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半覚醒

「記憶失くしても、こんだけの術使えるのかよ。恐ろしいわ」


 そう言いながら、雷さんはトーストを頬張っていた。


「なあ、俺達ってさ、妖界にある隠れ拠点が雅の兄貴にバレたから人間界にある吉田のカフェまで来たんだよな。癒麻の事殺しに来たあの男が兄貴の手下なら、このカフェの存在も場所も兄貴に筒抜けになってるんじゃないか」


「源十さん、そこは安心してください」


 吉田さんは立ち上がり、カフェの裏へと姿を消した。


「何してんだあいつ」


 雷さんはコーヒーを飲みながら吉田さんが消えた方向をぼーっと見つめている。


「何か探しに行ったんですかね」


 特に気にせずに、綺麗に小皿に盛り付けられた野菜を食べる。


 野菜を食べ終わり、ヨーグルトにイチゴジャムをかけて食べようとテーブルの中央に置いてあるジャムの瓶に手を伸ばした時だった。


 何かを引きずるような音が、足音と共にこちらへ近づいて来ている。


「吉田⁉ 何持って来たんだよ」


 全員の視線が吉田さんの足元へと向けられる。


 そこには、抵抗もせずにされるがままに右腕を吉田さんに掴まれ、引きずられている昨日の男の姿があった。


「そいつ死んでんのか?」

「いえ、息はしてます」


 吉田さんが男の頬を軽く叩くと、男の瞼がゆっくりと開いた。


「あれ、なんで君がいるんだ?」


 男は焦点が定まらない目で吉田さんを見上げて呟いた。


 まだ意識が半分沈んでいるのだろう。目線を落として床の木目を見ている。


「てか、こいつなんでここに居んの。昨日悠斗が逃がしてやっただろ」


 雷さんの疑問に、吉田さんが答える。


「それが、私にも分からないんです。朝、外に出ようと入口の扉を開けたら、扉の前にこの人が倒れていたんですよ」


「飼い主に捨てられたか?」


 源十さんが男の頬をぺちぺちと叩く。

 男は大人しく頬を叩かれている。

 本当に飼い主に捨てられたのだろうか。この男の飼い主は間違いなく奸だ。あいつならやりかねない。


「こいつどうする、息の根止めるか」


 雷さんは椅子から立ち上がって男の目の前にしゃがみ込み、顔を覗きこんだ。


「放っといても勝手にお陀仏だな」


 興味を失ったのか、また椅子に腰かけて珈琲を飲み始めた。


「雅様、そいつ殺していいですか」


 背後からとてつもない殺気を感じて振り返ると、普段の涼しげな表情からはかけ離れた般若の様な顔をした癒麻さんが立っていた。


 金茶と童はお互いに抱き合って震えている。


 喉の奥から小さな叫び声が漏れた。この人を怒らせては駄目だ、と身震いした。


「勿論です、どうぞ」


 か細い声で応え、身体を半歩ずらして、癒麻さんと男の間にある隔たりを無くした。


 自然と、僕もみんなも目を背けた。


 拳が肌にぶつかる音、骨が折れる音が朝の静かなカフェに響き渡った。


 男の力ない呻き声を最後に、再び静寂が訪れた。





****************




 

「それで、俺たちに行く当てはあるのか。吉田のこのカフェも場所が割れた、妖界の拠点は俺が燃やした。雅のアパートも兄貴にバレてる」

「雲外鏡の所に行きましょう」


 吉田さんが手を叩くと、テーブルの上に広げられた食器や調味料を浮かせてキッチンのシンクへと移動させた。


「便利だなそれ」


 雷さんの呟きに僕は頷いた。


「吉田さん、雲外鏡の居場所を知ってるんですか」

「もしかして、奸からの情報か? 間違いなく罠だ」


 奸、という言葉に空気の温度が下がった気がした。


「知っています。それと、情報源はあの方ではありません。ご本人です」

「本人?」


 その時、入口ドアが静かに開けられた。


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