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16.勇者討伐の予算がないなら魔物狩りをすればいい

 王都に帰還した悠は、平民街にある宿屋に戻る。悠が、『働いたら負け教』を鎮圧したという噂が流れていたので、悠を見ても露骨に嫌な顔をする冒険者は少なくなっていた。

 「そろそろお風呂に入りたい」 

 悠は、平民のラードックに頼んで、大衆浴場に連れて行って貰った。

 大衆浴場は、石でできたローマの大浴場のような施設だった。1回1千ソフィアで入浴できる。

 泡立ちの悪い石鹸のようなもので身体を洗って湯船に入るとラードックに、

 「お疲れ様でした」

 悠が御礼を言った。

 「あんたは変わった転生者だな」

 「どうでしょうね。ハーレムを作りたいとか働きたくないというのは人間の潜在的欲望かもしれませんよ」

 

 悠は意味ありげに笑った。ルベリアとサルトは王宮のメイド用浴場に入浴に行っている。

 フリージア教の法皇ミールには、大賢者のダイの領地に神官を交代で派遣してもらうようにお願いをしておいた。

 アルベルト3世と宰相には、「大賢者(笑)ダイの村は、新しい信者を増やさないかわりに自治領として半独立を認めて欲しい」と事後報告をしておいた。


 大浴場から宿に戻ると、ルベリアとサルトが王宮から帰ってきていた。

 宿屋で夕食を3人で食べると、部屋に戻って悠はベッドに寝転ぶ。


 翌朝は、朝食を食べ終わった頃に迎えに来た宰相用の馬車で王宮に出勤した。王家の馬車は目立ちすぎるので、グレードを落として欲しいと交渉して、結局、宰相待遇になったのである。

 対策課に入ると、すでに他の職員は出勤してきている。

 悠が働いたら負け教を潰しに行っている間に、残っている職員達は転生者の問題行動や影響力についての報告書を作っていた。


 報告書を読むと悠は言った。

 「やはり勇者討伐かな・・・」

 働いたら負け教問題を解決してから悠に好意的になった宮廷書記官長補佐のルファルドの報告書には、2人の勇者についての問題行動が書かれていた。


 勇者ジュンと勇者マサである。勇者ジュンはネルランド諸国連合の自由都市ファンザで一番大きな転生者ハーレムを作っている。勇者マサは、王女シャルロットに手を出そうとして転生者恐怖症にした人物、つまり、悠が王宮を出て宿屋で自活する元凶となった変態ロリコン野郎である。


 勇者マサは、ネルランド諸国連合にある小さな国、エルキア公国で冒険者仲間を集めてプチ・ハーレムを作っている。

 「素朴な疑問だけど聞いていいですか?」

 悠はルファルド達に質問する。

 「勇者ってどうやったらなれるものなんですか?」

 「対策課長、伝説の武器を使えれば勇者認定されるんです」

 フィルが答える。

 「伝説の武器?」

 「勇者ジュンは聖剣エクスカリバーを持って転生してきました。勇者マサは、ロンギヌスの槍を持って転生してきました」

 「アーサー王の聖剣とキリストを殺した槍か・・・」

 大精霊ソフィアは、異世界語を理解できるようにしてくれた時に、「意訳機能がついている」と言っていた。法皇のミールの名前も、実際はもっと長い名前で、悠には発音できない呼び方のはずである。エクスカリバーやロンギヌスの槍も意訳しているだけで、この異世界では別の名前で呼ばれているチート武器であろう。

 意訳機能を外すと、「異世界的不思議武器ほにゃらら」になるはずである。

 ミールの名前も、この世界の言語で書くとmyyrhywのはずである。

 違和感なく会話が成り立つように、大精霊ソフィアの力で意訳して脳内変換してくれているのだ。

 エクスカリバーやロンギヌスの槍が異世界にあるわけがない。

 「やらかしたことの大きさだと勇者マサの方が重罪ですね。勇者マサから潰しに行きますか?」

 「場所的には、自由都市ファンザの方が近いぜ」

 ラードックが答える。警備隊長のラードックがデスクワークをしている姿はほっこりするなあと悠は眺めている。

 「ただ、勇者がいる自由都市ファンザもネルランド諸国連合もフリージア軍を出すことは出来ません。国際問題になりますから」

 軍参謀のメリザが進言する。

 「エクスカリバーやロンギヌスの槍を封じれば、サルトとルベリアで戦えば勝てるでしょう?」

 デスクがないので、勝手に応接用のソファに座っているサルトとルベリアを見る。

 「勝てるぴょん」

 サルトが断言したので、

 「じゃあ、勇者の討伐には、ルベリア、サルト、大神官のメールかマーレを連れて4人で行ってきますよ」

 悠は、自分の留守中も転生者の問題行動をレポートにするように頼むと、宿屋に戻り、ファンザに旅立つ準備をすることにした。ルベリアとサルトを悠の部屋に呼び勇者討伐の準備をする。

 

 「まず、その服を何とかしてください」

 フリージア国内ならともかく、他国では猫耳ブルマとウサギ耳メイドは目立ちすぎる。

 「そういえば、他の転生者のお世話もルベリアやサルト達がしたんですよね?」

 「そうぴょん」

 「転生者はメイドさん達を連れ出さなかったんですか?」

 「それは無理にゃん。私達はフリージアの貴族にゃ。転生者でも貴族を国外に無断で連れ出すことはできないにゃん。悠にゃんは、一緒に国外で暮らしたいにゃん?」

 悠は無言で首を振る。

 「冒険用の服を買いに行きましょう」

 「いやにゃん。ネコ耳ブルマはステータスにゃん」

 「新しい冒険服をプレゼントしますから、着てください。調停者である私からプレゼントされた冒険服はステータスにならないんですか?」

 「それならいいにゃん」

 悠は、上機嫌のルベリアとサルトを連れてギルドの受付に行き、服屋の場所を聞く。

そこに、悠来訪の報告を受けたギルド長が顔を出す。

 「お前さん、働いたら負け教を潰したんだってな。次は誰を潰すんだ?」

 「勇者狩りにネルランドまで行きます」

 「すげえな、おい。勇者を狩るのか?」

 「旅費がないんですよ。これから大蛇を10匹くらい狩ってきますから、ギルドで買ってもらえませんか?」

 「いいぜ。でもよ、それだったらワイバーンを討伐してもらえないか?ワイバーンの目撃情報が出ている。ワイバーンなら1匹1千万ソフィアになる」

 「いいですよ。目撃情報があるのはどこですか?」

 ギルド長は、羊皮紙の地図を広げる。

 「ここが王都だ。ここから東に半日ほど歩くと大草原がある。ワイバーンがいるのは大草原だな」

 「飛行魔法だと精神力が持たないでしょうね。マジックポーションというのでしょうか?魔法力を回復させるような薬はありますか?」

 「あるぜ、マジックポーションが1本5万ソフィア、体力を回復させる回復薬が1万ソフィア、万能薬が20万ソフィアだ」

 「薬の値段が想像以上に高いですね。マジックポーションを20本、回復薬を10本、万能薬を3本ください」

 「まいど。170万ソフィアだ」

 「悠ぴょんは、太っ腹だピョン」

 ポーションを買うとルベリアとサルトに薬を預ける。

 ギルド長に教えてもらった道具屋と服屋に行くと冒険者用の皮の鞄、魔法使いのローブ、騎士の皮の鎧を買った。

 「冒険者用の服というのはないんだよ」

 悠用の服をどうするか相談すると店主が困った顔をする。

 「ミスリルを織り込んだ服なら防護力も高いけど、1着500万ソフィアだ」

 悠は、旅人の服を買った。

 「ワイバーンの群れでも狩らないと服すら買えないですね」

 悠は、宿屋に戻って旅人の服に着替えると、回復薬2本とマジックポーション5本、万能薬1本を自分の鞄に入れて、残りはルベリアとサルトに渡した。そして、ルベリアとサルトを連れて城門まで歩く。


 警備兵に頼んで、リヤカーを借りるとリヤカーの荷台に3人で乗った。

 「空中浮遊」

 悠はリヤカーに乗って空に浮かび上がる。

 「シュールにゃん」

 「飛行魔法は慣れていないんです。話しかけると落ちますよ」

 そして、地図上のワイバーンが出現した場所まで飛んでいく。

 「一度、おりましょう」

 レーダーのように正確に魔物の位置を知ることは難しい。

 東の空にぼんやりと嫌な気配がする。この気配は、魔獣の魔素を探知しているのだろう。

 悠は、マジックポーションを1本飲み干す。金貨5枚の栄養ドリンクか・・・。

 ワイバーンが2匹、飛行している。ワイバーンは、リヤカーを見つけると威嚇しながら近づいて来る。

 「エアカッター」

 悠は、ワイバーンの首が切れる姿をイメージする。この世界のやり方で魔法を使えるわけではないので、エアカッターと名づけたオリジナルの魔法で2匹のワイバーンの首を同時に切り落とす。

 「すごいにゃん」

 「まるで勇者だピョン」

 「それ悪口ですよ」

 ワイバーンを狩ってから、リヤカーを一度、地上に降ろすと、ルベリアとサルトにワイバーンの死体を見張っていてもらう。

 そして、もう一度、空に飛び上がるとワイバーンの気配を探す。かなり遠くの東の空に嫌な気配がする。悠は、嫌な気配がする方に向かって飛んでいく。

 ライオンの身体に、鷲の顔。グリフォンである。

 「グリフォンって、討伐していいんですかね?」

 テレパシーが通じるといいけど・・・。

 「すいません。私は大精霊から召還された調停者の悠といいます。あなたと意思疎通が可能でしょうか?」

 「神獣じゃから意思の疎通は出来るよ」

 「狩ったら駄目な方ですか・・・」

 「物騒な奴じゃな」

 「ワイバーンの群れを探しているんです」

 「狩るのかね?」

 「旅費にしたいんですが、ダメですか?」

 「ワイバーンも意思の疎通ができるはずじゃが、悠よ確認をしたか?」

 「え?ワイバーンも人間と意思の疎通が可能なんですか?」

 「そうじゃ。というよりな、悠ならほとんどの魔獣と意思の疎通が可能じゃよ」

 「じゃあ、これからは話し合ってから討伐します」

 「その方がいいじゃろうな」

 悠は、グリフォンに御礼を言ってルベリア達のところに戻った。

 悠がグリフォンから聞いた話をすると、

 「グリフォンと話せるのは女神と大精霊様だけにゃ。ワイバーンと話せるという話もはじめて聞いたにゃ」

 「悠の調停者の能力だと思うぴょん」

 悠は対話できたかもしれない2匹のワイバーンの死体を何ともいえない気持ちで眺める。

 「一度、王都に戻ろうか」

 

 悠は、王都の城門をイメージするとルベリア、サルト、ワイバーンの死体2匹と転移する。

 頭がクラクラしたので、マジックポーションを飲んだ。

 警備兵は、悠が持ってきたワイバーンの死体を見て驚愕している。

 数十メートルあるワイバーンを浮かせて、ギルドに運ぶのも迷惑な気がしたので、警備兵に頼んで、 ギルド長を城門まで呼んできてもらった。

 「悠は、勇者以上に勇者だな」

 ギルド長は、数名の職員を連れてやってきたが職員にすぐに20名ほどの冒険者達を呼びに行かせた。

 ワイバーンの死体を引いて城門からギルドに向かう。

 悠達を見て、町の人達は、

 「まともな転生者がやってきた」

 「英雄の帰還だ」

 小さな拍手がだんだん大きな拍手に変わっていく。

 「まともな転生者って・・・」

 悠は苦笑する。


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