真相
吉田さんを全員で囲むように座った。
「すべての始まりは、私の弟の死でした。私には八歳下の弟が居て、唯一の家族でした。両親は、十四歳の私と六歳の弟を置いて居なくなった。私がここまで生きてこられたのは弟のおかげと言っても過言ではないんです、ですが、弟は殺された。弟は奸様の派閥の部隊に入っていたんです。弟の訃報は、風に乗って流れて来た声から読み取りました。ですが、私は弟の死を受け入れられなかった。ずっと、何日も、弟の帰りを待ち続けました。そして、ある日、待ちわびていた瞬間が来たのです」
吉田さんは続きを話す前に一呼吸おいて、ずっと俯いていた顔を上げて、それから話し出した。
「ずっと待ちわびていた、扉がノックされる瞬間を。私は扉へ走り勢いよく扉を開きました。ですが、そこに居たのは私がずっと待っていた、待ち望んでいた弟では無かった。弟の代わりに、奸様が立っていた」
「おい、吉田、お前はなんでさっきからあんな奴に様を付けるんだよ」
「それは、一応偉い方で僕らよりも立場が上の方ですので、敬称を付けるのは可笑しいことでは無いかと、それに」
吉田さんは口籠りながら僕の方を見た。
「吉田さん、僕もあんな奴大嫌いなので、様何て付けなくていいですよ、名前ですら呼ばなくても良いと思います」
僕の言葉に、吉田さんは今日初めての笑顔を見せてくれた。
「悠斗さんがそう言ってくれるなら、もう名前も呼びませんし様も付けません」
僕の言葉に、吉田さんは今日初めての笑顔を見せてくれた。
吉田さんは咳払いをして、背筋を伸ばして再び話し始めた。
「それで、扉をノックしたのは、私が待ち望んでいた弟ではなく、あの方だったのです。そこで私は直接あの方から、悠斗さんが私の弟を殺したのだと、悠斗さんを殺したいなら手助けしてやる、そう言われたのです。私はその話に乗りました。そして記憶を失くした悠斗さんに接触し、殺す機会を窺っていた。これが全てです」
吉田さんは僕たちに向かって頭を下げた。
「まだ続きがあるんじゃないのか、吉田さん」
口を開いたのは源十さんだった。
「吉田さん、雅を殺そうと思えば何時でも殺せたんじゃないか? 今の雅は只の人間と大して変わりない。簡単には死なないが、吉田さんなら殺せたんじゃないのか?」
「そうですよ、今まで僕を殺せるタイミングなんて、幾らでもあったのに」
吉田さんは、肩を震わせ笑い声を零しながら僕を見た。
「実を言うと、私は、最初からあの方の言葉を全部は信じていませんでした。けれど、復讐するべき相手が分かっただけで、私の心は楽になった。例え、その人が、悠斗さんが弟を殺していなくても。私が悠斗さんを殺さなかった理由は簡単です。悠斗さんは弟を殺していない、そう私の中で確信したからです」
「吉田さん、なぜそう確信したのか、教えてくれ」
源十さんは僕の頭を優しく叩いてから、微笑んだ。
僕は、源十さんの行動の意味が理解できなかった。
「記憶を失っても、根本的な所は変わらないんですよ。私と出会った直後に、悠斗さん、一回殺されましたよね、あの時です。あの時、悠斗さんは一方的に攻撃を受けた。それで確信しました」
「つまり、何が言いたいんだよ」
「弟は必要以上に痛めつけられて殺されていました。こんな殺し方が出来るのは、好戦的で猟奇的な妖でしょう。悠斗さんが弟を殺した妖なら、あそこで一方的にやられるなんて絶対にしない、必ずやり返していたはずです。ですが、悠斗さんはそうしなかった。これが答えです。悠斗さん、貴方は優しすぎる。優しすぎる貴方にあんな殺し方、出来るはずがない。私の弟を殺したのは悠斗さんじゃない、あの方です」




