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家族との再会

  話が一段落して、始めて珈琲を飲んだ。

 すっかり外は明るくなり、鳥のさえずりが朝を告げている。店内に置いてある振り子時計の大きな針は六時を指していた。

 

 「一回帰るわ、無事雅様が見つかった事だし」


 雷さんが珈琲をグイっと流し込んで席を立つ。


 「また会えますよね?聞きたいこと沢山あるんで」


 「おう、またな」


 雷さんはそう言い残しカフェを後にした。

 

 「それじゃあ、僕も帰ります」


 既に冷めた珈琲を飲み干し、テーブルの端に寄せていた弾丸もポケットに入れて席を立とうとした。


 「悠斗さん、記憶が戻っていない状態の貴方を極力一人にはさせたくないのですが、悠斗さんには悠斗さんの生活がありますからね、これを持っていてください」


 吉田さんから渡されたのは、式神だった。


 「これって、吉田さんと出会った時に拾ったやつですよね。式神、であってますか」


 「ご存じでしたか。式神です。何かあったときはこの式神を私に飛ばしてください。飛ばし方は念じるだけで大丈夫ですから。また来てくださいね」


 吉田さんに礼を言いカフェを後にした。眩しい朝の光と、鳥のさえずり、小川のせせらぎが一気に僕を現実に引き戻す。


 僕が住んでいるアパートは吉田さんのカフェから徒歩十分ほどの場所にある。午前六時、この時間帯外はに出ている人も走っている車も少ない。


 なんだか久しぶりの帰宅に感じるが、実際は一日も経っていない。


 階段を上がり自分の部屋の前へと歩く。扉を開けて部屋に入り、身をベッドへ投げる。


 そこでふと思う。吉田さんと雷さんが言うには、僕は本来の記憶を失っているらしい。


 「本来の記憶って何だ」

 

 まあ考えても仕方ないな、と瞼を閉じる。身体が沈むような感覚に身を委ねた。


 烏の鳴き声で目が覚める。すっかり外は赤く染まっていた。近くにある公園から子供達の楽しそうな声が聞こえてくる。いつもと変わらない日常。


 変わらない日常の筈だった。ポケットに入っている弾丸が今朝の出来事を思い出させ、現実に引き戻してくる。


 今朝からほとんど食べていない。口にしたのは珈琲と飴だけ。腹を満たそうと冷蔵庫を開ける。


 カロリーチャージができるゼリーを手に取りリビングのソファに腰掛ける。


 無心でゼリーを胃に流し込んだ。ゼリーを片手にサンダルを履きベランダに出て外の景色を眺めてみる。


 ゼリーを食べ終え、部屋に戻ろうと片足を引いて体の向きを変えかけた時だった。


 「こんな所に居るとはな」


 異様に冷たい手が肩に置かれる。


 「誰」


 「おお、俺は悲しいよ。実の兄の声も忘れるとはな」


 「僕に兄は居ませんけど」


 「そうだったな、人間の記憶では、確かに兄はいない」


 「何を言いたいんですか」


 「鈍臭い所は変わらないな」


 冷たい手が僕の右頬を撫でる。そこに兄から弟への愛情なんて一切感じられない。

 

 「記憶を消せば俺から逃げられると思ったのか?可愛いな、ほんと」


 冷たい手が首に巻き付いてくる。親指は動脈を圧迫している。長い爪が首に食い込む。


 プツ、と爪が皮膚を破り血が一滴首から垂れる。


 「殺しに、来たの」


 気道が圧迫され、声がうまく出ない。


 「そんなつまらないことしないよ」


 耳元で囁かれた声はゾクリとするほど無機質で冷たい声だった。


 「早く記憶戻してよ、つまんないから」


 ようやく首から手が離れ、ベランダの手すりに掴まり咳き込む。


 人の気配が消え、後ろを振り向くとそこにはもう誰もいなかった。


 足元にひらりと何かが落ちる。取ろうとしてしゃがむと、それは真っ二つに割れた吉田さんから貰った式神だった。


 式神を拾い立ち上がり部屋に入ろうとすると、ガラス窓に何かが反射してキラリと光った。


 「危ない!」


 頭を蹴られて顔を部屋の床に強打し、ドアのレールが鳩尾に食い込む。


 「痛い。昨日からずっと痛い思いばっかりしてるよ」


 床の冷たさを直に感じながら不満を零す。


 「あいつ、雅様を試すような事を」


 「大丈夫ですか、雅様!!咄嗟に蹴飛ばしてしまい申し訳ありません!」


 寝そべる僕の顔を覗いてきたのは、猫だった。丸くて可愛らしい茶トラ猫だ。


 「猫、?」


 猫が喋っている。ゆらゆらと揺れている尻尾をみると、根元から左右に枝分かれしていた。


 「猫又?妖怪なら喋っても不思議じゃないか」


 「本当に記憶を消してしまったのですね、雅様」


 丸い目をうるうると潤ませている姿に申し訳なくなる。


 「ごめんな」


 床に転がったまま猫の頭を撫でる。モフモフの毛の手触りが良くて顔が綻ぶ。


 「雅様、謝らないでくださいよ、またこうして会えたんですから!」


 目を細めて気持ちよさそうに喉を鳴らしている。

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