真の力
「痛いとかそれどころじゃねえだろ!! おい、悠斗!! 早く解術してくれよ!! 癒麻が、あいつが死んじまう!!」
雷さんの言葉で立ち上がり癒麻さんの方へと駆け出した。
地面に座り込んでいる癒麻さんの額からは勢いよく血が噴き出していて、意識ももうないのか、今にも頭から地面に倒れそうになっていた。
「癒麻さんっっ!!」
癒麻さん、目を覚ましてくれ、あのままでは死んでしまう。
すると、僕の声に応えるように癒麻さんの瞼が薄っすら開き、光が消えかけている瞳が僕を捉えると、泣きそうな顔で微笑みながら、ごめん、と唇が動いて、ガクンと首が垂れた。
「殺すっっ!!」
走っていた足は止めずに、くるりと方向転換して男へと向かっていく。
「あはは、怒った? でも、今の君に何が出来るの? 僕に向かってきてるけど、それ自爆しに来てるのと同じだよ」
男はくるくると指先で髪の毛をいじっている。
僕の事は眼中にないらしい。残念、それが命取りになるのに。
「悠斗止まれっっ!!」
「雅!!」
「悠斗さんっっ!!」
みんなの呼ぶ声を無視して、男へと一直線に走る。
みんなには、僕が何も考えずに、怒りだけで男へと突っ走っているように見えているのだろう。
僕は自ら死にに行くような真似はしない。
あんな男如きにくれてやる僕の命なんてない。
「君、居ても何も出来ないんだから少し寝てなよ?」
男は、近づいて来た僕へ、渇いた笑い声を漏らしながら懐から
櫛を一個取り出し、尖った方を振りかざしてきた。
アイスピックくらい尖っている先が刺さったら、寝る、では済まない気がするが。
眼前まで櫛の先端が迫ってきたところで、素早く身を捻らせて男の攻撃を躱した。
「もっと僕を楽しませてくれ」
今目の前に居る男には手加減なんてしなくていい、欲望のままに、本能のままに、命を奪ってもいいんだ。
男の髪の毛を片手で掴み、鳩尾に膝蹴りを入れる。
そうだ、忘れていたこの感覚を。ああ、命を削り合う行為はこんなに楽しかったっけ。僕に勝てる妖は居ないと分かっているから、死が迫ってくる状況で興奮と快感を感じてしまうのか、それともただ単にそういう状況が好きなのか。それは僕にも分からないし、どちらでもいい。
「さっきの威勢は何処に行った? 僕の事寝かせてくれるんでしょ?」
体勢を崩して口から血を流している男が笑い声を漏らした。
「なるほどね、さっきまでは猫被ってたって事かよ。本気出した我骸の弟と戦えるなんて光栄だなあ」
「本気なんて出すまでもないよ」
体勢を戻した男は、懐から更に櫛を二本取り出し、合計三個の櫛を僕の首めがけて投げ飛ばしてきた。
この速さは避けられないだろう。
僕じゃなければ。
左手で三本の櫛を掴み、男へと投げ返した。三本の櫛は男の首の両脇、そして股下にまるで見えない壁に刺さっているかのように動きを止めた。
「何をした、今の一瞬で何を」
男は不自然に止まっている櫛を取ろうと右腕を動かそうとしているが無駄だ。
僕は櫛で男の動きを縛ったのだから。
「下手に動くと、千切れるよ、体」
男はピタリと動きを止めた。あの余裕そうな態度は見る影もない。
「一つ聞きたいんだけど、貴方の飼い主は誰? 奸? 」
「教えるわけないじゃん? 死にたくないからね」
「まあ、誰か分かったから良いけど」
男から目線を外して、癒麻さんの方を見ると、雷さんと童、金茶達が傍に付いてくれている。
吉田さんと源十さんは、いつの間にか僕の後ろに立っていた。
「おい、雅、その力使えてるってことは……記憶戻ったのか?」
「悠斗さん……ではなく今は雅さん、ですか」
「ううん、僕は悠斗だよ。ごめん、どうしてか力は戻ったみたいだけど、記憶はまだ……」
「そうか、別に謝る事じゃない。それより、こいつどうするんだ」
源十さんが親指で男を指す。
「悠斗さん、癒麻さんは無事だそうです」
吉田さんの言葉に、肩の力が抜けた。あの男が癒麻さんを殺したのなら、僕もあの男を殺そうと思っていたけど、その必要は無くなったみたいだ。
「逃がします。拘束しても僕たちが欲しい情報は得られないと思うので。命拾いしたな、さっさとご主人様の所に帰れ」
男の目をじっくりと見つめ、動きを縛っていた術を解いた。
「くそ、覚えてろよ、我骸の弟!!」
捨て台詞を吐いて去っていった男の背中を見送る。
「その口の悪さは相変わらずなんだな」
「記憶が無くなっても、根っこの部分は簡単には変わりませんから」




