帰郷
「そいつに話聞きにいかねえと」
立ち上がろうとした雷さんを吉田さんが止めた。
「残念ながら、話を聞くことはできません」
「は、なんでだよ」
「その侍女は行方不明です」
雷さんは天井を見つめて、僕を見る。その顔は何処か笑っている様に見える気がした。
「分かったぜ、全部な」
その言葉に、吉田さんと金茶の目線も雷さんに集まる。
「おい、お前何か隠してるよな」
雷さんの目は吉田さんを捉えていた。その顔には嘲笑を浮かべている。
「本当に今更だが、お前、悠斗の兄貴側の妖怪だろ」
金茶とお互いに視線を交わした。金茶も状況を飲み込めていない様だった。
「雷さん、何を言ってるんですか」
「そうだよ、雷さん、どうしたの?」
「金茶、お前なら分るだろ?」
雷さんの言葉に金茶がどんな反応をするのかと金茶を見ると、また眠りについている。
さっき起きたばかりなのに。
「てめっ……何盛りやがっ」
言い切る前に雷さんは机に突っ伏した。
「すみません、少し眠ってもらいますよ」
吉田さんの言葉に合わせて、頭がぼんやりとしてきた。
瞼が勝手に落ち、僕は眠りについた。
その声が少し震えていたのは、気のせいだろうか。
目を覚ます。右に僕と同じく横たわっている雷さんと目が合う。
目が合うと、雷さんは安心したように眉を上げた。
横たわっている体勢から両腕を使い起き上がろうとするが、後ろで手首を交差させてがっちり拘束されていて、両腕の自由が利かない。
「妖術で拘束されてるから、解けない」
雷さんが、忌々しそうに言う。
それでも、変なプライドに火が付き、何としてでも起きようと身をよじり、脚と腹筋を駆使して上半身を起こすことに成功した。
胡坐を組む形になる。ここから足を崩して、片足に力を入れて立ち上がる。
「まじかよ、お前」
「雷さんも横たわってないで」
「急に辛辣だな」
雷さんも、上手く立ち上がった。
「思い込みって、恐ろしいな」
「ほんとですよ」
金茶が居ない、もうすでに目が覚めて何処かに行ったのだろうか。
無事だと良いのだけれど。
それにしても、ここは何処なのだろうか。
床は板張りで、足裏に冷たさが伝わってくる。開放的な造りの様で、風通しが良い。柔らかい風が僕と雷さんの間を通り抜けていく。
「教科書とか、ドラマで見た昔の日本のお城みたいな造りですね」
「ああ、昔の人間も同じような建物に住んでたが、今は全然違うもんな」
「雷さんて、何年生きてるんですか」
「ざっと、九百年くらい。あれだな、この造りは人間の時代で言うと平安時代の寝殿造りに似てるかもな」
「九百年……」
「お前もそんくらい生きてるからな」
「そっか……僕も、そんなに」
年数に驚きすぎて、後半の話の内容が入ってこなかった。九百年の間の記憶を失った事が、どれほど恐ろしくて孤独な事なのか。
自分事なのに、他人の話を聞いているみたいだ。
「取り敢えず、金茶探すぞ。多分ここはお前が住んでる屋敷だ……だからお前の兄貴も居る、見つかったら厄介だな」
「僕って何者なんです」
「簡単に言えば、とてつもなく位が高い家の子息」
「おお……」
状況がうまく理解できなくて、浅いリアクションをしてしまった。
「それは追々話す、行くぞ」
雷さんが廊下に足を踏み入れた、その時だった。
「雷様、こちらへ」




