14.転生者の邪教・働いたら負け教をぶっ潰せ!
「そういえば、この国には転生者はいないんですよね?なんで転生者のことを町の人は嫌っているんですか?」
「それは、働いたら負け教のせいぴょん」
「働いたら負け教?」
「転生者が作った宗教で、働いたら負けという教えを広めているぴょん。その影響で働かなくなる人が出て困っているぴょん」
「転生者だから、フリージア教も取り締まれないということですか?」
「そうぴょん。フリージア教は元々、教義がないからフリージア様の守護を受けた転生者が広めているものは取り締まれないぴょん」
「転生者の名前はわかりますか?」
「ダイと呼ばれている大賢者だぴょん」
「大賢者がチート能力なんですか?」
「この国の1級魔術師より魔力が上で、神官と同じ回復魔法が使えるはずぴょん」
「はずというのは?」
「大賢者だけど、働いていないから魔法を使ったのを誰も見たことがないぴょん」
「ダイは、どこにいるんですか?」
「ネルランドとフリージア神聖王国の国境の山に本山を作って、信者達と自堕落に生きているぴょん」
悠は、課長席から立ち上がる、課員のデスクの前に行く。
「はい、注目。諸君、とりあえず、働いたら負け教を潰しに行きます」
「メリザさん、国境までの軍の移動時間を教えてください」
軍の参謀のメリザが立ち上がる。
「早馬なら半日。歩兵や魔法使いを連れた通常の軍であれば、移動に1日半必要です」
悠は顎に手をあてて考える。
「ルファルドさん、宰相、軍部、宮廷魔法団との調整をお願いしてもよろしいですか?」
宮廷書記官長補佐のルファルドは、席に座ったまま答える。
「それが専門ですから」
「本山の信者数がわかる方はいますか?」
職員達の顔を見る。
「2000人だ。国境警備で近くまで行った事がある」
警備隊のラードックが答える。
「武装していましたか?」
「魔法使いや剣士はいた。冒険者がかなり信者にいる」
「冒険者もランクはあるでしょうが、1人の平均的な冒険者を制圧するのに、軍人は何人くらい必要ですか?」
「相手がCランク冒険パーティーで剣士2人、魔法使い2人の平均的パーティーなら、5人の剣士、2人の宮廷魔術師がいれば制圧できる」
1級魔術師のルルド、参謀のメリザにも確認する。
「ラードックさんの見積もりで勝てると思いますか?」
「1、2級の宮廷魔術師なら魔術師は制圧できるわよ」
メリザの顔を見る。
「正規軍、5千人であれば2千人の冒険者でも制圧できます」
「フリージア軍の規模は何人ですか?」
「王都にいる正規軍が1万人、国境周辺に5千人です」
「王都の兵の半分か・・・」
「今、王都の兵を動かした場合、隣国が攻めてきたり、貴族が内乱を起こす可能性はありますか?」
「ないと思います」
あとは糧食と予算か・・・。
「元予算課のクリストファーさん、正規軍を5千人動かすだけの予算はありますか?」
「数日分であればありますが。ただ、これからも兵を動かすのであれば、王国の予算では厳しいかと・・・。」
「異世界でも、予算との戦いか」
軍事大臣にお願いして、軍を編成してもらえばいい。
「嘘をつかないほうがいいだろうね」
悠は、対策課の職員に説明をすることにした。
「大精霊ソフィアからは、ニート、怠惰な人間です。ニートや引きこもりしか転生者にいないと聞かされて作戦を立てています。しかし、もし優秀なエリートが転生していた場合、王国等の軍事力、予算、生産力を把握して敵対してくるでしょう・・・」
大神官のメールがうさ耳をヒクヒクと動かす。
どうやって動かしているのだろう。
「『働いたら負け教』の教祖は、ニートではないピョン?」
悠は首を傾げる。
「教祖の転生チートが大賢者なんですよね。大精霊は、元の能力を参考にチートにしていると言っていました。もう1つは、働いたら負けは、ニートの発想なんですが、それを組織化して宗教にしているとしたら、教祖はかなり頭がいい人だと考えた方がいいと思います」
「用心して、戦おう」
ラードックが皆を鼓舞するように陽気に言った。
その頃、働いたら負け教の大本山では、大賢者ダイが小屋の中で新しく入信した信者達に教えを説いていた。
「教えなんかないよ。無理せず、適当にダラダラ生きようね」
半年前、ダイはこの世界に転生してきた。
ダイの日本名は鈴木大輔である。18歳。都会のごく普通の教育熱心な家庭に育った。
大輔の父親は大企業のサラリーマンだった。大企業のサラリーマンだったが、大輔が小学生の時に過労死した。
母親は、大輔を塾に入れ、偏差値がかなり高い中高一貫校に入学させた。勉強は苦手ではなかったが、内向的な大輔はなんとなく学校になじめなくなった。そして、学校の成績が落ちてくると他校への転入を迫られた。有名高校からの低偏差値高への編入は簡単だった。簡単だったが、大輔がなじめるわけもなく、当たり前に不登校になった。それからは、自堕落に配信動画を見たり、ゲームをやったりして、日々を過ごしていた。そして、久しぶりに近所のコンビニに外出しようとした時、突然、光りに包まれて女神フリージアにこの世界に連れてこられた。
これが異世界転生かと大輔は思った。
「で、魔王を倒せと?」
フリージア相手に小馬鹿にしたような口調で大輔は話しかける。
「いえいえ、好きに生きたらいいですよ。異世界に行ってまで勉強したり、仕事をしたいですか?」
大輔は、異世界で生活していけるようにチート能力を貰った。
「あなたは頭がいいから、大賢者か何かでしょうね。それで働かずに異世界ライフを満喫してくださいね」
フリージア神殿に大輔が召還され、王宮に連れて行かれると、世話係のブルマ姿やウサギ耳メイドがいる。
「その格好は何?」
「以前に召還された転生者様が、転生者をもてなすのはこういう格好だと説明してくださいましたぴょん」
聞けばこの世界には、ニート保護法があるという。最初はニート給付金を貰っていた大輔も、転生者の自分を白い目で見るフリージアの住民に堪えられなくなり王都を出た。
「働かずに、ニート給付金を貰っていたら恨まれるよな・・・」
ネルランド諸国連合は、転生者に甘いという。ハイランド帝国、アリシア皇国は転生者のチート能力目当てだろうが、数億ソフィアのニート給付金があるという。
フリージアとネルランドの国境付近の村にたどり着いた時、旱魃で困っている村人達がいた。
大輔は魔法を使ったことがないが、大賢者なら雨ぐらい降らせるだろうと祈ると、雨が降った。
二毛作や連作障害、社会や歴史で習った知識を教えると村人達はとても喜んでくれた。
「この知識は、この世界でも使えるかどうかわからないから全部の畑で試さないでね」
この世界に医者はいない。魔法が発達しているので、魔法で治せるものは治す。薬草や万能薬のようなもので病気や怪我を治す。けれど、庶民は高価な魔法治療を受けたり、薬草を買えないので、平均寿命は短い。30代、40代で死ぬ人もいる。
大輔は村の近くで、魔法で病気を治したりして、村人達から御礼を貰って生活していた。
魔法を使い続けるには、強い精神力が必要である。地球で自堕落な日々を送っていた大輔は、精神力が低い。回復魔法、数回で魔法が使えなくなる。雨を降らせた時も、疲労で動けなくなって、村人に看病してもらった。
「集落のシャーマンだな」
大輔は苦笑する。こうして、大輔は、大賢者ダイと呼ばれるようになった。
村の周辺で魔獣狩りをして傷づいた冒険者に回復魔法で治すと何人かの冒険者がダイを慕って、村の周辺に暮らすようになった。
「無理して働かない。過労死するくらいなら働かなくてもいい」
という教えは、「働いたら負け」という転生者達のキャッチフレーズと混同され、「働いたら負け教」として広まっていった。
そして、働いたら負け教を討伐するために、悠はフリージア軍を率いてダイを慕う村人達を包囲しようとしていた。
「火薬を使った武器はあるの?」
悠は、フリージア軍の装備を見学していた。
「ありません。転生した方々は、鉄砲や大砲といった火薬を使った武器があるのか質問する方が多いのですが、火薬はあります。鉱山で使う火薬はありますが、魔法で火薬に火をつけることができる世界ですので、冒険者が補助武器として鉄砲を使うこともありますが、人間同士の戦争では火薬を使った武器は使いません」
軍参謀のメリザがよどみなく答える。
羅針盤やコンパスも、「風の精霊がだいたいの位置と方角を教えてくれるので、不要」とのことだった。そうか、魔法のGPSがあるわけか。
鉱山で働くドワーフ達は地の精霊が方角を教えてくれる。エルフ達は風の精霊が方角を教えてくれる。
「あのさ、素朴な疑問なんだけどいいですか?」
悠はくだけた口調で、メリザに質問する。
「働いたら負け教の2千人前後の食料は、どうやって調達しているんですかね?」
メリザは答えられない。
警備隊のラードックが、
「略奪はしていないな」
大法官秘書官のフィルは、
「大賢者ダイは、雨を降らせたりして、豊作にする力があるようです。肥料の知識もあるようで、周辺住民に農業のやり方を教えて、その御礼に農作物を貰って生活しているようです」
「働いているよね・・・。働いたら負け教じゃないじゃん」
「そうなんですよね・・・。王都の信者達は働かない言い訳に使っていますけど、本山の信者は働いているんですよね」
「これ、無理に潰す必要あるかな?」
悠はフィル、ラードック、メリザの顔を見る。
「大賢者ダイですか。これから、その転生者と話をしてみるけど、対策課の課長補佐に就任させて働いてもらえばいいんじゃないかな」




