裏切り者
「はーい、裏切り者のお出ましー」
奸はこれから起こることを楽しむかのように、声高らかに喋った。その声に合わせて布が捲られる。
巨大な檻の中に居たのは、吉田さんだった。
身体を鎖で拘束されていて目や頬は腫れ、口元には血が滲んでいる。
気絶しているのだろうか、吉田さんは力なく項垂れている。
「吉田さんっ」
吉田さんに駆け寄ろうと立ち上がったが、雷さんに止められてしまう。
「裏切り者なんだぞ、俺たちの」
雷さんは眉間にしわを寄せて下唇を噛んでいた。
童は状況が飲み込めていない様だった。
「裏切り者?何言ってるの?」
話を聞いていた奸が不思議そうに呟いた。
「はあ?そいつはお前らの味方だろうが」
雷さんは肩眉を上げ、鋭い眼光で奸を睨んだ。
「味方ぁ?もう味方でも何でもないよ、私を裏切りやがった」
奸は冷めた目で吉田さんを見下ろしている。
「おっと、口が悪くなってしまった」
奸は口元を手で覆い、微笑んだ。
「チッ」
雷さんは奸の演技じみた微笑を見て、気持ち悪いものでも見た様な顔で舌打ちした。
「どーゆーことだよ、起きて説明しろよ」
雷さんは苛立ちながら、吉田さんに声を掛ける。
雷さんの声に反応したのか、吉田さんの瞼がピクリと動いた。
「おい、説明しやがれ」
雷さんは、立ち上がり檻の格子を掴んで吉田さんを問い詰める。
「雷さん、落ち着いて」
雷さんを折から引き離そうとするが、雷さんの格子を掴む力が強くてビクともしない。
「おい、吉田、目ぇ覚めてんだろ?何か言えよ」
「雷さん」
僕は雷さんを宥めようとしたが、雷さんは頭に血が上りきっていて、僕の声なんか聞こえていないようだ。
「悠斗さん、雷さん、すみませんでした……今まで騙していました……」
ぽつり、ぽつり、と吉田さんが言葉を零す。
「最初から、騙してたのかよ」
雷さんの問いかけに、吉田さんは静かに頷いた。
最初から、僕に接触した時から。
「私を置いて楽しまないでよ」
口を尖らせた奸が子供の様に拗ねた声でつぶやいた。
また雷さんは、不快感を露にしている。
奸が右手を掲げると、吉田さんが苦しみ始め、ミシ、と骨が軋む音が聞こえて来た。どうやら奸が首を絞めているみたいだ。自分の手では無く、見えない手で。
「ぐっぁ゛あ……」
吉田さんは段々と白目を剝いて身体から力が抜けていっている。
「止めろよ」
吉田さんの苦しんでいる顔を見たくない。
愉快そうに笑う奸を睨む。
「そんな怖い顔で兄を見ないでおくれよ」
奸はまたわざとらしく、悲しんだ顔を向けて来た。
その時、奸が短い悲鳴を上げてよろめいた。




