夢の中 18
「でも、眠っているといっても、うつらうつらとしているだけだから、周囲の様子を感じたりもするわけなんです。この土鈴もうちに来てからは似たようなものたちの間で同じように眠りながら、互いに夢うつつ、会話になっていない会話をぽつりぽつり、していただけだったのに」
<水飲み鳥>が入ってきてから、機嫌が悪いんですよと言いつつ、うーん、と腰を伸ばす。その動きが急に止まるから何かと思ったら、反対側の棚にある梟の置物の埃が気になったらしい。懐から取り出した手拭いでさっと拭うと、どっこいしょ、と爺むさい掛け声を呟きながらこの畳エリアに戻ってくる。そうして、ああ、お茶が冷めましたねと、新しいのをいれてくれた。
自分もひと口啜り、立ち上る湯気の向こうをのぞくようにしばし無言でいて、それからまた語りだす。
「自分は動きたいと思っていても、土鈴だから動けない。昔は中身だけなら池の蛙に混ざって遊べもしたけど、久しくそんなこともない。他の道具たちだって動いたりしない。──螺子を巻かれたり、つつかれたりすれば別ですが」
「……」
一人で店番してるとき、視界の端で何かがかすかに身じろぐようにゆらめいて見えたりするのは何だろう……? 古道具たちの夢? いや、そんなときは俺も夢見てるんだろうな、一人のときってだいたい眠気と戦ってるし、つい負けて居眠ってたり……。
深く考えるのはよそうと意識を戻し、別なのは、古時計たちと張り子の虎や赤べこたちのことですかとたずねてみると、よく出来ました、といったような笑みが返ってくる。
「でも、<水飲み鳥>は何もしないのに動いている。水の入ったコップが必要じゃないか、と我々は思うけれど、土鈴の蛙からするとその水の入ったコップも<水飲み鳥>の一部。濡れた頭から水が蒸発して……なんてことは理解もできないし、とにかく、好きに動いているように見えるんだよ」
「……」
<水飲み鳥>がまたくちばしをコップに突っ込んだ。ほんの一時、水を堪能するみたいに。体内の色付きの液体が一気に下がって起き上がり、再び揺れ始める。その、永久機関にも似た動き。
「呼びかけても、他の道具たちと違って何の反応も無い──性も何も無いのだから当然のことだけれど、それが土鈴の蛙にはわからない。だから、ただ無視されているように感じるんです」
おめぇすげぇなぁ
うごくなんてすげぇなぁ
おれぇ ゆめのなかでうごくくらいでよぉ
なんだぁ ほめてるのによぉ
なにかいえよぉ
おめぇよぉ
おれがうごけないからって
ばかにしてるのけぇ
「返事がない、目もくれない。動く姿を見せびらかしているように見えるのに、そのくせ、自慢そうでもない──自分のことなど眼中に無い」
だから、好意が裏返って妬みになっているのだと小さく微笑う。
「嫌な奴だ、俺らを馬鹿にしてる、お前もそう思うだろう? なんて、周りの道具たちに訴えてたりもしてるわけですが」
そう言って店主は古猫のように目を細める。
「転寝が気持ちよかったり、今見てる夢のほうが楽しかったり、他人に興味がなかったりで、生返事、寝言の返事が返ってくるだけで、誰も自分に同調してくれない。だから余計腹が立つ」
伯父は自分のことを棚に上げて『骨董の声は聞くな、聞こえても知らないふりをしておけ』って言いますけど、聞こえてくるものは仕方ないと思いませんか、とにっこり笑顔で同意を求められたけど……。俺は引き攣った笑みを返すしかなかった。それを見た真久部さんは少しだけ寂しそうな顔をしたけれど、すぐにいつもの読めない笑みに戻る。
「まあ、普段は気にしないんですよ……蛙の土鈴が勝手に煮詰まって、声がしつこくてねえ。配置換えしようかとも思うんですが、どうせあれには他を害する力なんか無いのでね。──うちにある道具たちのほとんどと同じように」
ほとんどって……と慄く俺を軽く無視して言葉を重ねる。
「羨んで、妬んで。独り相撲でしかないけれど、それがまた道具自体に彩りを添える──」
来たときに比べたら、格段に存在感が増しているんだよ、と楽しそうに。
「元気になってきたというか──艶がね、違うんですよ。**はある程度育ってはいたけれど、無気力というか……そう、夢を見失った人みたいな感じ、といえばわかりやすいかな? 眠りの中で見る夢のようにからだを動かしてみたかったけれど、自分の元いたところとは違うし、あれは本当だったのかな、思い違いかもなぁ、と俯いたような気持ちでいた」
「ど、道具もうつむくんですね」
なんとか相槌を打ちつつ、骨董古道具の<声>って、どんなものなのかな、とさらに慄いている。真久部の伯父さんは会話したりもしているようだけど──、甥の真久部さんもやっぱり聞こえてるのか……? 俺には聞こえたりなんかしないよね、そう問いたいけど、意味深な笑みで余計に不安な気持ちにさせられそう……。
「でも、強い感情を抱くようになって、曖昧だったものがはっきりしてきたというのかな。まあ、そんなふうに良い感じになってきたんですよ」
これなら、近いうちに売れそうな気がしますよ、と機嫌よく唇の端を吊り上げる。
毎朝ちみちみ書いたり消したり。
遅くなってしまって、すみません。




