第15話「鱒のランチと燻製」
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「おはよう」
「おはようございます、マスター」
ダンとスオメタルは「始まり」のキスをした。
夜には「終わり」のキスをするだろう。
昨夜は一緒に寝て、今朝一緒に起きた。
ずっとしっかり抱き合って眠っていた。
お互いに身をゆだね、ホッとする時間を共有していた。
「マスター、今日はどうするでございますか?」
「うん、今日も忙しいぞ。朝飯食べたら、畑を見て、ランチの鱒料理の仕込み、同じく鱒を使った燻製づくり諸々をやる。その後ランチ作って、午後も予定がてんこ盛りだ」
「わお! 超忙しそうですけど、面白そうでございますっ!」
「うん、面白いと思うぞ! スオメタルにもいろいろ手順を教えるから」
「わお! スオメタルは頑張っておぼえるでございます。……でも」
「でも?」
「理解はしているでございますが……マスターや私が力を失い難儀する可能性は限りなく低いでございます」
「まあな」
「それなのに何故、アナログレトロなやり方を習得するのに時間をかけるのか……時間は無限ではなく、限られておりますゆえ、もっと有効に使った方が宜しいかと」
「ははは、尤もな疑問と提案だ」
「はい! 例えばですが、マスターが所有する収納の腕輪は、食料は傷まない、破壊されない。それゆえ保存食は一切不要という答えが導き出されるプロセスでございます」
「うん、スオメタルの意見は確かに正論だな。じゃあ、教えようか、答えはふたつある」
「おお、答えはふたつでございますか?」
「ああ、ひとつは俺達が力を失う可能性が、魔道具が使用不能になる可能性が全くのゼロではない事」
「ふむふむ、成る程でございます」
「うん! もうひとつは俺とスオメタルの子供の為だ」
ダンがきっぱりと言い切れば、スオメタルは面白いくらいに動揺する。
「はああっ!? わわわわわ、私とぉ! マ、マスターのぉ! こ、こ、こ、子供の為ぇ!!」
「おいおい、すっげぇ噛んでるぞ」
「うう、マスターがいきなりびっくりさせる事言うでございますから、いけないのですよぉ」
「俺とスオメタルの子に力がない場合、魔法やスキルが使えない場合、魔道具が壊れて使えない場合、それでも幸せに生き抜いて貰う為、アナログレトロなやり方を習得するのさ」
「私達の子に……力がない場合、魔法やスキルが使えない場合、魔道具が壊れて使えない場合、それでも幸せに生き抜いて貰う為、アナログレトロなやり方を習得する……」
「ああ、そうさ! とび抜けた魔法やスキル能力がない普通の人間として生まれた場合、生き抜く知恵を身につけさせるんだ」
「普通の子……私やマスターは普通ではない……という事でございますね。……それは確かに納得でございます」
「おう! だからまず俺達が万全に習得し、使いこなせないと、我が子へは、生き抜く知恵が教授出来ない、話にならないだろ?」
「おお! とても納得でございます! さすがはマスターです! 先の事を! 私達の未来を考えて!」
「そうさ! 頑張ろうぜ、スオメタル、俺達の幸せと未来の為に! 生まれて来る子供達の幸せと未来の為に! お前の本当の身体も、なる早やで絶対に探し出してやるぜ!」
「はいっ、マスター!」
朝一番で、絆を深め合ったダンとスオメタルは……
改めて『おはよう』のキスをしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アップルシナモンジャムとアプリコットジャム、
たっぷりパンにつけ、香りの良い紅茶で朝食を楽しんだふたりは、
早速厨房へ……
まず鱒の下ごしらえを行う。
うろこを取り、尾のつけねからあごの先まで刃を入れる。
エラと内臓を取り出してから、血や臭みが残らないよう、腹の中を丁寧に洗う。
「魔族や獣人は分からんが、俺達人間は、魔境の魚を生で食べるのを絶対避ける事。リスク回避の為には必ず火を通す!」
「了解! 鱒……焼くのでございますか?」
「うん、私見だがポピュラーなのが塩焼き、レモンをかけても美味いし、香草焼きもグッド!」
「わお!」
「フライ、唐揚げ、ムニエルにしてもいける。スープの準備もしておこう!」
「わお! わお! どれもすっごく美味しそうでっす!!」
「よっしゃ! 期待してくれ、スオメタル! 全部作っちゃる! 仕込みが終わったら、燻製の準備だぁ」
「お~!」
ダンの手際は素晴らしかった。
「ちゃちゃっ」と片付けて行く。
スオメタルもダンの一挙手一投足を見逃さぬとばかりに凝視、
魔導回路へ記憶していた。
メモまで取っていた。
鱒ランチの仕込みが無事完了。
ダンとスオメタルは保存食、
つまり鱒の燻製の準備にかかる。
ざっくりと説明すれば、
下ごしらえをした鱒を塩に漬ける。
充分に漬かったら、塩抜きをする。
日陰に干して乾燥させる。
その後、ようやく燻煙……つまり煙でいぶすのである。
こちらもダンは手際よくあっという間に天日干しの処理まで行った。
ここで厨房に戻り、ランチの準備。
焼き、揚げる、煮込むという調理法を自在に使い、どんどん料理を仕上げて行った。
……1時間もかからず、全てのメニューが出そろった。
ダンとスオメタルは嬉々として料理をテーブルに並べて行く。
じゃ~ん!!!
という擬音が聞こえて来そうなテーブル上。
けしてオールではないが、気分は鱒料理オールスターズ!
レモン付き塩焼き、香草焼き、フライ、唐揚げ、ムニエル、そしてスープ。
「「いっただきま~っす!」」
ダンとスオメタルは、まず塩焼きにかぶりつく。
レモンをふってあるから、酸味が効いて美味い!
「うま!」
「激うっま!」
ダンとスオメタルは顔を見合わせ、笑顔で頷いたのである。
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