謝罪
源十さんが僕の返事を聞いて微笑む顔はどこか寂しそうに見えた。
************
「癒麻さん、もう体の方は大丈夫なんですか」
あの男との一件から一週間が過ぎた日の朝、吉田さんのカフェの裏にある部屋で本を読んでいると、癒麻さんが部屋を訪ねて来たのだ。
「大丈夫です。雅様、本当に申し訳ありません。拷問でも、なんでも受け入れます」
癒麻さんは、扉の前に膝をつき、深く頭を垂れた。
「癒麻さん、頭上げてください!! そんな、拷問なんてしませんよ!!」
顔の前で両手を振り、必死に否定する。
記憶がなくなる前の僕が、拷問を好んでやる残虐なヤバい奴だった可能性が浮かんで来て地味にショックを受けた。
「いえ、拷問なんかでは足りません、切腹します」
どこに忍ばせていたのか、癒麻さんは短刀を取り出し鞘から刀身を抜いた。
僕の青ざめた顔が、刀身に写っている。
「ちょ、ちょっと何してるんですか!! 命大事に!!」
癒麻さんの手から短刀を奪おうと一歩踏み出した時、廊下に笑い声が響き、癒麻さんの背後から現れた手が癒麻さんから短刀を奪った。
「おい、癒麻あんまり雅の事驚かせるなよ、あいつ唇まで真っ白になってるぞ」
現れたのは源十さんだった。扉の後ろから金茶と童もひょっこりと顔を出している。
「私も心臓止まるかと思いましたニャ」
「そうですよ、癒麻様命大事にですよ」
一人と一匹も、顔が青ざめている。
「今回の事は、癒麻さんは何も悪くありませんよ。なので、これからもよろしくお願いします」
癒麻さんの前にしゃがんで目線を合わせ、手を差し出した。
「ありがとうございます……この身、雅様に捧げます」
癒麻さんは僕の手を取り、はにかんで笑った。
「なあ、こんな朝早くから何してんだ?」
目を擦り欠伸をしながら雷さんが廊下から顔を出している。
「う~ん、仲直り?」
源十さんが軽く返す。
「まあ、仲直りが成功したみたいで良かった。てか癒麻、誰もお前の事責めやしないからな」
「ありがとう」
癒麻さんの頬に一筋、涙が光った。
朝の柔らかな光が、この場に居る全員を包み込むように窓から差し込んでいた。
朝食の準備ができたと知らせに来てくれた吉田さんも、目の前に広がる光景を見てから、僕の方を見て微笑んでいた。
表のカフェに全員で移動して、各々好きな席に腰掛けた。
自然と一か所に纏まっていた。
吉田さんが用意してくれた朝食を、それぞれ運んで自分の席に着く。
金茶は器用に二足歩行で、前脚で朝食が載ったお盆を運んで、金茶専用の少し高さのある椅子に座っていた。
「あれ、すっかり忘れてたんだけど、解術の件ってどうなったんだ」
源十さんがぽろっと零した一言に、頭から血が引いていくのが分かった。
全員食べる手を止めて固まっている。
「お、おい悠斗……解術してないよ、な?」
油の切れた機械の様に、ぎこちない動きで振り返った雷さんの瞳が僕を見つめている。
そして僕もぎこちなく首をゆっくりと縦に振った。
「それは大丈夫だよ、ほら、綺麗に文字が消えてる」
癒麻さんに言われて気づいた。
本当に綺麗に消えている。
「いや、待て。癒麻、少し触るぞ」
源十さんは椅子から腰を上げて、向かいに座る癒麻さんの顔に手から出した青白い炎を押し付けた。
癒麻さんも、目を閉じて受け入れている。どうやら痛さも熱さも無いみたいでホッとする。
暫くして源十さんが手を離すと、癒麻さんの顔にはびっしりと文字が浮かんでいた。僕が解術しなければいけないみたいだ。
「僕なら、出来るんですよね」
正直言って、解術の仕方なんて分からない。けれどあの男とやり合った時は、身体が勝手に動いていた。術を出した時も、自然と出た。
「やってみます」
席から立ち、座っている癒麻さんの前にしゃがんで文字がビッシリと浮かんでいる所に右手を近づけた。
すると、右手に強烈な痛みが走った。
まるで掌を焼かれているような痛みに額から嫌な汗が流れてくる。
痛みに耐え続けていると、掌から痛みが引いてきた。癒麻さんの顔を見ると今度こそは綺麗に文字が消えていた。
少しでも良いなと思っていただけたら、評価・ブックマークお願いします!




