15.働いたら負け教を国教化するか?(初勝利)
翌日、5千人の討伐軍が編成された。
「5千人か、オーバーキルにならないかな」
悠はメリザに呟く。
「魔法で相手を無力化しますから、相手と同数の2千人で行きましょう」
軍事大臣も喜んでくれた。
「兵数が少ない方が予算的に助かります」
悠は、現場指揮のラードック、メリザ、フィル、そして護衛のルベリアとサルトを連れて馬車に乗り込んだ。
軍人のラードックとメリザは自分の馬で、乗馬はできるけれど、1日も馬に乗りたくない悠は軍用馬車で現場に向かう。
働いたら負け教の本山の10キロ手前に軍を待機させると、魔法使い50人、騎馬兵100騎、歩兵100人を連れて、悠が直接、話し合いに向かう。
「この世界で白旗に特別な意味はありますか?」
メリザに確認をするが、「特に意味はない」と言われたので白旗を掲げさせ、日本語で交渉旗と悠が旗に書く。
本山といっても、木材で作った小さな砦である。
「ダイ様、砦の外を王国軍が囲っています」
ダイが最初の頃に助けた冒険者達がダイに報告した。ダイは、異世界から持ってきたジャージに着替える。砦の数百メートル、向こうにはスーツにノー・ネクタイの悠が魔法使いと騎士団を率いて白旗を持って立っている。
ジャージを着たダイの姿を見ると、悠は日本語で叫んだ。
「私は大精霊ソフィア被害者の会会長の有馬悠です。転生者の方がいたら話合いたいのですが」
ダイは大声で叫ぶのは苦手だ。日本語ならなおさら苦手である。
ダイが、無言で砦の中から悠を見つめていると、冒険者達が、
「帰れ、帰れ」
そう言って、悠に向かって火炎魔法を放つ。
「悠にゃん、危ない。フィールド」
悠の横にいた。ルベリアが盾魔法で炎を防ぐ。
猫耳メイドをはべらせている変態転生者と話すことなどない。
「戦いましょう」
ダイがそう宣言すると、砦の中に数百人いた冒険者達が、砦の中から一斉に攻撃魔法を放つ。
ダイが世話をした周辺の村々からは、農具や棍棒で武装した農民達がダイの救援に集まってくる。
王国軍は、正面の冒険者達、1千人を越える村人達に囲まれていた。
「どうみても、こっちが悪役ですね」
スーツ姿の悠は、王国軍に伝令を出す。
「農民は怪我をさせてもいいけど、絶対に殺さないで、武装解除させてください」
悠はルベリアとサルトに守られながら、逃げる。
「冒険者を殺した場合、死者を復活させる魔法や薬はありますか?」
「死者の復活は、大賢者や法皇様にしか出来ないはずです」
王都まで1日、今から法皇のミールを呼んでも間に合わない。大賢者ダイも死者の復活が出来るかどうかはわからない。
「半殺しにしてもいいから、冒険者も殺さないで。こちらも危なくなったら全力で逃げて命大事に戦ってください」
悠は、砦から1キロほど離れると冒険者達が鎖でグルグル巻きにされている姿をイメージする。
「捕縛」
砦から出てきた数百人の戦士が鎖で捕縛される。
そういえば、空を飛べたたなと悠は身体を浮かせる。50メートルほど上空から農民達をローブで縛り上げ、砦の魔法使いやダイを鎖で捕縛する。
捕縛したが、ダイは鎖を魔法で外すと、魔法使いや冒険者の鎖も外した。
一度、地上に降りると、悠の回りをルベリアやサルト、騎士団に囲ませる。
「ソフィアの力にて大賢者ダイのスキルを封じよ」
異世界人のチート封じ、ソフィアの手を使うと悠は疲労でその場に座り込む。
サルトに身体を支えてもらい、もう一度、鎖で冒険者達を捕縛する。
悠は、一度、姿を確認した魔法使い達やダイをイメージすることは出来る。
ダイと魔法使い達も捕縛すると、悠は疲労で気を失った。
悠が目を覚ますと、フリージア軍のテントの中にいた。
ルベリアが膝枕をしている。
横には、鎖で縛られたまま寝かされているダイがいた。
フリージア軍も女神が召還したダイを傷つけることは出来ない。武装した兵が恐る恐るダイを取り囲んでいた。
悠が目を覚ますと、しばらくしてダイも目を覚ます。
「はじめまして、私は有馬悠といいます」
ダイの鎖を解除すると、悠は大精霊ソフィアから拉致されたこと、女神フリージアが行方不明になり異世界人の管理をするために無理やり連れてこられたことを説明する。
「一緒に地球に戻りませんか?」
「戻っても、地球は幸せな世界じゃない」
ダイの身の上話を聞いた悠は、
「大輔さんは、コツコツ、勉強するのは向いていないから司法試験でも受けたら良いと思いますよ」
「個人的な感想ですよ」
そう前置きしてから、悠は話を続ける。
「人間は、努力型と天才型にわかれているように思います。大輔さんは天才型だから、一発逆転を狙ったほうがいいです。努力型の人にはもっと地道な方法を教えるんですけどね。司法試験はね、過去問をやって出題傾向を掴むんです。大輔さんの場合、ロースクールや大学で理論的なことを学ぶと途中でやめちゃうと思う。受けるのは、司法書士でもいいですけどね。頭はいいんだから、出題される部分だけ覚えるんです。資格じゃなくても、FXやデイトレードでも良いし、食っていけるなら犯罪じゃなきゃ何でもいいと思いますよ」
海外研修やサークルの費用を捻出するために大学時代は塾、家庭教師、予備校の講師をかけ持ちしていた悠は本質的にはお節介な人間である。
「大輔さんの無理をして働かないという教えは広めてもらっても構いません。むしろ広まった方がいいと思う。けれど、他の転生者の働いたら負けとか、ニート保護法もあって誤解が生まれるんです。ぶっちゃけ、霞が関という過労死覚悟の職場で働いているとあなたの教えは日本でこそ広めるべき教えだと思いますよ。私も入信したいぐらいです」
悠は、フィルに話しかける。
「この辺は、貴族の領土ですか?」
「いえ、王国の直轄領です」
「直轄領なら、大賢者ダイを慕っている村人や冒険者を領民にして、ダイを仮領主として独立させましょう」
「今の活動を続けてもいいんですか?」
ダイの問いに、
「影響力のある転生者を潰したら、ニート保護法を廃止します。ダイさんはニート給付金を貰っていませんから問題はないでしょう。一緒に王宮で転生者を取り締まってもらえると助かりますが・・・」
「それは・・・。考えておきます」
悠は、ダイと新しい信者の受け入れをしない。独立領以外では、「働いたら負け教」の布教をさせないことを約束させ、そのかわりに王都から回復魔法が使える神官や薬草を村に送る約束をした。
王都に戻る前に、蘇生魔法についてダイに質問をする。
「僕は精神力が低いので使えません。ただ、精神力が高まれば、大賢者なら使えると思います」
大賢者のスキルがあると、なんとなく頭の中に呪文が浮かんでくるのだという。
ダイに御礼を言って、悠はフリージア軍を引き下げさせる。
村人や冒険者達、フリージア軍にも死者は出なかったという。
怪我をした人達には、フリージア軍が連れてきた神官や軍の回復薬を使って治療したとラードックから報告を受けた。
こうして最初の転生者討伐は終わったのである。




