手鏡の謎
「でも」
言いかけて、やめた。果たして、これを言っていいのだろうか、これを言ってしまうと、事態がややこしく複雑に絡み合ってしまいそうな気がした。けれど、もう遅かった。言いかけた言葉の続きを催促するような、無言の圧がとても気になる。
「なんだよ、気になるから言えよ」
「悠斗さん、続きをお願いします」
二人は耐えかねたのだろう、圧かけを辞めて、直接言ってきた。
逃げられない、そう理解した。二人の顔を交互に見て、少し間を置いて、言うぞ、と口を開く。
「ほんとに、今更なんですけれど、僕が自分で記憶を消したってことは、その記憶を、この先思い出したくない、封印しておきたい、そう思ったから、の可能性もあり得ますよね」
もし僕が記憶を消す前と同じ考えだったら、仲間と過ごした大切な記憶を消そうと思わないだろう。
でも、そんな僕が記憶を消したなんて、余程の理由があったのかもしれない。
雷さんは、僕の言葉に対して何か言おうと口を動かしていたが、ばつが悪そうに口をつぐんだ。
吉田さんも、痛いところを突かれたみたいに、口を結んで俯いた。
やっぱり、言わない方が良かった。
空気が少し冷えた気がした。秒針の音がやけに大きく聞こえる。
「てかさ、悠斗が自分で記憶を消したって、見てた奴が居るのかよ」
「いえ、実際に見た者はいません。しかし、倒れている悠斗さんの横には、手鏡があったと」
「けど手鏡だけじゃ、悠斗が自分で記憶を消したって納得出来るだけの説得力は無い」
「そうなんですが、その手鏡には、悠斗さんの術が仕掛けられていたと」
雷さんと吉田さんがお互いを見て、顔を顰めている。
その理由は僕には分からない。そもそも手鏡がどんな意味を持っているのかすら分からない。
太腿の左に何か温かいものが当たった。金茶だ。
大きなあくびをしながら、体を伸ばしている。
僕の前で見つめ合っている二人も、起きた金茶に気づいた。
「これはこれは、雷様ではないですか」
僕の横にちょこんと座りなおして、前脚を舐めながら、片目で雷さんを見ている。
「おう、久しぶりだな」
「金茶さんの朝ごはんも持ってきましたよ」
洒落た、使い捨ての紙の弁当箱に魚や、猫用のお菓子、紙カップには猫用のミルクが入っている。
「有難いです、薫さん、頂きます」
机の上に置いたままでは食べづらいだろうと、ちょうどいい高さの椅子を持ってきてソファに座る金茶の前に置いて、そこにご飯を並べた。
「最初に見つけたの、誰だ」
「骸家の侍女です」




