座敷童の少女
ひょこっと廊下から現れたのは、おかっぱ頭で前髪は一直線に綺麗に揃えられた赤い上等な着物を着た少女だった。
「童か、無事だったか」
童と呼ばれた少女は、雷さんから目線を僕へと移し、丸い瞳をさらに丸くした。その目線に居心地の悪さを覚えて、軽く会釈をした。
「やはり、雷様の仰る通りなのですね」
童は、眉毛を下げて悲しそうに微笑んだ。
何を思っての表情なのか、少し分かる気がする。
「なあ、俺たちが置かれてる状況がいまいち分かんねえんだけど、結構やばめか?」
「わたくしも、何が起こっているか分からないのです」
今更気づいたが、手は後ろで拘束されたままだ。
雷さんも気づいていない。とにかく混乱している証拠だろう。
「雷さん、手、解いてもらいましょう」
「あ、忘れてた」
童が僕の背中に回り、手首がほんのり温かくなると、拘束が解けて両手に自由が戻った。雷さんも同じように自由になった手を使い大きく伸びをした。
「ありがとうございます」
前をつかつかと歩く小さい背中に向けて感謝を述べる。
「お安い御用ですよ」
こちらを振り返って小さく微笑み、また前を向いた。
この子も妖怪なのだろう、おかっぱ頭で少女の姿をしていて着物を着ている妖怪と言えば、あの有名な座敷童だろうか。
国民的スターに出会えたような感動を覚えた。
「雅様が無事で安心いたしました、本当に良かった」
「お前、ずっと心配してたもんな、コイツの事」
うるさい、と童は雷さんを一睨みした。二人は仲が良いんだろうな、と微笑ましく感じる。
「悠斗、俺とこいつが話してる時いっつもその顔するよな」
雷さんが不思議そうに顔を覗き込んでくる。顔に出てしまっていたようだ。記憶を失う前の僕も、この二人を微笑ましいと思っていたんだろうな、と何処か懐かしいような寂しいような、そんな気持ちに包まれる。
「てか、どこに向かってんの?」
「おっと、俺の後ろに」
雷さんが歩みを止めて後ろを振り返り、僕を背に隠すように移動した。
「雷さん、どうしたんですか」
「おや、まだ座敷童が残っていたとはね」
僕の質問は遮られた。すぐにあいつだと分かった。
声を聴いただけで、腕に鳥肌が立ち、背筋に冷たいものが走る。この絡みつくような喋り方、間の取り方、間違いなくあいつの声だ。記憶が消えてもこの声に対する嫌悪感は消えていないみたいだ。
後ろにいた童も僕を守るように前に出てくる。
雷さんと童は目の前に居るあいつを睨んでいるのに対して、あいつはどこか楽しんでいる様に目を細めて微笑を浮かべている。
「奸様、何かありましたでしょうか」
あいつの目的は多分、僕だろう。童も分かっていてわざと質問している。
「そうだね、これから二人に素晴らしい見世物を見てもらおうと思っていたんだけれど、丁度いい。観客は多いほうが良いからね。着いてきてくれれば何もしないよ」
その言葉を聞いて、雷さんと童が何やら視線で言葉を交わした後に、僕を見て肯いた。おそらく大人しく従った方が良いと判断したのだろう。僕も小さく肯いて雷さんと童と共にあいつの後を着いていく。
後ろを着いていき、案内されたのは僕と雷さんが目を覚ました部屋だった。なるほど、いるはずの観客が居なくなっていて探しに来たのか。逃げてほしくないならもう少しきちんと僕たちを拘束するべきじゃなかったのだろうか。わざと一回逃がしたのか、そもそも逃げられる事を想定していなかったのか。
「さあさあ、座って」
微笑んだまま、僕たちを座らせると手を二回叩いた。
音に合わせて、僕たちの目の前に大きな黒い布が被せられた箱が運び込まれてくる。いや、これは箱じゃなくて、檻みたいだ。床と布の間に空いた僅かな隙間から、鉄格子の様なものがちらりと見える。
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