解術の方法
「うーん、失敗。やっぱり禁術って難しいなー」
男は癒麻さんの顔に手を押し当てたまま、大げさに項垂れた。
と思えば、急に立ち上がりスタスタと真剣な面持ちで僕の方へ歩いてくる。
先程、男に自分の血を舐められ、さらに美味しいと感想を貰ったことを思い出し、背筋がぞくりとした。一歩後退り、手に持っていた本を顔の前に持ち盾にする。
「おい、吸血鬼、こっちに来るな」
源十さんが僕の前に立ち、広い背中で守ってくれた。
「そうだ、来んな変態」
雷さんも来てくれた。
二人の大きい背中の安心感が凄い。
「ちょっと邪魔しないで、そこの大男二人に用は無いから。後ろの雅様に用事があるの」
「尚更退く訳ない」
「それ以上近づくな」
「つまんないの、ちょっとお話したいだけなのに」
「この距離からでも出来るが」
「ちぇ、正論つまらない」
男は欠伸をし、両手を空に向かって伸ばすと、懐から持ち手が鋭く尖っている折り畳み式の櫛を取り出し、艶のある手入れされた前髪を梳かし始めた。
そして男は満足したのか、頷きながら、癒麻さんに向かって櫛を投げた。
――グシュッ
櫛が、癒麻さんの額を突き刺し、血が噴き出す。
「やった、一発で決まった」
男は癒麻さんの元に行き、力なく項垂れている癒麻さんの髪の毛を掴み顔を上げさせた。癒麻さんの顔からは生気が全く感じられず、目の焦点も合っていない。額に櫛が刺さったら絶対に痛いはずなのに、何も反応が無い。
「おい、癒麻!! 目ぇ覚ませよ!!」
雷さんの声も全く届いていないみたいだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
癒麻さんが口を開いたかと思えば、温度のない声で謝罪の言葉を繰り返し、目から涙が一粒地面に落ちた。
「僕の禁術が不完全だったから、精神がいかれちゃったのかな、要改善だね」
禁術によって精神が壊されてしまったら、もう元に戻す術はないのだろうか。
抱えていた禁術に関する記載があった本を捲り、先程の角が折られたページを探し出し、禁術で受けた影響を消す方法が書いていないか、頭と目をフル回転させて大量の文字を読み込んでいく。
そして、見つけた。禁術を解術し、尚且つ影響を消すには、禁術を掛けた人物の妖力より、解術する人物の妖力が強い事が大前提だと、そう記されている。
だけれど、今の僕は確実にあの男より妖力が弱い、というより、妖力が無い。
禁術が扱えるのは、僕と奸だけだと聞いたが、同じく解術も僕と奸しか出来ないのだろうか。
「ちょっと、良いですか」
近くに居た雷さん、源十さん、金茶、童の耳を借りる。
超小声で、先程本から探し出した解術の事を伝えた。
「ねえ、何話してるの、僕も聞きたい、仲間外れとかつまんないよ」
「私もですよ、私がお話し相手になりますよ」
一人離れた場所に居る吉田さんが、男の意識をこちらから逸らしてくれた。
吉田さん、ありがとうございます、そしてごめんなさい。
心の中で吉田さんに感謝と謝罪をする。
「今のところ、あいつの妖力がどの程度か分からないから、何とも言えないな。一つだけわかるのは、あいつが本当に術を掛けた本人だっていうなら、この場に居る誰も、あいつの妖力に届かない」
「あいつが言ってることが本当なら、癒麻はもう元に戻らねえのかよ」
「そんな……癒麻さんの今の姿、とても見てられないですニャ」
「待ってください、皆さん」
童の瞳が僕を捉えている。
「童、どうした」
源十さんの言葉に、童が口を開いた。
「ここに、雅様が居るではないですか」




