13.転生者狩りのはじまりです
翌朝、宿で目が覚める。ベッドと机1つの小さな部屋である。地球の1LDKくらいだろうか?
「おはよう。社蓄・悠」
1階の食堂に朝食を食べに行くと、少女が悠に声をかける。
「おはようございます。社蓄というのは肩書きではないんですけど・・・」
少女はにこりと微笑むと、ベーコンと黒パン、スープを出してくれた。
ルベリアとサルトも食堂に降りてきた。宿屋の部屋でも2人は眠れたようである。
ルベリアとサルトも食事を食べていると、外が騒がしい。
王宮の馬車、それも国王用の馬車で迎えに来たようである。
悠は、ゆっくりと朝食を食べると、ルベリアとサルトと3人で外に出る。
「行ってきます」
少女にそう告げる。昨日の近衛兵が悠に頭を下げる。
近衛兵は10名。馬も2匹連れてきている。
指揮官の識別証、金色のバッチを胸に着けた20代の近衛隊長が話しかける。
「悠様、このような宿に泊まられては警備が出来ません。せめて貴族街の宿か王宮にお戻りいただけませんか?」
「そのことは宰相とお話してから決めましょう」
転移魔法で、王宮にルベリアとサルトも連れて行けるが、まだ手の内を見せない方が良いと判断して馬車で行くことにした。
「ドナドナドーナ」
悠が口ずさむと、ルベリアとサルトも真似をして口ずさむ。ドナドナの三重奏はシュールだった。
王宮にドナドナされた悠は、アルベルト3世に挨拶すると異世界対策課に歩いていく。
「悠殿、昨日は王妃が失礼なことを申し上げた。他の部屋を用意するので王宮に戻っていただきたい」
「王妃様や王女様が転生者にトラウマがあるのなら、転生者の私はしばらく外で生活した方がいいでしょうね」
「屋敷を用意させよう」
「宿を借りましたから大丈夫ですよ、では、失礼します」
転生対策課は、宮廷書記官長の部屋の横に作ってもらった。部屋の広さも、机を並べれば20人は入れる広さがある。課長補佐から、課長に昇進したなと悠用のデスクに座る。宰相、宮廷魔法団長、軍事大臣、大法官に異世界対策課の職員候補のリストを作ってもらった。100人ほどの名簿を渡された。
「どうやって職員を選ぼうかな」
ルベリアとサルトは、世話係として残るつもりらしく、悠の側に立っている。空いているデスクに座らせると、名簿に目を通す。
宰相が推薦してきたのは、貴族の次男や三男である。近衛隊や宰相、宮廷書記官長の下で働いている宮廷書記官達、伯爵や子爵の子供が多いように感じた。
魔術師は、1級、2級魔術師を中心に半分が貴族、半分が平民だった。
大法官は、司法機関や財務機関、20代~30代の行政官僚を推薦してきた。特技や経歴が書いてあるが、人数が多すぎる。
悠は、王宮内の講堂を借りると100人の候補者を集めてもらった。
「異世界対策課長に就任した悠です。これから選別をはじめますが、異世界対策課への配属を希望する人は残ってください。希望しない人は講堂から退席してください」
悠が世界の王としてアルベルト3世を王に任命したこと、また、フリージア教の前法皇であることを出席者達は知っている。王宮で働いているのだから知っている。
絶対権力者であり、大精霊ソフィアの使徒である調停者であることも知っている。
拒否できるものはいまい。
それでも、10人ほどは席を立つと講堂から出て行く。
講堂から出て行った10人は、悠に依頼されていた近衛兵に拘束され、異世界対策課に連行された。
悠は、講堂に集まってくれた職員に御礼を言うと解散した。
ふてくされた顔で連行されてきた10人に悠は告げる。
「異世界対策課へようこそ」
「ふざけるな」
筋肉質の男が悠を睨みつける。
退室者の調査票を宰相や大法官達が分別してくれた。
たぶん、警備隊長のラードック、28歳、平民であろう。
「悠様、あなたは参加しない自由もあると仰いましたよね」
宮廷書記官長補佐、公爵家の次男のルファルドが問う。
「それは嘘です。退席者を採用するつもりでした」
「調停者様よ、いいかな?」
この中では一番年長の平民、35歳の司法省で働くエリサが手をあげる。
「どうぞ」
「なんで、退席者を異世界対策課に採用したんだ?」
「同調圧力というのかな、普通は国の高官が推薦したら退席できないですよ。自分の高い身分や転生者に対する考え方、今の仕事をやめられない、色々な理由で拒否したんでしょうけどね」
「だったら、やりたい人から選びなさいよ」
ルルド、19歳の1級魔術師で伯爵家の次女か。胸はルベリアやサルトより少し小さいか、眼鏡をかけた小柄な女性が悠を睨む。
「士気の問題がありますので、退席者から選ぶのは不効率かと」
同じように退席した軍事省の参謀、長身の子爵家の三女のメリザもルルドに冷静な口調で同調する。
「皆さんが仰ることは正しいですよ。ただね、異世界対策課の仕事は何だと思います?女神の指名で勇者になったり、女神からチート能力を貰ってハーレムを作ったりしている転生者を潰す仕事でしょう?」
悠は10人の顔を見回す。
「私も大精霊とやらに無理やり転生者を取り締まれと転生させられたんです。仕事中にね。私も早く異世界のトラブルを解決して元の世界に戻りたいんですよ」
「転生者に怖じけない。転生者に反抗できる人間を選んだということですか?」
大法官の秘書官のフィルが言った。
「そういうことです。何年もかけてやる仕事ではありません。数ヶ月。遅くとも1年以内に終わらせて、この課は解散します。助けていただけませんか?」
「どうやって転生者の問題を解決するんだ?」
ラードックが悠に問う。
「私は他の転生者はと違って女神フリージアではなく、大精霊ソフィアにこの世界に拉致されました。女神フリージアは、転生者にチート能力を与えたようですが、私には剣や魔法のチート能力はありません。しかし、大精霊ソフィアから与えられた転生者のチート能力を一時的に封印する能力があります」
「それで転生者を捕まえるのか?」
「捕まえもしますが、その前に、この世界の化粧は、私達の世界、日本の化粧に似せていますよね?あるいは、ここにいるルベリアさんやサルトさんのようにブルマやメイド服、『にゃん』とか、『ぴょん』というおかしな喋り方、転生者が教えた間違った情報を迷惑度が高いものから元に戻していきます」
「にゃんは、おかしくないにゃん」
「ルベリア、ちょっと黙って。話が脱線するから」
10人が少し興味を持ったのか、悠の言葉を待つ。
「例えば、『ニート保護法』というふざけた法律があると聞きました。これはフリージア教の指示で出したものなので、法皇と相談してフリージア教からニートを保護しないようにという命令を出してもらいます」
10人の顔を1人、1人確認しながら悠は話を続ける。
「今、女神フリージアは行方不明です。女神フリージアの指名手配。転生者に対する法律等の廃止、 そして、ハーレム等を優先順位をつけて、潰していきます。この課では、問題の列挙、問題を解決する優先順位を整理して、法皇、国王と相談してルールを変える必要があれば変える。軍を出す必要があれば、私もチート封じのために必ず参加します」
悠は、一呼吸あける。
「業務の説明は以上です。それでも辞めたい方は止めません。しかし、もし現状がおかしいと考え、改善することに力を貸しても良いと考えてくれるのなら一緒に働きましょう」
10人は、誰も退席しなかった。悠は、くじ引きでデスクを決める。全員が着席すると課長席に座った悠が話し始める。
「まず、私の国には身分制度が存在しません。働いたら負けとかニートは特権階級というのも転生者の戯言です。貴族制度も理解はします。理解しますが、課内に仕事と無関係の序列があると仕事の遂行速度が低下します。貴族を否定はしませんが、対策課内では貴族、平民無関係に接してください。そのためにくじ引きで席を決めました」
異論の声はあがらなかった。
「私自身の紹介を簡単に。転生前の名前は有馬悠です。この世界では発音が難しいでしょう。悠殿とアルベルト3世殿達には呼んでもらっています。皆さんは、嫌でなければ対策課長と呼んでください。もちろん、悠、悠等の名前で呼びたければ好きに呼んでください」
悠は対策課の備品を見る。黒板があるのか。
地球では、黒板の普及はフランス革命前後のはずである。
「①文化汚染(ブルマや猫耳)、②法令問題(ニート保護法等)、③転生者のハーレムや王国、勇者等のトラブル。→根底にあるのは、『④転生者が伝えた間違った知識』」
悠は黒板にチョークで書き出す。
紙は、現代社会ほど安くはないが、王宮で使用できないほど高額なものでもなかった。
フリージア神殿からも、異世界対策課に人材を出してもらった。大神官のメールである。
悠が説明をしていると、侍従に案内されて、大神官のメールが異世界対策課にやってきた。
黒板の近くの椅子に座ってもらい、対策課のメンバーに①、②、③、④を自由に黒板に書き出してもらう。
1、2時間ほどで黒板は真っ白になる。
参加者の話を要約すると、①の文化汚染は、ブルマ、猫耳、うさぎ耳、尻尾、バニーガール、スクール水着、ハイレグやビキニといったコスプレ文化、にゃんやぴょん、ご主人様のようなメイド喫茶の文化、Tバック等も普及しているという。
②は、ニート保護法。フリージア教が転生者への給付金を支払うことを国家に求める宗教命令。国によって異なるが、年額1千万ソフィア~1億ソフィアが転生者1人、1人に支払われているらしい。フリージア神聖王国では、2千万ソフィアが転生者に給付されるが、もっと給付金の多い国に転生者は流れていったという。
③は、転生者の勇者等が女性を女神フリージアの使徒だといってハーレムに勧誘しているらしい。10人単位のハーレム、数十人単位やもっと大きなハーレムもあるという。王国は、ネルランド諸国連合に転生者が建国した国があるという。ネルランド諸国連合は、小国の連合体である。黒髪の日本人に似た人々が多く暮らし、エルフや獣人、ドワーフとも共存しているという。エルフの国やドワーフの国、様々な亜人や獣人の国の連合がネルランドである。転生者の多くは、日本人顔の美少女やエルフ、獣人、亜人の美少女を求めてネルランドに住んでいるという。
④は、悠が解説をした。働いたら負けは嘘。そんな文化は地球にはない。ニートは支配階級ではない。自宅警備員は王国騎士団のようなものではなくただの無職である。ゆえに、転生者も労働をして生きていく必要があり、ニートを保護する必要はない。
「メール。他の国で、働いている転生者はどれくらいいるかわかりますか?」
「数名だと思うぴょん」
「ニートは女神フリージアのチート能力がある。ニート保護法を廃止すれば、滞在国で暴れるかもしれません。最初に、問題が大きい転生者を個別に潰してから、いきなりニート保護法を廃止する命令をフリージア教会が法皇命令で出しましょう。もし、王宮等で私のように働いている転生者がいれば事前に他の国に情報が漏れて、この世界の住人に危害を加える危険性があります」
「だったら、安心するぴょん。自分の国を作ったり、勇者としてハーレムを作ったりしている転生者以外は、自堕落に暮らしているぴょん」




