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【5】

 「呼びましたか?」

 聞き覚えのある声が上から降りてくる。

「吉田さん......⁉」

 まさかの吉田さんが空から魔法使いの様に僕の隣に降り立つ。

 吉田さんが空から降りてきたことにはあまり驚かなかった。

 吉田さんは僕の身体に着いた血痕を見て何があったのか大方理解したみたいだった。

「私の後ろにいてください」

 吉田さんは僕を背に庇う様にして男を呼び止める。



「貴方は、何者ですか」

 その言葉に男がゆっくり振り返る。

「俺もあんたが何者なのか聞きたいぜ」

 少し空気が重くなった感じがした。

「確かに、私から名乗った方が良いですね。ここより落ち着いて話ができる場所に行きませんか」

「そうだな」

「ありがとうございます。私に着いてきてください」



 先頭に吉田さん、その後ろに僕、少し離れて男という順で歩き出す。

 道中無言で黙々と吉田さんに着いていく。

 体感五分ほど歩いた頃だろうか、見覚えのある建物が見えてくる。吉田さんのカフェだった。

 カフェの前まで来ると、吉田さんが鍵を取り出し扉を開錠する。

「ここに座って待っていてください」

 吉田さんは男にそう言い、僕の方を向く。

「そのままでは気持ち悪いでしょうから、奥にあるシャワールームで身体を洗ってきてください」

 何故か予めカウンターに置いてあった着替えを僕に持たせてシャワールームを指差す。

「悠斗さんは珈琲で良いですね」

「はい」

 頷き、奥にあるシャワールームへと向かう。

 


 脱衣所に入り着ていたシャツと履いていたジーンズを脱ぐ。

 ジーンズは大量に付いた血が固まっていて脱ぎづらい。血の匂いが鼻を掠める。

 

 シャワーで全身を流す。身体に着いた血を綺麗に流してくれる。

 排水溝に身体から流れた血が吸い込まれていくのをただ見ていた。

 死なずに済んでよかったという安堵の気持ち、自分が人間ではないのかもしれないという恐怖の気持ち。

 さっきは気が動転しすぎていて、逆に冷静になっていたのかもしれない。

 少し心が落ち着いてきた今、色々な感情が心の中で渦巻く。

 シャワールームの中で吐き、泣き叫び絶望した。

 だがそれらはすべてシャワーの音にかき消されていった。




 シャワールームの壁に体重を預けるように、背中からもたれかかった。

 背中に感じる壁の冷たさに、自分はしっかり生きているんだ、と分からされた気がした。

 自分がそう思いたかっただけかもしれない。

 もう涙は枯れていた。渇いた笑いが口から零れる。

 このまま絶望や哀しみの気持ちに飲まれる方が楽かもしれないな、なんて考えが頭を過った時だった。

 珈琲の香ばしい匂いがふわっと漂ってくる。

 『そろそろ戻らないと』

 今まで沈んでいた気持ちは何処かへ消え、身体が勝手に吉田さんの元へ戻ろうと動いていた。



 表のカフェに戻ると、丁度吉田さんが珈琲を淹れていた。

「シャワーありがとうございました」

 笑顔を作り、礼を言う。

 この時、僕の眼が腫れていることに吉田さんは気づいていただろうか。

「スッキリした?今コーヒー淹れてるから座って待っててね」

 吉田さんの柔らかな笑みに釣られて顔の筋肉が緩んだ気がした。


 何処に座ろうか、とカフェの中を見渡すと男が窓際のソファ席に座っていた。そこの席は大きめのテーブルがあり、対になるように反対側にもソファが置かれている。最大四人程座れそうな座席だった。

「ここ座ってもいいですか」

 男は無言で頷いた。

 男の真正面に座るのは少し気まずさがあり、対角線上の位置に座る。


「さっきはありがとうございました」

 僕のことを助けたことへの感謝を述べた。

「おう」

 男は礼を言われると思っていなっかったのか、切れ長の目を見開く。

「あ、そうだ。これいるか」

 少しの沈黙の後に男はポケットを探り、テーブルに何かを置いた。

 さっきの弾丸だった。正直欲しくないが、持っていてもらうのは申し訳ないので渋々受け取る。

 受け取った弾丸は、テーブルに備え付けてあるナプキンを二枚ほど貰い、包んでテーブルの端に寄せた。


「お待たせしました」

 吉田さんがトレーから珈琲が入ったカップを取り、僕と男の前に丁寧に置いてくれる。

 吉田さんも自分の分のカップをテーブルに置き、近くの椅子を引っ張ってきて腰を下ろす。

「改めて、私は吉田薫と言います。このカフェのマスターをしています。よろしくお願いします」

 吉田さんが自己紹介の流れを作り、それに続いて僕も簡単な自己紹介をする。

我骸わがかばね悠斗です、よろしくお願いします」

 軽くお辞儀をした。  

「俺は天城雷だ」

 天城雷、そう名乗った男も軽くお辞儀をした。

 

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