引っ越し
「雲外鏡って何ですか、それも妖怪ですか」
吉田さんの天狗も、雷さんの雷獣も、妖怪をあまり知らない僕でも名前は聞いたことくらいあったが、『うんがいきょう』は初めて聞いた。
「妖怪だぜ。雲外鏡に遭いに行く前に、一つ問題がある」
「ここが、雅の兄貴に見つかった、だろ?」
源十さんが体の前で両腕を組み難しい顔をして言った。
「そうだ、だからもう此処は使えない、源十、頼んだ」
雷さんの言葉に、源十は静かに頷いた。
今のやり取りで、雷さんと源十さんは何を共有したのか、全く分からなかった。
「それは任せろ。けど、次の拠点はどうする」
此処はもう使えない、なら、僕のアパートはどうだろうか。
広さは無いが、妖界から離れている人間界にあるし、それに、次の拠点に使える他の場所が思いつかない。
「僕のアパートはどうでしょうか」
小さく挙手をして、提案した。
「駄目だ、悠斗のアパートもあいつに場所が知られてる」
そうだった、奸は僕のアパートに来てたな。
「あの、私が人間界で経営しているカフェはどうでしょうか。あそこはあの方には知られていない筈です」
「良いのか、吉田さん」
「はい、勿論」
「ありがとう」
源十さんは吉田さんに深く頭を下げた。
僕も、吉田さんに頭を下げた。
「私に出来ることは何でもします。この身を捧げると誓ったからには」
扉に半身の体重を預けて立っていた雷さんが、両手をパン、と叩いた。
「よし、各自大事なもん両腕に抱えて、十分後に外に集合だ、遅れんな」
雷さんの言葉に、それぞれ動き始めた。。
僕も自室へ向かって廊下を歩きながら、何を持っていくか考えていた。
何か持っていくって言っても、雅だった頃の僕が何を大切にしていたのか分からない。
自室の扉を開け、先ずは机の引き出しを開ける。
引き出しの中には、文房具、中に苺味の飴だけ大量に入っているポーチ、伊達メガネ……、ポーチと伊達メガネだけ持っていこう。
それと、机の上に積まれていた二冊の本、クローゼットに入ってる三着の服全部。さすがに腕には抱えきれないから、クローゼットに入っていた大きめの鞄に押し込んだ。
元々この部屋には物が少ないし、持っていくべきものは、この鞄に入っていると思う、多分。
自室に別れを告げる為に、扉に軽く一礼して、玄関に向かうために扉に背を向けた。そこで、数時間前にテラスで本を読み、そのままベンチに置いて行った一冊の本を思い出した。
テラスへ行きその本も回収して鞄に押し込み、玄関に向かった。
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