乗っ取り
「やあ、三日ぶりかな? みんな元気そうで何よりだよ」
直ぐに意識が戻った、と思えば、勝手に口が動いて勝手に言葉が出てくる。口を閉じようとしても、僕の体なのに言う事を聞いてくれない。
「悠斗……じゃないな、意識を乗っ取ったのか、クソ野郎」
「その通り、雅の兄の奸だよ」
「何が目的だよ、意識乗っ取るとか一番質が悪い」
「そうさ、それが私のやり方だからね。さあ、本題に移ろうか。私が可愛い可愛い弟の意識を乗っ取った目的はそこの天狗についてだよ」
僕の瞳が目の前に居る吉田さんを捉えた。僕の意志とは関係なく口の両端が持ち上がり、目が細められる。
「この天狗を使って、雅を殺したかったんだけれどね、そんな簡単にはいかなかった」
「私も、奸様の思惑には気づいていました。こんな奴の思惑通りには動きたくなかった、けれどそんな気持ちよりも悠斗さんを憎しむ気持ちの方が大きかったんです」
「は? 待てよ、なんでお前が悠斗を憎むんだよ」
おそらくこの場に居る奸の意識と吉田さん以外、雷さんと同じ事を思っているだろう。僕もそこが引っ掛かった。
「私がこの天狗に吹き込んだんだよ、『君の弟を殺したのは雅だ』ってね、この天狗、疑いもしなかった」
愉快に笑う僕の声が部屋に響いた。
こいつは何処までも腐ってる。
これ以上勝手に奸に喋らせておきたくない。
「ほんとに……僕はお前の事が大嫌いだ……僕の体から出て行けよ!!」
やっと僕の意志で口を動かし、言葉を発することが出来た。
「私は雅の事が大好きなのに……片思いは辛いね。そんなに出ていってほしいなら雅が追い出せば良いじゃないか」
また勝手に口が動く。
追い出したい。できるならとっくに追い出している。
「まあ、できないか、今はただの人間みたいなものだからね、愉快だ、とても愉快だよ」
降ろしていた左腕がゆっくりと持ち上がり、左手の掌が僕の顔を半分覆う。
止めさせたいけれど、体の主導権は奸に握られている。
「何してやがる!!」
雷さんが一歩こちらへ足を踏み出したのと同時に他のみんなも構え始めた。
「おっと、この体は私の思うままに動かせる。言ってること、分かるよね?」
雷さんは僕を、正確には奸を睨んだまま動けずにいる。
みんなも下手には動けないと、何もせずに見つめている。
「そこで、大切なご主人様が痛みに悶える姿を見ていると良いよ」
言い終わると、顔の半分を覆っていた左手の人差し指が僕の眼球を撫で始めた。目を瞑りたいが、それすら叶わない。
――ぐちゅり
「うわ゛あ゛あ゛あ゛あ!!」
左目に鋭い痛みが走り、視界の左半分が赤く染まる。
眼球が潰された。
咄嗟に左指を目から抜いて、目を抑える。
左の眼球を潰されたのだ。とてつもなく痛い。呼吸が乱れ、浅くなり、上手く息が吸えなくなる。
「まじかよ……!! おい! 癒麻、手ぇ貸せ!!」
「雅様、大丈夫です、落ち着いて下さい」
白衣を着た女性、癒麻と呼ばれていた人が、僕の元へ来て、手を左の眼球に翳すと、痛みが引いてきて、赤く染まっていた視界も、元通りの色鮮やかな視界に戻った。
痛みが引いて呼吸が落ち着いてくる。
「……ありがとうございます、癒麻、さん」
落ち着きを取り戻した僕の様子に、雷さんと癒麻さんが肩の力を抜いたのが分かった。見えてはいないが、他のみんなも緊張が和らいだのを感じ取った。
「良かった、悠斗だな」
「はい、僕です」
そうか、と雷さんは肯いて吉田さんの方へ体を向けた。
「邪魔者は消えた。さあ、続きを詳しく話してもらおうじゃねえか?」




