き返らせることはできないにゃ」
ミールは神殿に戻ると、
「まず、祝福魔法にゃ。ソフィアの祝福を、ブレッシング」
「次が防御魔法にゃ。ソフィアの守りを、プロテクト」
「広範囲の防御魔法にゃ。このもの達にソフィアの守りを、広範囲プロテクト」
「そして、浄化魔法にゃ。不浄なるものを浄化せよ、ホーリーライト」
「最後が蘇生魔法にゃ。ソフィアの奇跡を、世の理を覆せ、リザレクション」
悠は疲労で椅子に座り込んだミールにマジックポーションを渡して、御礼を言うと、ギルドに行き追加で10本のマジックポーションを買った。それを鞄に入れると、転移魔法で草原に戻る。
「ルベリアさん、使える魔法を全部、実演してもらえませんか?」
「わかったにゃ」
ルベリアは、10メートル先の岩に小さな杖を向ける。
「炎よ焼き払え。ファイアボール」
岩に向かって数メートルの火の玉が飛んでいく。
「炎よことごとく焼き払え、広範囲ファイアボール」
今度は、大きな炎が数十メートルの範囲で草原を焼き尽くす。
「岩を打ち砕け、エアカッター」
圧縮された空気のようなものが杖から飛び、岩が粉々になる。
「われ等を守る壁となれ、ファイアウォール」
炎が壁のように、悠達の前に現れる。
「休憩にゃ」
ルベリアにマジックポーションを渡す。
「あとは、雷を落とすサンダーボルト、土の壁を出したり、敵を凍らせる魔法にゃ」
悠は、ルベリアがファイアボールを放った方角に人がいないことを確かめる。
見渡しのいい大草原である。悠達以外には誰もいない。
炎が一帯を燃やすイメージを浮かべ、
「燃やし尽くせ、ファイアボール」
悠がそう叫ぶと100メートルほどの範囲が焼けた。
数キロなら燃やしても大丈夫だろう。
「大炎上」
悠がそう唱えると草原一帯が燃えあがる。
「消火」
悠は、真空状態をイメージする。そして、炎は消える。
悠は、強力な魔法を使って眩暈がしたので、マジックポーションを飲む。
「すごいにゃ」
驚くルベリアとサルトと一緒に転移魔法でギルドに戻る。
ギルドに戻ると依頼を達成した冒険者達がチラホラと戻ってくる。
宿屋で酒を奢った冒険者達は悠を見ると、
「おう、社蓄さんじゃないか」
親しげに声をかけてくる。
魔獣に攻撃されて、怪我をしている冒険者もいる。
「祈ってもいいですか?」
駅前の宗教の勧誘だなと悠は苦笑する。
夕食を奢られた冒険者の1人が、不思議そうな顔をして、
「頼むよ、社蓄さん」
布を巻いて止血した手を出した。悠は血管の傷が治り、傷口から入り込んだ雑菌が消えていく姿をイメージする。
「ヒール」
悠の手が光る。
「おい、傷が治ってるよ」
腕の布を外した男が叫ぶ。
「社蓄さん、俺も頼むよ」
「社蓄さん、私も」
負傷した冒険者達が悠の前に並んだ。悠は、何人かにヒールや高ヒールをかける。
最初の列の冒険者の治療が終わった頃、遠征していた冒険者達が戻ってきた。
「社蓄さんは回復魔法も使えるのか、いい転生者だな」
5人が悠の前に並ぶ。
全員の身体中の怪我や傷、病気が治った状態をイメージする。
「広範囲高ヒール」
5人が光に包まれる。
「ありがとう、社蓄さん」
傷が治った冒険者達が悠に御礼を言う。治療が終わると悠は疲労感に襲われたので椅子に座り、マジックポーションを飲み干した。
「なあ、腰が痛かったのが治っているよ」
「虫歯も痛くない」
最初に治した冒険者達が悠を取り囲む。
病気や不調がすべて治っている姿をイメージした効果が出たようだ。
ミールに回復魔法のやり方を実演してもらうと、意訳で呪文を聞き取ることが出来た。
この世界の言葉では、どんな呪文を唱えているかわからなかったが、魔法とやり方は同じだと悠は確信した。
ギルドが騒がしくなる。Cランク冒険者のパーティーが魔獣討伐から帰ってきた。
3人の男がギルドで報告する。
「大蛇にやられた」
大蛇は、Bランク相当の魔獣である。男達は血を流している。
そして、2人の男が城門でリヤカーを借りたのだろう。
大きな布をかけられた女性魔法使いがリヤカーに乗せられている。
異世界では冒険者は簡単に死ぬ。
「あの、亡くなられた方にお祈りをさせてください」
「は、転生者様が何をするんだ?」
血まみれの冒険者に絡まれる。
「社蓄さんはいい転生者だ」
負傷を治してもらった冒険者達が悠を庇う。
「なら、祈ってやってくれ」
半信半疑で男達は悠を女性魔法使いの死体の前に連れて行く。
布を取ると、胸を大蛇にえぐられている。
悠は、神社でお祈りするように手を2回、打ち鳴らす。
「ソフィアさん、ソフィアさん。世の中の理を変えさせてください」
20代前半の女性である。ローブも血まみれだ。
悠は、身体の傷が回復し、生き返っている姿をイメージする。
「死者の完全蘇生」
悠はこの歳で中二病だなと苦笑しながら、真面目な顔で唱える。
強い光りが魔法使いの死体を照らす。すると、魔法使いは、ゆっくりと呼吸し、目を開けた。
「ミランダが生き返った」
冒険者が驚きの声をあげる。
悠は眩暈を感じたので、マジックポーションを取り出すと飲み干した。
それから、血まみれの男達に手をかざし、1人ずつ高ヒールをかける。
そして、ミランダと呼ばれた魔法使いに手をかざす。
「完全回復魔法」
傷が完全に癒されたミランダに念のため、鞄から取り出した万能薬と回復薬を飲ませる。
ギルドにいた数十名の冒険者達が叫ぶ。
「大賢者だ。社蓄大賢者様の誕生だ」
悠を拝む冒険者達に悠は頼む。
「せめて大賢者悠にしてもらえませんか?」
「社蓄大賢者悠様」
ミランダが涙を流し、悠に男達と一緒にひれ伏した。
「社蓄大賢者悠様が奇跡を起こされた」
ギルド長も騒ぎを聞きつけ、部屋から出てきて悠をみると笑うのを我慢している。
ギルド長は、社蓄の意味がわかっているんだなと悠はため息をついた。
回復魔法や蘇生魔法の御礼をしたいという冒険者達に、
「いりませんよ」
「それなら身体で払いますわ」
頬を赤らめるミランダが悠に告げる。
負傷を治した、何人かの若い女冒険者達も、
「自分等も身体で払いますよ、ハーレム・パーティーに入れてください」
「お気持ちは嬉しいんですが、今度は転生者のハーレムを潰しに行くので、ハーレムは作れないんですよ」
悠の言葉にギルドにいた冒険者達は、爆笑した。
「せめて食事くらい奢らせてくれ」
悠は、ルベリアとサルトと3人でギルドに併設された食堂で夕食をご馳走になった。
出された酒をイメージで水に変えて1口飲んでから、受付譲に許可を取り、悠は2階にあるギルド長の部屋に上がっていく。




