ねこ
『初めまして』、より『お久しぶり』の方が金茶との出会いの挨拶に相応しい気がした。
暫く床に寝ころんだまま金茶を撫でていると、ベランダから音がする。
寝ころび金茶を撫でたまま後ろにあるベランダを振り返る。と、そこにはベランダの欄干に立つ人影があった。
「良かった、金茶さんが一緒に居てくれたのですね」
その声は吉田さんのものだった。
「薫さんも久しぶりですね」
金茶は目を細めて毛繕いをしながらそう言った。
吉田さんは部屋へ入ってくると、僕の傍に立ち金茶を抱えて僕から引きはがした。
「あ、モフモフが」
寝ころんだまま吉田さんに抱えられ遠ざかっていく金茶に手を伸ばす。
「悠斗さん、先ずは起き上がってください」
雑に左腕を掴まれ、そのまま引っ張り上げられる。
「ずっと床に寝転んでいたから片方の頬が赤くなっているじゃないですか、冷凍庫開けさせてもらいますよ」
僕の返事を聞く前に冷凍庫を開け何かを取り出し、また戻って来た。
「座ってください」
吉田さんに促され、近くのソファに座る。
座った僕を見下ろして満足げに肯き金茶を僕の太腿に乗せる。
「これ、頬に当てておいてください」
吉田さんから渡されたのは保冷剤だった。
「ありがとうございます」
左手で保冷剤を頬に当て、右手で金茶を撫でる。
「少しマズイ事になったかもしれません」
隣に腰掛けた吉田さんが僕と膝の上にいる金茶を見て言った。
「あ、雅様、首に傷が」
僕を見上げた金茶が首の傷に気づく。
すると吉田さんが、ポケットから可愛いキャラクターの描かれた絆創膏を取り出し、首に貼ってくれた。
「ありがとうございます、吉田さんて可愛いものお好きなんですね」
「これは、たまたまですよ、」
歯切れが悪そうに小さく吉田さんは言った。
「そうだ、吉田さんどうしてここに? それによく僕の家分かりましたね。金茶もよく僕の家が分かったね」
よく考えるとおかしな事ばかり起きている。金茶が凄くいいタイミングで現れたのも謎だし、吉田さんも何故ここが分かったのか。
「私は天狗ですので、風から色々な情報を読み取れるのです。悠斗さんが危ない状況にいると風から読み取ったので、駆けつけました。悠斗さんから漏れ出ている妖気を辿れば家なんて簡単に分かります」
「個人情報筒抜けじゃないですか」
妖怪の力は便利だな。
「私は、ずっと雅様の近くにいたので、すぐに危険を察知して登場することが出来ました」
肩の上に乗っている金茶が僕の頭に身体を擦りつけてくる。
「金茶さん、流石ですね」
吉田さんは感心したように肯いている。
「それならもっと早くに出てきてくれれば良かったのに」
「それは、申し訳ありません、だにゃ」
太腿の上に下りてきた金茶は上目遣いでこっちを見てくる。可愛い。
「別に怒ってる訳じゃないよ」
金茶の頭を撫でた。
そんな光景を吉田さんはやれやれ、という目で見ていた。
「そうだ、悠斗さん。お兄様と接触したんですね」
金茶はその言葉に、ぺたりと伏せていた耳はピンと立ち、撫でられて気持ちよさそうに細めていた目には警戒の色を宿し、ゴロゴロと鳴くのを止めた。
「確かに、兄だと名乗る男とは接触しました、僕に兄が居るんですか」
「ええ、悠斗さんにはお兄様が居ます。お兄様も妖怪の九尾の狐です」
「僕とお兄さんの間に何があったらそんなに険悪な仲になるんですか」
吉田さんは、長くなるので簡単に説明します、とこれまでの経緯を教えてくれた。
聞いている間、金茶はずっと僕の太腿の上に居てくれた。
「つまり、すごく簡単に言うと、後継者争いの為に殺し合いを僕と兄でしている、ということですか」
「そうですね」
良かった、上手く理解できたみたいだ。そして最大の疑問をぶつける。
「なんで、僕は記憶を失っているんですか、消されたとかですか」
僕の言葉に二人、いや一人と一匹がゴクリ、と唾をつばを飲み込む声がハッキリと聞こえた。




