12.社畜認定されて、異世界人に好かれました
「同じ部屋に泊まるにゃん」
ルベリア達と別れて部屋に入り、さきほど魔獣を狩った森をイメージする。
悠は、魔法で森に転移できたことを確認すると、また転移して宿に戻った。
「便利そうで怖い能力だな」
空から隕石が降るとイメージすれば、隕石が降ってくるのだろうか。メテオブレイクか。
魔法の詠唱は、魔法の暴走を防ぐためにあるのだろう。
ソフィアに確認をしたかったが、呼びかけてもソフィアは姿を現さない。
「食事に行くにゃん」
ルベリアがドアを叩く。悠達は宿の食堂に降りていく。
宿の1階は、大食堂になっていた。テーブル席には20人ほどの冒険者らしき人達が食事を取っている。黒髪の悠を見ると、口々に、
「また転生者様が来やがった」
この世界では、転生者は歓迎されていないことがよくわかった。
悠には物価がよくわからない。ルベリアやサルトも貴族なので庶民の生活はわからないだろう。1万 ソフィアで泊まれるこの宿は、高くもなく、安くもない中級の宿屋だろうか。部屋を借りたいと宿に入った時、受付の少女はあからさまに嫌悪感を持って悠を見た。それでも、この世界の住人であるルベリアやサルトを連れていたので、前払いで部屋を貸してくれた。
肉と魚とサラダとスープを頼むと1人2千ソフィア、3人で6千ソフィアをウエイトレスも兼任している受付の少女に前金で要求された。
ルベリア達はこうした店に入るのは初めてだろう。
他のお客達がニヤニヤ笑いながら、悠達の方を見てくる。
肉や魚は、塩味がきつい。酸味もきつい。ドイツの田舎料理に似た味付けだろうか。
悠が普通に食事を食べると、他のお客達が驚いた顔をする。
「日本人にはきつい味かな」
悠は、地球で食糧事情が悪い国も旅行している。基本的に食べられないものはない。
悠のテーブルに酒がないのを見ると、中年の冒険者が、
「転生者様はお酒は苦手なのか?」
そう言って絡んできたので、男が手にしている木のコップを見る。茶色ということは、エールかな?流通しているとすればワインかエールだろう。
「お酒、お強いんですね。失礼でなければ、こちらにいる皆さんの分はおごりで」
歓声が起こる。
「転生者様がお金を持っているのかい」
「一応、狩りに行ってきたんですよ」
「ほう」
悠のテーブルにもエールが運ばれてきた。口をつけると生ぬるいビールだった。
ウイスキーがあるなら相手を潰せるんだけどなと悠は思った。
若い頃、ライバル省庁の集団に飲み勝負を持ちかけられた事がある。ウイスキーの水割りを悠はウーロン茶で作る。最初の一杯は同じ濃さにして渡す。2杯目からは、悠の分はだんだん、ウイスキーの量を減らし、相手のウイスキーの割合を増やしていく。悠のグラスがほぼウーロン茶になった頃、10名ほどいた男達は酔いつぶれて寝てしまった。悠の隣でそれを見ていた、山口真衣は、
「そんなくだらない勝負をしなくても」
呆れていた。
若い頃から仕事で地方のおっちゃん達と酒を飲む機会が多かった悠は、アルコールを飲んでもすべてトイレで吐くことにしていた。
最悪、冒険者に絡まれたらトイレで吐くかと思いながら、アルコールは素粒子から出来ているから、魔法で水に分解できるのではないかという考えが思い浮かぶ。
中年の冒険者と乾杯したあと、悠のグラスの中のエールが水に変化するイメージを思い浮かべる。一口、飲んでみると水に変化していた。
これで酔わずにすむなと男に酒を奨めながら情報を聞き出す。
「ずいぶん転生者が嫌われているようですね」
「そりゃ、仕事もしねえ。ハーレムを作る。それで貴族様待遇だ、嫌うだろうな」
悠を見ると首を傾げる。
「お前は、働いたら罪になる国から転生してきたんじゃないのか?」
「それは、私がいた国とは違う世界からの転生者ですね。私の国では、働きすぎて死んでしまう病気が流行っているんです」
「ああ、お前は社蓄の生まれ変わりか。ニート様じゃないんだな」
男が同情するように悠を見る。
「そうかもしれませんね」
「社蓄だったら、俺達の仲間だ」
酒臭い息で男は饒舌に語り出す。悠は、男の話を整理して記憶する。
「おーい、こいつは社蓄の転生者だってよ」
男が叫ぶと数人の冒険者が集まってきた。
「死ぬまで働いて、ニート様に税金を支払うんだろ。社蓄は大変だな」
よし、邪神フリージアを討伐しよう。悠は心に固く誓う。
男達は、悠が特権階級のニートではないとわかると、フレンドリーに話をしてくれた。
フリージア神聖王国には転生者はいない。大精霊の加護で、転生してきても別の国に行ってしまうのだという。おそらく、この国だけはソフィアが転生者から国を守ってきたのだろう。勇者達は、フリージアの加護を受けて、他の国々に旅立っていったという。
宿も借りることができた。あとは、異世界対策課を始動させてから考えよう。
他のお客の食事代は10万ソフィアだった。
何人かの冒険者達は、
「社蓄に奢らせたら、悪いからよ」
そう言って食事代を支払うといってくれたが、
「今度、仕事で困ったら助けてください」
悠は御礼を言って10万ソフィアを支払った。
宿屋の少女も悠が社蓄とわかると、
「転生前も働き続けていたんでしょう?」
悠に対する口の利き方が優しい口調に変わった。
「無理しないでね」
10万ソフィアを支払いと茶色い髪をした少女は悠が2階の部屋に上がって行く時に声をかけてくれた。
370万ソフィアあれば、4、5ヶ月はこの宿を拠点に王宮に通えばいいと悠は思った。
部屋に戻ると、ルベリアとサルトが、
「一緒に寝るにゃ」
「一緒に寝るぴょん、悠ぴょん」
鍵をかけたドアの向こうで叫んでいたが無視してベッドに横たわる。
「他のお客様に迷惑です」
少女が2人に注意しているのが聞こえた。静かになったので部屋に引き上げたのだろう。
悠は、静かに目を閉じた。




