疑問
僕と金茶と吉田さんの間に沈黙が流れた。
公園から帰る子供たちの声がベランダから入ってくる。
吉田さんが沈黙を破った。
「いえ、記憶は、悠斗さんが自分で」
金茶が心配そうに太腿の上に座りながら、柔らかくて温かい肉球を僕の手の上にそっと置いた。
空いている方の手で金茶の背中を撫でる。撫でることで心を落ち着かせる。
深呼吸をして、吉田さんを見た。
「それって、記憶は戻せるんですか」
吉田さんは、僕から目線を逸らし、また僕に目線を戻した。吉田さんの様子から、答えは分かった気がした。
「吉田さんでも分からないんですね」
「お力になれず、すみません」
吉田さんは深く頭を下げた。膝の上で握られている拳が少し白くなっていた。
「吉田さん、謝らないでください。僕が自分でした事ですし」
「悠斗さん、、」
吉田さんの表情は何処か寂しそうだった。
「吉田さん、何故僕に接触して来たんですか」
これが謎だった。吉田さんは僕に無くした記憶を思い出させようとしているのだろうか、それしか理由が思いつかない。
吉田さんと出会ってから危険な目に遭う事が増えた。
「悠斗さんが、記憶を手放した理由は、分かっているつもりです。ですが、貴方が居なくなると私達の世界は大変なことになってしまう。
悠斗さん、どうかもう一度、私達に力を貸していただけませんか」
吉田さんは、先程よりも深く頭を下げた。金茶も吉田さんの隣に移動して小さい頭を下げた。
「……分かりました」
ここで肯かないと後悔しそうな気がした。
「ありがとうございます……!!」
「雅様……ありがとうございます」
吉田さんと金茶の目が潤っていたのは、気のせいだろうか。
あの後、吉田さんはカフェに戻り、金茶は引き続き僕の傍に居てくれることになった。
「金茶は、ご飯は何食べるの? 妖怪だからチュールとかは食べない?」
妖怪はおどろおどろしい物を食べるのかな、と勝手に想像を膨らませていたが、帰って来たのは普通の答えだった。
「雅様、私は普通の猫と変わらないご飯を食べます! チュールは大好物です」
金茶の目が爛爛としている。二股に分かれている尻尾を除けば、普通の猫と変わらないな。
「近くのホームセンターに買いに行こうかな」
「もちろん私もお供します!雅様にしか姿が見えないようにすることも出来ますよ!」
妖怪はなんでもありだな。
金茶と一緒に家を出て自転車でホームセンターへ向かう。片道五分程で行ける場所にある。
冷たい秋の風が頬を掠める。ハンドルを握る指先が冷たい。
ホームセンターに着き、自転車にきちんと鍵をかけて店内に入る。
店内は暖房が効いていて温かい。冷えた指先と頬がジーンと温かくなる。右肩には金茶が大人しく乗っている。
「金茶が食べたいご飯選んで良いよ」
「有難うございます、雅様!」
金茶は選ぶのが早かった。
「これとこれとこれ、あとこれが良いです!」
金茶のご飯を入れた買い物かごはまあまあ重い。トイレと猫砂も必要なのかな。
「金茶、トイレはもちろんするよね、?」
申し訳なさげに聞く。
「もちろんですよ、雅様は妖怪の事を何だと思ってるんですかにゃ……」
ごめんごめん、と軽く流して猫砂とトイレをかごに入れようとしたが、大きさ的に入らず手に持ち会計を済ませて店を出た。
外の温度は、来た時よりも冷えていた。
自転車のかごにご飯とトイレ、猫砂を入れて、金茶は肩に乗せ自転車をこいで帰る。
かごに重さが加わって、自転車が少しふらつく。
アパートの駐輪場に自転車を停め、かごからご飯とトイレ、猫砂を取り出して階段を上がる。
すっかり空は暗くなっていた。星が綺麗に見えた。




