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雲外鏡

「なんだよ、急に」

「そういえば、皆さんに見てもらいたい物があるんです、少し待っててください」


 自分の部屋に、三日前に見つけた手紙を取りに行こうと、廊下へ出て歩き出した時だった。


「待て、今お前を一人にしておくのは心配だから、俺も付いてく」


 雷さんが僕を追いかけて来て、隣に並んだ。


「雷さん、ありがとうございます」

「……おう」

 

 自室へ着いて、机の引き出しを開け、奥にしまっておいた封書を取り出した。


「それか、見てもらいたいものって」

「はい」


 医務室に戻ると、吉田さんと源十、童、癒麻さんが談笑していた。僕はてっきり、葬式みたいな空気が流れているかと思った。

 吉田さんも、笑えている。良かった。

 


「お待たせしました、見せたかったのはこの手紙です」


 封書を顔の高さまで掲げた。 

 入口に立ったまま、封を開け、中の手紙を読む。


「この手紙を見つけて、読んでいるのは僕だろう。単刀直入に言うと、僕は近いうちに記憶を消されるだろう。これは避けることが出来ない。僕は自分で記憶を消したりなんてしない。これだけは言い切れる。ごめんね」


 記憶が消える前の、雅としての僕は、こうなる事を分かっていたみたいだった。


「これが偽造されたものじゃないって証明は」


 雷さんが疑問を呈するのも、不思議ではない。

 僕の記憶を消した奴が、これは全て僕がやった事だと、信じ込ませる為に偽造した可能性も考えられる。


「雷、この封蝋に触ってみろ」


 源十さんは何かに気づいたのだろうか。

 雷さんは、疑いながらも、封蝋に指先を触れた。その時だった。

 

「うわっ」


 雷さんの指先を氷が覆い始めた。

 

「雷さん!大丈夫ですか!罠だったんですか!?」


 慌てる僕をよそに、源十さんと雷さんは笑い始めた。罠かもしれないのに、なんで笑ってられるんだ……?


「傑作だな、これで、この手紙は雅が書いた本物だって決まったな」

「っお前……久しぶりにやられたぜ」


 雷さんが、僕を睨んでいた。でも口角は上がっている。

 僕だけがついていけていない……いや、正しくは僕と吉田さんだけ置いてけぼり状態だ。


「今のは、雅が俺達に仕掛けてた悪戯だよ。

あれは本当に指先が凍ったんじゃなくて、そう見せる幻術。久しぶりに見たな、こんな事するのは雅くらいしか居ない」

「わたくしも、時折この悪戯を仕掛けられていました。何が面白かったのか、分かりかねますが」

「私もされましたニャ!」


どうやら、源十と童と金茶にもしょっちゅうこの悪戯をしていたようだ。


「私もですよ、毎回私の反応は薄いのに、それに懲りずに何回も……」


 癒麻さんにもやっていたようだ。

 癒麻さんは、やれやれ、と額を手で押さえ、首を振った。

 

「悠斗さんは、お茶目だったんですね」


 吉田さんが、こちらを微笑ましそうに見ている。そんな温かい眼差しを向けられたら、より恥ずかしくなってしまう。


「……それは、置いといて、次はどうしますか、確か、吉田さんが、手鏡が落ちてた、とか言ってましたよね、それ結構重要な手掛かりだったりしませんか?」


 吉田さんが頷いた。


「はい、かなり重要です。何故、悠斗さんが倒れていた隣に、手鏡があったのかは分かりませんが、手鏡は何かを見ているはずです」


 雷さんが、医務室の入り口へ歩き出した。


「手鏡の事なら、雲外鏡に聞くのが良いだろ」


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